おい
梅桃さくらの闇の世界に、ようこそ。
ショートホラーの連作、第11回となります。
「おい!」
マキはびくっと肩をすくませる。
まただ。
このアパートに引っ越してきて2週間がたつ。
引っ越したその夜から、この声は始まった。
マキが友達とメールしたり、電話したりしだすと必ず聞こえる、低い男の声。
まるで、マキが他の人間と接触するのをとがめるかのように。
「誰?なに?なにがしたいわけ?」
マキは泣きそうな声で、怒りをこらえきれずに叫んだ。
もう沢山だ。
同じタイミングで声が聞こえるということは、私を「見て」いるということ。
私は一番安らげるはずの自分の家で、私の知らない誰かに見られている・・・
そう思うと気が狂いそうだった。
ピンポン
その時、部屋のチャイムが鳴った。
マキは恐る恐るドアスコープを覗く。
隣の大学生が佇んでいるのがみえた。
引っ越して来た時に挨拶したきりだったが、礼儀正しい大人しそうな印象を持っていたので、
少しホッとして「はーい」と返事をしてドアを開けた。
「あの、大丈夫ですか?」
大学生が小さい声で尋ねてきた。
「え?なにがですか?」
マキが返すと、大学生は顔を真っ赤にして言った。
「いや!すいません!何でもなければいいんです!さっき誰かが叫んでた気がしたから・・・。
ごめんなさい。」
やっぱり小さい声で呟く大学生の言葉に、マキは肩の力が抜けるのが分かった。
「ありがとう。こちらこそごめんなさい。さっきの声、聞こえちゃったんですね。」
マキは安堵から、涙がこぼれるのを止めることが出来なかった。
「あああああ!ごめんなさい。僕が変なこと言ったから。。。」
大学生の反応にマキは思わず噴き出した。
「違うんです。じつは・・」
マキは彼に、引っ越してきてから聞こえる男の声の話をした。
大学生はふんふんうなずきながら聞き終わると、にっこりほほ笑んでいった。
「あー、その声、きっとあれです。」
そう言いながら大学生は隣のビルの鳥かごを指差した。
マキはその中をじっくりと観察する。
ベランダに設置されている大きな鳥かごの中には、大きな、オウム?
「あのオウム、定期的にしゃべるんです。で、一番言う言葉が・・・」
大学生がそう言いかけた時、
「おい!」
とオウムが叫んだ。
マキと大学生は、顔を見合わせて笑った。
「ありがとう。これで安心して暮らせます。」
そう笑うマキに大学生も照れたように笑いながら、右手を出した。
「ショウノ タカアキって言います。よろしく。」
「コバヤシ マキです。改めてよろしく。」
「おい!おい!」
その間も、オウムはずっと言葉を叫び続けていた。
いつも聞いていた声より少し高いような気がするな、とマキがふっと思った時、
マキの携帯が鳴った。
あ、と思った瞬間、タカアキが言った。
「おい!」
オウムってよくしゃべりますよね。
しかも大きいので結構怖いです。