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校長勇者  作者: 一条由吏
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第4話 君臨すれども統治せず

お読み頂きましてありがとうございます。


「それでは、なにもかも嘘だったというのか?」


 アーティスの話によれば、この大陸は、私の前世に住んでいた大陸とは違い、東西南北の4人の魔族と人間のハーフの王が君臨しているというのだ。


 魔族と人間のハーフは、魔性と呼ばれており、人間より圧倒的に強い力と長い寿命を持つが魔族よりは弱く短命だという。しかし、時折、魔族よりも強い力を持つ者が現れるという。それが、魔族の領地に近いこの大陸の支配者として君臨しているらしい。


 以前、言っていた魔族が攻め入るというのは、この支配者が君臨する前の話であり、今では、全くありえない話だというのだ。その支配者は、支配地域の中心部にある本国のみを統治し、その周辺にある人族の国々の統治は、その国の王に任せられているらしいのだ。


 新たに王になったアーティスが、その支配者たる魔性の王に挨拶に行かねばならないと言い出したのである。しかも、その一族総出で挨拶に伺うのがならわしなのだそうで、いっしょに住んでいる私や私の生徒たちに付いてきてほしいのだそうだ。


 嘘でもないが本当でもないというところだろうか。まあ、いろいろゴタゴタとあったし、状況が変わるわけでもないから、訂正し忘れただけなのだろう。


「危険じゃないのか?」


 私は、『不老不死』だから大丈夫だが、生徒たちを危険にさらすわけにはいかない。


「ああ、弱いものに対して優しい王だと聞いているから、危険なことは、無い。」


 アーティスも又聞きのようでこころもとない返事を返してくる。


「皆は、どう思う?」


 この数ヶ月、生徒たちもこの国でその道で一流の人間になるために頑張っている。夏目はあいかわらず大島べったりだが大島は、近衛騎士。まだ見習いだが、将来を嘱望されているようだ。遠山も魔術師としての才能があるらしく、アーティスに教えを請うているようだ。


「そうねえ、偶には違うところにいってみたいわ。真紀子は、どう思う?」


「私は、お姉さまがいるところでしたら、どこでも行きますわよ。」


 まあ、そう言うだろうな。


「私も、見聞を広げるには、丁度いい機会だと思いますね。行って見ましょう。」


 時折、私が護衛として、この国の地方都市に行ってみたりするのだが、どこもさほど違いはなく。特に観光するようなところも無かったのでどこに行ってもつまらなさそうだった。


「アーティス、どうやって行くのだ。『転移』を使うか?」


「そうですね。あの国には、王が結界を張っていると思われますので『転移』を許可なしで使うと騒動になる可能性が高いです。馬車で向かいましょう。急がねばならないわけでもないのでゆっくり行きましょう。3日くらいで到着するはずです。」


・・・・・・・


 私たちの住んでいる国から魔性の王の国までは、2ヶ国ほど人族の国があるが街道周辺は、魔性の王の直轄地で2日ほど進むとそれが見えてきた。


 魔性の王の城だ。どうやら、山の頂にあるようで、遠近感覚が狂っているのでは、ないかと思うほど大きな城だ。その下に王都の町並みがあるのだが、私たちの住んでいる王都の数十倍の大きさを誇る巨大な町並みだ。


 言って見れば人口30万都市から東京・名古屋・大阪といった大都市に行った感覚だろうか。


 その圧倒する大きさがここを統治する王の凄さを物語っていると言っても過言では、ないだろう。アーティスがその城の門で謁見のお願いをするとすんなりと通された。


 ズラズラと並ぶ商人たちの順番を抜かしていくのは、気が引けるが魔性の王といえど、君臨する人族の国をおろそかにはできないのだろう。


 おそらく、謁見の間なのだろう。正面には、少し高い位置に豪奢な椅子が用意してある大きなホールに通される。その場所に敷かれている赤い絨毯の位置に案内されるとそこに座り待つように指示される。


 日本人には、なじみがないが謁見する場合のマナーなどは、事前にアーティスに教えてもらい。私も生徒たちも練習してきている。


 さほど、待つ時間もなく、王が来たことを知らせる声が鳴り響く。私たちは、その場で平身低頭、頭を下げた状態で、王が頭をあげるように指示することを待つ。


「おもてをあげるがよい!」


 顔をあげて、1番に目に入ってきた。王の椅子に座っていたのは、見た目15歳くらいの少年だった。事前にアーティスに王の容姿、特に黄色の髪やとても美しい顔などを聞いていなければ、騙されていると思うところだ。


