四話 鬼と弥代の再開
今の時間は朝、秋華楼はまだしまっている時間に私は町に来ていた。
目的はいつも通り帰るための情報収集だ、今日も私がこの世界に来た時にボンヤリと立ち尽くしていたらしい場所にきていた。
相変わらず手掛かりもなく大きなため息を吐く
「はぁ・・・どうしようなもう・・・」
「毎日毎日同じ場所にきてため息ばかりはいてるとはな やっぱり弥代は変な女だな」
「何回来ても何も手掛かりがなくて・・・って・・・はぁっ?」
この世界で私の本名を知っている人間なんて胡蝶姉さん以外いないはずなのだが、この声は完全に男の人。驚きのあまり振り返るとそこに居たのは大柄な体格と額に生える二本の角が特徴的な人物、黒い着物を大胆に肌蹴させている。
この人って確かこの前、死にかけていた人というか鬼だ。
確か名前はひいらぎだったような・・・
「なんだ お前 オレの名前忘れたとかぬかすんじゃねぇだろうな」
「・・・・・・」
なんか物言いが完全に私の知る世界のあちら系の人物と同じだ。
要するにガラがとても悪い
ぜひとも関わりたくない、そう決意を胸にして聞こえないふりをしてスタスタと歩く、絡まれたくない・・・マジで!!!
「お前 無視はないんじゃねぇか 弥代」
「・・・・・」
足早に足を進めて逃げようとしている訳だが、となりのガラの悪いお兄さんというか鬼さんは普通に歩いている。くっ・・・これがコンパスの違い・・・・
「おい 弥代」
「・・・・・・」
だが足を止めるという選択肢はない、こんな人と関わったら厄介だしね!!
「弥代 てめぇ」
「・・・・・・・・」
結構しつこいようだ、これはもう不審者と無害な小柄の子供という図になっているはずなのに、町の人たちは眺めるだけだ。酷過ぎる・・・
「弥代 お前聞こえてるだろう」
「・・・」
しかも名前連呼しすぎだしね!
だが足を止めない私に彼は痺れを切らしたらしく足を止める
やっと諦めてくれた!と心の中で感気した
「お前がその気なら俺も遠慮しねぇぜ」
不穏な声が聞こえたかと思うと次の瞬間に私の体は軽々と中に浮いた訳だ。
「はっ!?へっ!?」
訳が分からず変な声を出し、周りを見回すとすぐ横に彼の顔あると言うことはだ、これは確実に荷物抱きされている
「ちょっ!!!止めてもらえますか!!!目立つから!!」
その事実に私は大声を出して暴れるが彼はというとびくともしない。
流石に体格良いだけあると少しだけ関心した。
「お前が逃げなきゃ こんなことしてねぇよ この前のお礼をしてやろうと思ったのにどう言うつもりだ」
ものすごく機嫌悪そうな顔で睨みつけてくる彼に少しばかり怯む。何度も言うが彼はとってもガラが悪いのだ一般人でやばい系統の人と接する事もなかったし、怯むのはしかたないと思う。
「柊さんと一緒に居ると目立つんで本当に止めてください!!」
禿姿でない今の私はつけ毛も化粧も胡蝶姉さんからもらった綺麗な着物を着てないのだ、そう簡単にバレないとは思うがあまりにも目立つと胡蝶姉さんのお客さんに見付かってしまうかもしれない、そうなると番頭さんにふらふら外を出歩き更には普通に会話が出来ることがバレ、さらには客を取らされ、晴れて遊女の仲間入り何ていうヤバい未来が想像出来てしまう辺りが恐ろしい。ぶるりと身震いするが彼はあまり気付いていない様子である。
「目立つ俺と一緒に居られるんだ嬉しいだろう」
自身満々に自分を目立つと言ってしまう彼に私は頭を抱えた、分かっていたが彼は自分が男前だと分かっているようだ。それに今の発言から考えるに彼は最近の少女漫画に一人は居ると思われる俺様である、正直に話そう私は俺様属性男子があまり好きではない、どちらかというと気性穏やかで包容力に溢れる大人な男性が好みである、美系ならば漫画やらテレビで見る分にはそれなりに目の保養にはなるものの実際にいくら美系だとしてもヤバい系の妖怪さんとは関わりたくはない、大きなため息を零す私が見えてないのか彼は私の腕を男らしい手で掴みズカズカと歩き出す、その手から逃れるように自分の手を引っ張るもビクともしない、まぁ分かってたけどね そもそも妖怪と人間じゃ腕力も違うのだ、さらに私は中身25歳だが体系外見は15歳である。今一度私は大きなため息を零した。一方目の前の彼はなぜかとてもご機嫌のようだった。
「あの 柊さん 何処行くんですか?」
私が声を掛けると彼はというと「さっきも言っただろう この前の礼だ お前が欲しいもの買ってやる」との事だった。粗野なイメージだった彼だが意外と律儀な所が有るようだ。
「そんなことしてもらわなくても良いですけど」
ただ傷口に手ぬぐいを巻いただけどそこまでしてもらう訳にはいかないと思い慌てて抗議するも彼は全くもって聞く耳を持としない「お前は俺に礼されてればいいんだよ」とハッキリと言われてしまい私はこれ以上の講義を諦めた。
そして彼に連れられるまま足を進めていると彼がピタリと足を止め暖簾を潜ろうとしたお店に私は唖然とした。そうここはこの花街の花魁や高貴な人しか入れないと言われる装飾品屋である、現代風に言うと高級ブランド店である。たまに胡蝶姉さんに頼まれ禿姿で買い物に来るので言うまでもなく店主とも顔見知りである。入った瞬間、確実にばれて私の人生は終わる!!!
