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序幕

──雨が降ってきた。


学校の帰り道、突然の出来事だった。先程まではサンサンと太陽が私を照りつけていたというのに。



勿論傘はもっていない。辺りを見渡して見たが雨宿りできそうな場所もない。私はとても憂鬱な気分になった。ただでさえ、雨が降って憂鬱な気分になっているのに。


取り敢えず走って帰ろうと、ずぶ濡れになることは必須だろうが、無いよりマシ程度に学校の鞄を頭の上に乗っけてその場を駆ける。途中、私と同じような境遇に合ってる人が何人かいた。誰もが憂鬱な顔をしていた。


まぁこんな急にどしゃ降りなんて降られたらなぁ、とその人達を見ながら走っていると



「──わぁっ!?」


「おっと」



ドンッとかなりの勢いで誰かにぶつかってしまった。いろんな人を見ていたからなのか、前を良く見ていなかった。私の前方不注意だ。



「あ、あのだいじょ──」


「大丈夫ですか?怪我は無いですか」



とにもかくにもぶつかってしまった人に先に謝ろうとしたが、むしろ心配された。男の声だった。フードで頭を覆っている。髪の毛等はフードで隠れているが、表情は確認できた。男は優しそうな笑みを浮かべていて、その目は不思議と惹き付けられる。



「全く、急に降られたらたまったものじゃあないね。水も滴るなんとか…とか言うけどあの言葉を考えた人は頭がだいぶ愉快な人なんだろうか」


「は、はぁ」



男の人は笑みを浮かべながら私に話しかける。なんだろう、別に話しかけたわけじゃないのに。フランクな人だなぁ。



「雨、か。急に降られちゃうとちょっと鬱陶しいけど基本嫌いじゃないんだよ」


「え?」


「勿論僕は太陽が顔を出してる日の方が好きさ。けど、太陽はよく僕らに顔を見せてくる。たまに雨が降って顔を隠してくれないと大好きな太陽に飽きてしまうんだ、僕ら生き物というのは」


「すみません私、難しい話しは解りません」


「キミも学生だと思うし授業があると思う。けどその授業、同じものがずっと続くと飽きるだろう?それと同じさ」


「…うわぁ」



おっと。

思わず口に出してしまった。この人、あれか?巷で話題の厨二病という奴なんだろうか。話していてとてもめんどくさい、痛々しい。いや、一方的に話しかけられているだけなんだが。



「おっと、無駄話しが過ぎてしまった…早く帰らないと姉さん怒っちゃうな」


「あーそうですか、それは大変ですねー。早く帰らないとそのお姉さんも心配しちゃいますよー?」



思わず口調が適当になってしまう。自分からぶつかっておいて失礼なのだが、こういう人とはあまり関わないほうが良いんだ、そうに決まってる。何より私がめんどくさい。



「うんそうだねそうするよ。心配してくれてありがとう。キミも道中には気を付けて。雨が降ってるから足を滑らせるかもしれないから」


「…御忠告どーも」



ご丁寧に私の心配をしてくれた。なんだろう、やっぱいい人なんだろうか?言葉使いがいちいち厨二チックなのが気になるが。



「…あーそうだ言い忘れてた」



そのフードの男が立ち去ろうと後ろを振り向いたが、そう呟いて、また私に目を合わせる。



「キミはこれからきっと大変な想いをいっぱい経験すりだろう。他人なんかより、深く、深く、ね」


「…は、はいぃ?」



ヤバい、この人遂に電波でも受信しちゃったのか。厨二病末期患者かもしや。



「けど、キミは一人じゃない。本当に辛かったり苦しかったりするのなら友達でも、信用できる何かでもいい、それらと苦しみをわかち合うんだ。苦しみは減りはしないけど、抜け出すきっかけは掴める筈だよ」


「……」



凄いありがたい事を長々と言われた。けど、何故この人それを今言ったのだろうか。別に悩みなんて抱えちゃいないのに。なにこれ、新手の説教なの?



「──ママー、あれなにしてるのー?」


「──きっとあの娘、悪い事をしたのよ。説教ね公開説教という奴かしら」



うわうわうわうわ。周りの人の視線が痛い痛い痛い痛い。なんなの?なんで私が痛い想いしてるの?痛々しいのはこの男の言動だよ?



「うん、まぁ僕からはそれだけ。じゃあ今度こそさようなら。また何処かで逢えるといいね比嘉紅葉(ひがくれは)さん」



そういって今度こそ後ろを向いてその男は歩き出した。ようやく…ようやく解放された。



「あ、そういえば雨で服透けて下着丸見えだよ?」



立ち去り際に男は私にそう言った。…え?下着?



「…!」



バッと上半身を隠す。あの男に言われた通り、下着が丸見えだった。



「殺すっ!殺してやる!」



そう叫んだが男はもう視界から消えていた。どうやら逃げ足は相当速いらしい。



「…はぁー…」



なんというか、とても疲れた。溜め息をはくと同時に空に少しずつ青空が戻ってきた。皮肉にも程がある。なんとも言えないやるせない気持ちを抱えながら上半身を持っていた鞄で隠しながらとぼとぼと帰る道を歩く。



『また何処かで逢えるといいね。比嘉紅葉さん』



「ん?」



さっきの会話の違和感に気付き、思わずその場で立ち止まってしまった。



「…なんでアイツ、私の名前知ってんだ?」



無情にも、時は過ぎ去っていく。

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