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ゾンビとアカツメクサ  作者: くらげ
第二章 夢の中を散歩する親子
8/12

01 手紙と夢

 それは、娘の「手紙を書く!」の一言から始まった。


 「パパがミクの代わりに手紙を書くよ」と言うも、しつこく「手紙を自分で書く」と言い張った娘から、なんとか宛名を書く権利をもぎ取る。


  もちろん5歳児に日本語が書けるわけもなく(英才教育とやらを受けてたらどうか知らないが)、

「パパも面白かったから、パパの感想も入れていいかな?」と言って、封筒に娘の手紙の翻訳文を入れるのを忘れなかった。


 いや、ホラー嫌いの俺としては「スケルトン」の題名がついているだけで、遠慮したいが。


 せっかく、書いた手紙が届かなかったら悲しいだろうと思って、宛名と訳文を書いたのだが、「名前書く」とまた、無理難題を押し付ける娘。


 娘の名前は「美しい空」で「ミク」というのだが、うーんどうやって書かせようかな。漢字は論外。

 とりあえず、画数が少ないほうがいいよな。カーブとかもないほうがいいだろうし。


 少々おかしいが「ミく」と書かせるしかないか?


「よーし、ミク。パパの書いたとおりに書くんだぞ。まず、こう斜めに三本の線を引いて―」


 何度か練習をさせて、それでも不安だった俺は100均に置いている中では一番軟らかい鉛筆の「4B」を買ってきて、封筒の裏に名前を書かせた。鉛筆だったら、失敗しても書き直せるしな。


 一発で、今までで一番マシな字を書いた娘に「めちゃくちゃ綺麗な字だな。白石先生も喜んでくれるよ」って言ったら「パパ、つきやま先生だよ」と返された。


「次は『パパ』って練習しようか?」

「え~。疲れた~」


 はあ。娘が「パパ」って書けるようになる日はいつのことやら。


 ファンレターがいつ頃、届くかわからない。

 チャンスは、おそらく作者がミクの手紙を読んだ夜の一回きりだろう。しばらくは睡眠不足か・・・。


 ☆


「ミク、おいで」


 夢の中の公園で、おばあちゃん(俺の母)にシロツメクサの編み方を教えてもらって花をくちゃくちゃにしていた娘に声をかけた。


『お姫様とスケルトン』だか『スケルトンとお姫様』だかの作者がミクの望む続きを書くとは限らない。

「パパ?」

 娘が小さな頭を傾げる。

 ああ、また髪のせいでろくに父と判別してもらえない。力を使う夢の中では、なぜか髪の毛が真っ黄色になるんだよな。


「白石先生の夢にお邪魔しようか」

「しらやま先生だよ。パパそう言っていつも連れて行ってくれないよ」

 後で確認したら「月山先生」だった。


 娘の夢に入り込むのは簡単だが、顔も見たことのない人間の夢に不法侵入するのは容易ではない。

 普通は相手にお伺いを立てて夢に「訪問」するのだ。

 娘の熱意があれば、家の中には入れなくても、庭で少しの間、遊ばせてくれるかと思ったんだが・・・

 それとも、ここ数日作者の見ている夢が娘が望んでいるものとまったく違ったか・・・


「魔法が飛んできたり怖いお化けが出てきて危ないかもしれないから絶対離れちゃ駄目だよ」

 念のため、そう言い聞かせて、娘の手を引いて歩き始める。


 夢の法則は、人それぞれ違う。

 現実にはできない空を飛ぶという動作も、ある人はボールのように跳ねて空高く飛んだり、背中に生えた翼で飛んだり、雲の上を歩いたり・・・


 楽しいことばかりならいいのだが、たまに落とし穴がある。

 ある夢では膝までの浅くて穏やかな流れの“河”に入った瞬間、息ができなくなり、夜中に飛び起きたことがある。


 実際には、大怪我を負わないにしても、怖い思いをさせるわけにはいかない。


 どんどん進むとやがて―


 “世界”の空気が変わった。


 ☆


「……な……なんで、実写化しているんだよぉ」

「パパ、お顔真っ青だよ」

 森の中で、ゾンビが女の子と出会っている。

 コミカルだった絵本に比べ、“こちら”のゾンビのあまりのリアルさに気分が悪くなる。

 ゾンビを直視しないように気をつけながら、女の子の方だけに目を向ける。

 なんか、女の子の方は、あの絵本に登場したお姫様に似ているぞ。

 ほどなく、ゾンビと少女が数匹の狼の群れに囲まれる。


 視界の端で、雷みたいな玉がゾンビの手の中で光ったのが見えた。

「いたっ!」思いっきり目を見開いて、ゾンビたちを眺めていた娘は光をもろに浴びてしまったようだ。

「大丈夫か?」

 閉じた目の端からは、涙が零れている。ぐずぐず泣いている娘の頭を撫でようとしたとき、光でばらばらに逃げていた狼の一匹がこちらに迫ってきた。


 この世界は、魔法ありの世界のようだが、法則がわからない。

 この世界になじんでいたら使用もできるのだが。


(仕方ない。飛ぶか)


 この世界に自分の世界の法則を無理やり引き入れる。

 自分の背中に羽が生え、力強く羽ばたき空に舞う。散った羽根は大地にたどり着く前に光になって消える。


 これで、明日は頭痛確定だ。


 急に、眠気が押し寄せる。白山 月草先生が完全に脳を休めるノンレム睡眠に入ったのだ。

 娘の目がとろんとする。

「寝たほうがいい」

「いや、眠くないもん」

「もんじゃなくて。今、寝とかないと肝心なところ見れないぞ」

 って、言ったときには、もう娘は目をつぶって、頭をこてりと俺の腕に預けていた。


 自分も一旦寝よう。


 ――そして、世界が眠りに入る。


第二部『夢の中を散歩する親子』開始します。


娘の手紙を手伝い、夢の中までがんばるお父さん。

拍手を送るべきか、「不法侵入だ」と怒るべきか・・・

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