私は慌てて叶わないと分かっていながら手を奪い返そうと完全に女を捨て顔を真っ赤にしながら踏ん張り頑張った、その甲斐あったかは謎だが彼は足を止めてこちら顔を向けた
「何だ 弥代 この店知ってるのか」
知ってるも何も私はこの店のお得意さんだ正しくは胡蝶姉さんがなのだが、今はこの店から一刻も離れたい。
「まぁ 有名ですしね しかもここちょっとしたお礼で来るような店ではないと思います!」
私は必死でお店からジリジリと離れ、やっとこさ装飾品屋の前から離れる。
「なんだ 金の心配ならいらねぇ この店くらいなら安い買い物だからな」
真顔で言い切った彼である。あの店での買い物が安い買い物とか一体何ものなの!?とか思った私だが今は一刻も早くこの店の前から離れたい。
「いえ 本当に大丈夫ですから 私 装飾品とか使う機会もないですし勿体ないです」
「弥代 お前も女だろう 使う機会ないとは寂しい奴だな」
本当に可哀想なものを見るような目をされ私は少しだけ傷ついた、実際のところ禿姿ではない今は高級な装飾品と縁がないのは事実だから仕方ない。
ワザと口を尖らせつつ「どうせ 寂しいやつですよ」とやさぐれながらいうと柊さんが吹き出したかと思うとギュウギュウと頬をつねられた。
「お前 やっぱり面白いな その顔とか最高だな」
絶対に馬鹿にされているのだが、楽しそうに笑いながら私の頬を引っ張る彼の表情は少しだけ幼く正直可愛いと思った、美形とは何もしても許されるのだから羨ましい限りだ。
「ひゃなしてくだひゃい(放してください)」
「何言ってんのか分かんねぇな」
私の抗議に更に笑いだした柊さんだったが私がジトーと冷めた目を向けると手をぱっと離したかと思うと、さらにお腹を抱えて笑っている相当ツボのようだが正直周りの町人さんたちはというと「若いってのはいいもんだな」「仲の良い若夫婦だな」などという言葉やら生暖かい目線に私はいたたまれなくなったのだった。
「いい加減に 笑うのやめてくださいよ」
先ほどよりも冷たい目線をすると彼は私の肩をポンポンと叩きながら笑いを落ち着けようとしていた。私はお笑い芸人か何かですか!?と心の中で突っ込んでおいた。数秒後息がやっと落ち着いてきた柊さんが顔を上げる。
「久しぶりに 笑った」
「それはようございました」
私が冷たくいい捨てるも、まったく気にした様子もないようで非常に嬉しそうだ。
「お前の変な顔も見れたところで装飾品もいらないとかお前は欲しいものとかないのか? これじゃあ礼ができないだろうが」
「何度もいいますけど、お礼とか別にいいですよ」
私の言葉に柊さんが不機嫌そうな顔をしつつ、腕を組む。
「俺がしてぇんだよ おとなしくお礼させろ」
真顔ではっきりと言われた言葉に私はまたため息をはいた、この調子だと彼はお礼を受け入れない限り永遠と引きそうにない。
「分かりました じゃあ あそこのお茶屋でお茶しましよう 柊さんのおごりで」
少し先にあるお茶屋さんを指さしながら柊さんお顔を見ると、彼はありえんの言わんばかりんお顔をしながら「茶だと?それだけか?他にないのか?」と質問攻めである。
「いいんですよ 私 お茶とか外でしたことないんで 新鮮で嬉しいです」
この世界に来てから、私は秋華楼の中で過ごす時間の方が長い 情報収集がてら外に出ることも最近は増えたが基本的には秋華楼の中で胡蝶姉さんの禿として働いているのだ それに外に出たとしても基本は町を走り回り情報収集に奔走しているお茶屋でのんびりすることなどない訳だ。
「はぁ?お前よく町に来てるだろうが、女は甘味が好きだと聞いたが茶屋ぐらい寄らないのか?」
「忙しいんです」
この花街にやってきてから少しの時間はたったのだが、今だに分からないことが多く知りたいことは山のようにある たとえば異世界の人間がここに来ることはよくあることなのか それとも希なのか 元の世界に帰る方法があるかなど分からないことばかりだ。正直に言えば不安だ けど自分だけで解決しなきゃいけないことは分かってる どんどんと悪い方に考えが傾いている自分に思いっきり首を振って考えを消す。
「それより 行きましょう お茶屋!」
少しでも前向きに考えないとね!私は自分に喝を入れて柊さんの手を掴みお茶屋に向けて足を進めた。
