二話 弥代と鬼
昨日の出来事もあり、私はどっと疲れていた。美しい男の人というか妖怪の相手があそこまで精神力を使うとは思わなかった、大きなため息を吐きながら街を歩く。
実は秋華楼出て、着物やかつらを外してからならば現実世界へ帰るための情報収集に出掛けてもいいと胡蝶姉さんから許しを貰っている。
番頭さんに絶対に見付からないようにという条件が付いているけど
今日は情報収集に街に出ているが簡単に手掛かりが見つかる訳もなく一通り街を歩き回ってから秋華楼へ戻るために歩いてた時に見つけたのが地面にポツポツと落ちる赤い痕だ。
こっこれって血!??
なぜ床に落ちているのかと本気で焦ってくる。
えっ殺人事件!??
あたふたとしているものの周りも町人達は面倒事はごめんだと言わんばかりに見て見ぬふりを決め込んでいる。私はというと出身が現代日本という事もあり無視する事も出来ずその血の痕を追いながら進む。その先には大きな木にもたれ掛る人影があった。
荒い息をしながら目をつむる男の額からはツノが2本生えているそして、燃え盛る炎のような深紅の髪と切れ長い目を持つ人物がそこには居た。少しだけはだけている黒い着物から見える体は筋肉が付いており男らしい。
えぇとツノといい、この髪色 もしかして彼は鬼?
妖怪が居る世界だ鬼が一人二人居た所で驚く事もないだろうがなぜ彼はこんなこところに居るのだろうか、しかも腕に怪我があるらしく血がひどい。
その姿に恐る恐る近寄りながら小さな声で「大丈夫ですか?」と声を掛けたすると男はすぐに目を開けるが、目だけで人を殺せそうな睨みをきかせながら懐にある刀を手に取り戦闘態勢をとる姿にビクリと体を揺らす。ぶっちゃけ声をかけた事を非常に後悔した。
「手を怪我されてるんですか?」
もう声を掛けてしまったのだ、このまま何もせずに消える訳にもいかない。
「ちっ なんだ 人間の女か 俺に話しかけるんじゃねぇ」
舌打ちをしつつ、私が無害だと分かるとまた荒い息を吐きながら先ほどの同じ場所に座り込んだ。なんだか上から目線が少し気になったが死にかけている人というか妖怪をやっぱりほっておく事は出来ない訳で、懐から手ぬぐいを取り出し決意を込めて男の傍に行きしゃがみ込む。
「おい 女 俺に殺されてぇのか」
相変わらずの鋭い睨みに少し怯みかけたが、血が滴っている腕の傷に手ぬぐいを巻いた。
医療の心得なんてものはないから治療なんてできないが、止血ぐらいにはなるだろう。
「・・・・・・・」
腕を見つめながらきつく手ぬぐいを結んでいる時に感じた視線に目を向けると、男と目がばっちりとあった。遠くから見た時もなかなかに男前だと思っていたが近くでみると更に分かる男前度だ。
昨日の東様といいこの鬼といい、高位の妖怪というのは整った顔をしているのものだろうか、ぼんやりとそんなことを思いながらキュッと手ぬぐいを結び終わり慌てて立ち上がる、止血は済んだのだしこのままここに居ても仕方ないしね
「あの これで大丈夫だと思いますので 失礼します」
殺される前にと思いながらダッシュで立ち去ろうとすると鬼のお兄さんが私の腕を掴んだのだ。
やばいやばい 振り向くのが怖いのですが 殺される!?余計な御世話とか言われてやられちゃう!?
ドギマギしながら振り返ると鬼のお兄さんとしっかりと目が合った、瞳もルビーのような赤色をしている。
「おい 人間の女 お前の名前は?」
突然聞かれた名前に少し驚いたが、すぐに答える。
「あの 弥代ですが・・・・」
そう答えるとお兄さんが面白いものを見つけたと言わんばかりにニヤリと笑った。
「そうか 弥代か 俺の名前は柊だ覚えておけ」
鬼のお兄さんの名前は柊と言うらしい。
「どっどうも・・・・」
目を泳がせながら返事をした。
なぜかこの柊という鬼さんに気に入られたようだが、私としてはぜひとももう関わりたくない。