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武器というもの

--武器というもの


 男爵への物理的なお話をしに行く前に武器を仕入れないとな。

 いい相棒になれるのがあればいいんだけど。


 …なんか遠くのほうから嫉妬の気持ちが届いたのは今は無視しよう。


 広場から戻る際にちょうど職人街がある。

 ここで作業場や店を開いているほとんどは人族だが、まれにドワーフ族や、変わり者のエルフなんかが店を開いているところもある。

 何店舗か覗いてはしっくり来るのがなくては店を出ることを繰り返す。

 エルフの店なんかは武器としての質は中くらいだったんだけど全部が魔法武器で一瞬吹いた。

 ドワーフのやっている店で扱ってたものは質実剛健って感じの武器が多く、そもそもがオーダーメイドのものが多いそうだ。

 人族のやってるのは当たり障りもない、可もなく不可もなくといった品揃え。


 そんな中、俺が気になったものがあったのは、職人街で一番でかい店舗。

 ここは人族がやっている店舗なんだけど、そこそこ上物のものばかりが陳列されている、いわゆる上級冒険者向けといった品揃えだ。


 ハルバードかっけぇ。とかこのバトルアクスもてるやついるのか?とかおお、ダマスカス製のフランベルジュとか熱い。とか。


 武器を見ているだけで時間がどんどん過ぎていっていたんだけどな。


 ガラスで出来たカウンターの中に一本の剣があったわけだよ。


 形はまぁよくある幅広剣(ブロードソード)

 剣身の半分は鞘に入れられ先端のほうはわからないが、鞘から出されている剣身の色は漆黒。

 そこだけ絵の具の黒を撒き散らし…いや、違うな。光を反射させる物質というものがないかのような真っ黒。

 そこだけが『無』といえるほどの漆黒。


 そんな剣身が鞘から出されていた。


 目を奪われていた。


 俺が使っていた二本の刀も刀身は黒かったがそれは黒鉄の黒でここまで漆黒なわけではない。


 そして驚くべきことに、解析(アナライズ)も効かない。

 出る情報すべてが『不明』となっているんだわ。


 伝説の魔剣とか言われても驚かないわ、もう。


「この剣が気になりますか?」


 カウンターにかぶりつくように見ていたらしく、向かい側にいる店員に唐突に声をかけられた。

 顔を上げたらすぐ目の前にはその店員の顔。その距離約3cm。


 慌てて後ろに逃げるとつまずいてしりもちをついてしまったのを見て店員がくすくすと笑っている。


 恥ずかしい…


 目の前の店員を見るとその子は女の子だった。

 見た目はそうだな、18歳くらいか。

 こげ茶の髪色でロングヘア。身長は150cmくらいで適度な肉付きな出る所はそれなりに出ている体型。

 十人中九人が可愛いと評価するであろう顔かたちに人見知りしそうにない笑顔。


 腕まくりをしてエプロンをつけて頭巾をかぶっている姿を見ると、小学生の給食係のようにも見えてほっこりする。


「あ、あぁ。すまない。剣に見とれていた」

「みなさんこの剣には見とれるんですよね」


 そういうと店員の子がガラスケースの中から剣を取り出す。

 「持ってみます?」と剣を差し出してくるので軽い気持ちで受け取るとそのまま剣の重みで右手ごと床にたたきつけられた。


 え?


「あー、やっぱりお客さんも駄目でしたか」

「も、ってことはみんなこうなるのか?」


 床に右手を縫い付けられた状態で下から見上げるように問いかけると、店員の子がカウンターから出てきてひょいと剣を回収する。


「そうですね、例外なくみなさんこうなっていますね」

「でも君は…重くないのか?」

「えぇ、私には重くはありません。そうですね、普通の木剣くらいの重さですかね」


 なんだそりゃ…


「使用する人を選ぶらしいんですよね、この剣。でも私、剣術スキルとかないから使うことも出来ないしもったいないですよねぇ」

「うん、ほんともったいない」

「切れ味はいいんですけどねぇ、これ」


 そう苦笑しつつまた鞘にしまい、ガラスケースの中にしまう。


「どうせ買うならいい剣を…って思ってたけどなんかそんな気じゃなくなっちゃったな」

「ですよねー」


 お互い苦笑していると、奥から職人と思われる人が出てくる。


「お、客か。いらっしゃい」

「あ、お邪魔してます」


 軽く頭を下げて挨拶をするとこっちをじろじろ見ているのがわかる。


 あぁ、まだ床に座り込んでいるからか。


「これは失礼」


 床に手をつきよいしょっと立ち上がる。

 その様子を見て、職人の人が「あれ試させたのか?」と受付の子に聞いて、「はい。駄目でしたけど」という返事を聞くとにんまりとする。


「そーか、そーか。おまえさんも洗礼をうけたか」


 笑いながら俺の肩をバシバシとたたく。


「ま、あの剣は無理だ。仕入れたはいいが俺ですら持てない。なぜかこのエンバーだけは普通に持てるんだがな」


 エンバーと言われた受付の子があはは…と苦笑しているが今後もこの剣を持てるやつは出てこないんだろうな。


「で、なんだ。武器を買いに来たのか?目にかなうものはなかったのか」

「あ、いえ。…そうですね。ちょっと手に馴染むものはありませんでした」


 ふむ…と考え込んだ職人が「どんな武器が獲物だ」と聞いてくるので「刀です」と答える。


「カタナか!ガンドルフのところから仕入れたのが一本だけあるぞ」

「あー、懐かしい名前が出てきた。まだあのじーさんは元気?」

「元気も元気。いつもどおり小さい子を追い掛け回してるよ」

「そこまでいつもどおりなのかよ…」


 相変わらずロリコンなのか…

 「ちょっとまってな」といい、裏の部屋から布に包まれた刀の刀身のみを持ってくる。


「まだ鞘や柄はつけてない。銘も打ってない。それでもよければどうだ?」

「ちょっと拝見します」


 黒鉄製の折り返し鍛造。

 波紋の出方から芯はミスリルか。

 長さはひじを折り曲げてもう片方の指先くらいだから90cmくらいか。

 重さは…言うほど重くないな。これなら十分振り回せるだろう。


 悪くない。


「これで問題ありません。使える状態にしてもらうのに時間と金額はどれくらいかかりますか」

「2時間くれれば仕上げる。握りのかたどりをさせてほしい。金額は金貨5枚でどうだ」

「やっぱり高いなぁ…それでいいですよ。お願いします」

「わかった。じゃあ2時間後にまた来てくれ」


 わかりました。と伝えるとすぐに裏へ引っ込んでいってしまった。


「しかしここで刀が手に入るとは」

「よかったですね」

「ほんとにな。武器というのは自分の命を預けるものであり、命を守ってもらうものだ。自分に合わない物を選んでも後にそれは裏切りという形で現れる」

「ですね」

「そういう意味で考えたら嫁さんも同じものなのかもしれないな」


 くっくっくと一人で笑っているとエンバーはそれを見て苦笑をさらに深めた。


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