第2話 王たちの動機
お読み頂きましてありがとうございます。
メリークリスマス。
コンコン。
「失礼致します。セナさま、夕餉の時間でございます。」
私は、目元の涙を拭う。きっと、泣いていたことが解かってしまう。そうすれば、必ず、家長であるアーティスに伝わってしまうだろう。理由を問われるに違いない。だが、絶対に理由なんて言いたくない。これを治す方法は・・・水魔法か。
私は、目元に手を翳してその呪文を唱える。
「はい。どうぞ。」
私が答えると執事さんが部屋に入ってくる。脇には、若いと言えない女性たちが控えている。これから、掃除でもするのだろうか。
「当家の食事は、正装と決っておりますので着替えをお手伝いさせて頂きます。」
執事さんが壁一面に掛けてあったカーテンを引くとそこには、大量のドレスが吊るされていた。
「セナさまのご身長でしたら、ちょうど良いものがございます。きっとお似合いでございます。」
悪かったな。どうせ、165センチしか無いよ。・・・そうじゃ、なくて。
「ドレス?」
「着たことは、ございませんか?」
「・・・・・・・・・ある。」
誓って言うが私は、変態では無い。セナの中にあらゆる仕立のドレスを着た記憶があっただけだ。脇に控えていた女性たちが引いているような気がする。
「それは、ようございました。この者たちが手伝わせて頂きます。」
記憶の中と同じドレスは、どれも複数の女性たちに手伝って貰わなければ着れないような物ばかりだ。異様な会話なのに執事さんは、平然と話を進めてくる。
「そうじゃない。着たくないんだ。似合う似合わない以前の問題だろう。」
こんなオジサンのドレス姿なんて想像したくもない。
「そうでございますか。仕方がございませんね。では、こちらの燕尾服に着替えて頂けますでしょうか。」
へっ・・・。てっきり、ドレスしか用意してなかったのだと思っていたがあるんだったら、先に出せよ。
「はあ。」
「申し訳ありません。既製服しか用意できませんでした。どのような、お叱りでも頂戴致します。」
違う意味で叱りたいよ。全く。
「ただいま、セミオーダーの物を作らせておりますので、もう少々お待ちを。後日、仕立屋が来ますのでお好きなものをお作りになれます。」
そんな贅沢・・・。
「えっと、そこまでは・・・。」
「いけません。貴方さまは、当家の奥さまになられるお方、それ相応の格好をして頂けませんと。」
結局、奥さまかよ。始めは、からかわれているだけだと思ったがどうやら本気らしい。
執事さんがブリーフから一式置いて、女性たちが執拗に手伝いと言うのを押し問答をしていると・・・。
「なにをしているのかな。楽しそうだね。」
「これは、旦那さま。」
そこには、アーティスが立っていた。また、ややこしいときに・・・。
「お前からも言ってくれよ。着替えるのに手伝いは、いらないって。」
「お前たちは、下がりなさい。」
「はっ。」
執事たちは、そのまま帰っていく。
「どれ、俺が手伝おう。」
一番の危険人物がなにを言っているか!
「だれが手伝わせるかっ!」
無理矢理、私は、アーティスを部屋から追い出す。なんでそうお前嬉しそうなんだよ。
・・・・・・・
着替える前に凄い体力を使用した気がする。這う這うの体で着替えを済ますと扉を開けた。
「綺麗だ。」
どうも、これを言うだけのために、扉の前で待っていたらしい。まあ、覗かなかっただけましか。私は、仕方なくアーティスのエスコートのままに食卓に向かった。そこには、10人は、掛けられるかという大きなテーブルが置いてあり、セッティングされていた。
抵抗するのも空しいので勧められるままにテーブルにつく。アーティスは、向かいの席についた。
「お前は、こっちじゃないのか?」
無駄な抵抗と思うが私は、家長の席辺りを指して言った。
「それは、セナ、君の顔を見れるところがいいからさ。」
つまり食事の間中、アーティスに見つめられるというわけか。しかたがない、できるだけ、食事に集中して、さっさと部屋に戻るか。
だが、そういうわけには、いかなかった。正式なコース料理らしく、少しずつゆっくりと出てくるのだ。会話をしていないと間が持たない。
「つまらないかい?」
決してアーティスと会話するのが嫌なわけじゃない。エスプリが効いている会話を楽しむこともできているのだが。なにせ、アーティスは、セナと喋っているつもりで、それにより私は、セナの記憶と過去の感情に引き摺られそうで怖いのだ。
純粋に会話を楽しめないのだ。
「いや、そんなことは・・・。」
「セナ、いやマルチ、君のことも少しは聞かせてくれるかな。」
そこでようやく、私の名前が呼ばれて少し安心する。そして安心したことに愕然とした。どうやら、この場に居ながら会話もしているのに、仲間はずれな気分を味わっていたらしい。
しかし、私の半生は、とても喋れるようなことは、無い。平穏だった教師生活は、セナと比べると薄っぺらいものだった。
「いや、すまない。」
私が黙り込んでしまうと気遣うようにアーティスが声を掛けてくる。なにか、ここに私が居るのが相応しくない思いに囚われてしまう。
「それよりも、魔族との戦いがあるのか?」
『知識』としての引き出した歴史では、魔獣とは違い魔王が現れるか、人族が戦いを仕掛けないかぎり、滅多に戦いを仕掛けてこない民族らしいのである。まあ、単騎でいたずらに戦いを仕掛けてくる魔族は、居るには居るようだが。
「うーん、あれは・・・。」