「東の王におかれまして、謁見させて頂きまして真にありがとうございます。東端の国セナ国国主アーティスでございます。」


 私は、反対したのだが強引に決めてしまったのだ。アーティスの愛情表現の一種なんだろうが。呼びにくいったらありゃしない。


「そうか。やはり、そちが王に付いたか。」


 アーティスは、今の国の筆頭魔術師に就任するときに挨拶に出向いているそうだ。


「はい。ご心配をお掛けし申し訳ありませんでした。」


「あの悪政がもう少し続くようならば、出兵していたところだったぞ。」


 この圧倒的な力を持つ王が出兵してきたら、アーティスごと葬られたに違いない。その意味でも、私の為したことは、間違っていなかったのだ。


「その方たちが、異世界より召喚された者たちか?」


「はい。こちらにいる4人がそうです。」


 少年王の鋭い視線がこちらに向かってくる。なにもかも、見透かされているような気分だ。


「お主も、罪深いことをするものよのう。」


「はっ。」


「人族の王よ。お主の残り寿命もあと数十年と言ったところかの。その少女たちには、一生掛けて償うのだぞ。」


 私は、アーティスのほうに視線を向ける。てっきり、800年も生きてきたアーティスも私のように『不老不死』だと思っていたが、寿命を延ばすなんらかの方法を取っていただけのようだ。


「はっ。」


「だが、隣に居る人間への償いは、どうするのじゃ?」


「同じように、一生掛けて償っていく所存でございますれば。」


「無理じゃな。それでは、償いにならん。」


「どういうことでございますか?」


 アーティスが聞き捨てならないという感じで聞き返す。


「この人間には、『不老不死』の秘術が掛かっておる。おそらく、召喚の際になんらかの力が加わったものと見える。この人間にとっては、お主の一生など泡沫の夢のようなもの。その後の人生を孤独にまみれて生きていかねばならないのだ。」


 アーティスの息を飲む音が聞こえる。


「だから、罪深いと言ったのだ。この始末をどう付けるつもりなのだ。お主が召喚しなければ、短い一生といえど、幸せな人生を歩めたものを・・・歪ませてしもうた。」


 私が考えないようにしていたことを鋭く指摘してくる。さすがにこれまで千年以上で生きてきた王なのだと感心する。


「ぐっ・・・。セナっ。」


 ぐうの音も出ないといった様子のアーティスだ。前世は、恋人だったからと言って安易にかばうこともできない。たしかに、アーティスや私の生徒たちが死んだあとは、この世界で一人ぼっちで生きていかねばならないのだから。


「仕方がないの。俺がもう少し早く決断しておれば、このようなことには、ならなかったかもしれん。そう言った意味では、俺にも責任があろうというもの。その方、俺の元にくるがよい。俺の寿命でも足らないだろうが、まだましであろう。」


「それはっ・・・。」


「なにも、お主たちの時間を全部とりあげようなどとは、思っておらぬよ。そうよのう。数日ごとに国を行き来すればよい。お主たちの寿命の間に、俺の側仕えとしての仕事は、覚えられるだろうぞ。」


 私にとっては、願ってもない話だ。覚悟は、必要だがアーティスの最後を看取ることも許されるだろう。だが、それだけのことをしてもらっても、私に返せるのことは、殆ど何も無いに近い。それでいいのだろうか。


 私が魔性の王に視線を向けると王は頷く。


「もちろん、本人の了解が要るの。お主のように無断でかつ強制をしてもしかたがないからの。これから、説得するから、他の者は、下がるがよい。」


 よほど、堪えたのかアーティスは、何も言わずに下がっていく。


「私は、嫌ですわ。いつも傍にいてほしいのですわ。」


 大島が抗議の声を上げる。私が生徒をこの召喚に巻き込んだのだ。当然、傍に付いていてやるべきだろう。


「それは、かまわぬ。一緒に行き来するがよい。」


 魔性の王は、即断即決する。


 大島もそれで了解したようで、アーティスと一緒に下がっていく。

不老不死の悲しい運命をこんなに短い文章で現せているだろうか。全く先の見えない人生、絶望という悲しい結末しか残されていないのだろうか。


難しいテーマですね。


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さすがにもう書かなくてもいいよね。(祈)

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