自分の脳内会議に忙しかった私は彼の表情が少しだけ違ったことに気付かなかった。
お茶屋さんの暖簾を潜る、和風テイストの世界だけあって元の世界で見た時代劇通りのお茶屋さんだった、机はなく赤い布の被せた横長の椅子が並んでいる。私たちは外がよく見える席を選び横並びに座り、お茶とお団子を頼んだ。運ばれてきたお茶を口に運び飲み込むとホッと息をついたやはり日本人はお茶が好きだよね お団子も甘くて美味しい
秋華楼で胡蝶姉さんと過ごす時間も好きだが、やはり月華でいるあいだは肩肘がはるのだ、弥代として過ごすのが一番気楽だ。柊さんに振り回されているものの弥代として過ごさせてくれてる彼にに少しだけ感謝してみたりもする。
「成り行きではありますが、今日は柊さんと過ごせて良かったです ありがとうございます」
面と向かっていうのは気恥ずかしくて外を眺めながらお礼を言うと「アレだけ俺を無視しといて今さら礼とはな やっぱり 変な女だな」と笑いながら言われてしまった。
「なんか馬鹿にされているような気がしますが」
私は不機嫌そうに声を出すと彼は可笑しそうに笑い「馬鹿にしてねぇよ」と頭をグシャグシャと撫ぜられた。
「そうですか」
絶対に馬鹿にしてるでしょ!という叫びを心の中に収めつつ私はもう一度お茶を飲んだ。
「それよか お前 なんで 毎日毎日 この町に来てんだ?」
その言葉に私はぴたりと手を止めた、まさかここでそのことに尋ねられるとは思いもしなかった、けどこの世界に異世界人がよく来るのかどうか分かるかも知れない。
「私この世界じゃないところから来たんですよね それで帰る方法を探してるんですよ」
彼の顔を見つめながらはっきりと伝えると彼ははぁ!?と言わんばかりに驚いた顔をした。
「ってことは弥代は迷い人ってことじゃねぇか」
「あの その迷い人って よく居るんですか!?」
今の発言から考えるに迷い人という通称があるという事。もしかして良くある事なのだろうか、もしそうなら 他の迷い人に会えば帰る方法がわかるかも知れない そんな期待をしながら彼の返答を待つ。
「いねぇよ にしても迷い人って本当にいたんだな釈迦話かなんかだと思ってたぜ」
彼の発言に私はガクリと肩を落としたのだった、やっぱり人生はそう簡単はいかないな
「ですよね やっぱり 地道に帰る方法探すしかないですね」
「お前 帰る方法 探してたのか」
彼の言葉に私は溜息とともに応えた。
「別に この世界は嫌いじゃないですよ けど その今お世話になってる 人に長い間迷惑をかけるわけにもいかないなと思うんですよ」
胡蝶姉さんは大好きだが、これから先も彼女に迷惑をかけるのは申し訳ない それに今は見た目は16歳だが中身は20歳なのだ お世話に成り続けるのは心が痛い 少しは自立するべきだと思うわけだ 遊女は無理だけどね!
「今住んでるところで世話になりたくねぇのか?だったら俺がお前囲ってやっても いいぜ」
「はい?」
ドヤ顔で言い切った彼に私は開いた口がふさがらなくなった。
「お前 一人ぐらい 囲うくらいの甲斐性はある お前がすき放題贅沢したって問題ねぇし、屋敷の部屋も山ほど空いてるしな」
いやいやいやないないないない
あちら系の見た目をした妖怪さんの囲うとか不穏な感じしかしないし全力で遠慮させもらいたい、それにそもそも柊さんって何者!?屋敷とか好き放題贅沢言っちゃってるし、すごく気なるが踏み込んではいけない感じがする。
「だっ大丈夫ですから」
「なんだ遠慮するんじぇねぇ 俺に囲われるんだ 嬉しいだろう」
どこまで俺様なんだこの人!
「いや本当に大丈夫ですから!!」
首をブンブン振って全力でお断りしていると、聞き慣れた鐘が鳴り響いた回数は3回。ということは胡蝶姉さんの準備のお手伝いする時間まで後少しということだ、話が訳のわからない方向に進んでいる今としては何ともナイスタイミングである。私は慌ててお茶を飲み干し立ち上がる。
「そろそろ帰らなきゃいけないんですみません 今日はありがとうございました 柊さん」
私は頭を下げ全力で逃げた。
「てめぇ 弥代 話は終わってねぇぞ」
「そっその話はまた今度しましょう!」
本当は全力で忘れて欲しいけどね!
私は秋華楼までの道のりを急ぐ。