いきなり、歯切れが悪くなる。私は、一気に疑問点をぶつけてみる。
「なぜ、この都市には、若い女性たちが居ないのだ?」
この屋敷の女性も王城ですれ違った女性も婆さんというほどでは、無いが決して若くない。屋敷の外でも、殆ど女性を見かけなかったのだ。
「それはな・・」
ん。いつまた出歯亀をされるかと、時折、生徒たちの位置確認をしていたのだが、3人共王城でしばらく生活すると聞いていたのに、3人共バラバラの方向に移動しているのだ。
遠山だけなら、まだしも、あの夏目が大島と別々のところへ行くなんてありえない。
私は、彼女たちの今を知る方法を『知識』から探り出し、目の前に水鏡を貼る。彼女たちは、それぞれ王とその側近たちに連れられどこかに向かっているようだ。大島と遠山は怯えているようだし夏目は身体中で嫌がっていることを表現している。
「これは、どういうことだ。アーティス!」
「それはその・・・。」
アーティスを問い詰めている場合じゃない。とにかく、彼女たちの元へ向かおう。私は、『知識』の中から手段を導き出し、『転移』を使う。
「セナっ!」
傍でアーティスが何かを叫んでいたようだが、置き去りにして飛んだ。
・・・・・・・
「何をしている!」
私は、夏目を引き摺っているハゲの男の進行方向を遮るように降り立つ。
「校長先生!助けて!」
ハゲは、周囲の兵士を盾にして立っていた。
「キサマ、ワシに歯向かうつもりか?」
「それが、どうした?きさまこそ、約束を違えるつもりか?」
「約束、そんなことは、知らん。前々からの約定を元にこの娘を貰っていくだけだ。」
「お願いよ。先生助けて。こんなハゲの愛人になるくらいなら、舌を噛み切って死ぬよ。麗子さまも響子さまもそれぞれのモノにするって、だから、早く!」
私は、即席で魔力腕を10本ほど作り、全力で投げつける。女神が正しく願いを叶えてくれたなら、一切、彼女たちには、当たらないはずだ。
次々と目の前の兵士が潰れていき。ハゲを残すのみとなった。
「お前は、あの魔術師がどうなってもいいのか?」
「あいつの名前を出すんじゃない!」
さっきよりも多くのMPを投入した魔力腕を投げつける。見事にハゲの身体がひしゃげている。殆ど即死だろう。
「先生!先生、怖かった!」
大島は、抵抗できるだろうから、先に遠山だ。私は、再び水鏡を貼り、遠山の様子を探ると今度はあのヒゲジジイに連れられている。必死に抵抗しているようだ。
「夏目!しっかりしろ!泣いている暇は、無い。皆を助けたいだろ。」
「は、はい!」
夏目は、必死で涙を拭い返事をする。
「いい返事だ。」
私は、彼女の頭をなでなでするとその手を掴んで『転移』した。
・・・・・・・
「先生、その魔法は、なんて言うの?」
「おいおい、随分と余裕だな。遠山。ここに置いていっていいか?」
「ちょっとした冗談じゃないのよね。助けて欲しいに決っているのね。」
それでも、余裕のある声だ。この間にも、大島がピンチに陥っているかもしれないというのになんて奴だ。ほんとに放置してやろうか。いやいや、私は教師だ。生徒を助けなければいけない。
「遠山、苦しくないからそのまま、立っていろ!」
目の前には、先ほどの何倍もの兵士たちが居る。魔力腕で一々殺していては、キリがない。後で抗議をされることも見越して、私は、『ウォーター』を唱える。
多量の水が、兵士たちを襲う。放った方向には、階段があるから、大量の水が階下に流れていっただろうが知るもんか。兵士たちは、次々と溺れ死んで行くかそのまま、階下に流されていく。もちろん、あのヒゲジジイもだ。死んでいればいいが、とにかく、遠山の救出が先だ。
「先生!ダメね。もう、濡れちゃったじゃないの。」
遠山が足元を指して言っている。どうやら、魔法の制御から外れて、ただの水になったもので濡れたらしい。
「お前、そんなに置いていってほしいのか?」
「冗談だって、なんで私は濡れなかったの?そんなこと、制御できるのね。」
「そうだ!」
私の魔法や力が彼女たちに効かないことを知られるとやっかいだから、肯定しておく。
再び水鏡を貼ると大島がベッドに連れ込まれているところが写されていた。
「麗子お姉さま!!」「麗子!早くいきましょ。ね。」
何を言っているんだ。お前がのんびりしていたせいだろ。全く。
私は、夏目と遠山の手を掴むと『転移』した。
・・・・・・・
到着したとき、ベッドの上では、複数の兵士たちに押さえつけられた大島の姿があった。そして、その大島に覆いかぶさるあの王の姿が・・・。
「お姉さまっ!!」「麗子!」
私は、その姿を見たとき、思わず目の前が真っ赤になるほどの怒りの衝動が・・・。そして、突然、ゴーっと地鳴りがしたかと思うとその場の皆が立っていられないほどの地震が襲ってきたのだ。
「セナっ!よせ。止めろ。」
いつのまにか来たアーティスに後ろから羽交い絞めにされている。
これは、私が引き起こしているのか?頭が冷えてきたが、どうにもこうにも止められない。
「止まらないんだ。誰か止めてくれ!」
オジサンのドレス姿・・・見たかった?
早くも破滅的チートが発揮されました。このまま、異世界は滅んでしまうのか?次話にご期待ください。
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くりかえしになりますが、小説への文句・抗議は第5話から6話辺りですべての設定が出切ると思いますのでそれ以降にお願い致します。
トホホ、毎回後書きにいるのかな。