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ゾンビとアカツメクサ  作者: くらげ
第一章 ゾンビとアカツメクサ
7/12

07 目覚め

 

 それから、数年後、一人の男が村に訪れる。

 トリスと名乗ったその男は、平民には珍しく、とても物知りで読み書きや算数ができた。

 トリスがこの村に教師として住みついた一年後ー


「トリス先生にもわからないことあるの?」

 一人の少女が質問をする。トリスは少女の両親をよく知っている。

 深い緑の瞳は母親に、燃えるような赤い髪は父親そっくりの少女に笑顔を向けて答える。

「私にもわからないことはたくさんあるよ。二百年たってもわからなかったことを君のお父さんが教えてくれたんだ」

「二百年ってどれくらいー」

 トリスが答える前に別の子どもが元気いっぱいの声で次々質問する。

「先生、答え見てー」「先生、文字を書いたよ」「先生、結婚いつー」


 一通り、算数の答えあわせや、文字のつづりの指導を終えたトリスに一人の子どもが質問してくる。


「先生。いつもその指輪をつけてるけれど、その花、間違えているよ?」

 恋人同士がシロツメクサの指輪を交換する風習を知っているのだろう。

 シロツメクサの指輪をつけている人は多いがアカツメクサの指輪を作る人もつける人も見たことがない。

 そもそもこの村ではアカツメクサはあまり生えていない。

「アカツメクサというんだ。大切な人たちからもらった大切な指輪だから、こっそり魔法をかけてあるんだよ」

「まほう?」

 この大地から絶えた魔法を説明することは難しいし、誰にも教える気もない。

 首を傾げる子どもにトリスは微笑み……優しく子どもの頭を撫でた。


 ☆


 私、月山 白草はいつの間にか、狭い部屋で子ども数名に囲まれて困っている男を部屋の壁際から眺めていた。

 男も子どもたちも現代日本の服装ではなく、土色のおそらく麻の服を着ている。

 髪や目も綺麗な金髪や青い目だったりする。


「パパ。ゾンビさんはどこに行ったの?死んじゃったの?」


 すぐ近くで子どもの声が聞こえる。声のほうを振り返ると、いつの間にいたのだろう、子どもを抱き上げている男の人と抱っこされている女の子がいた。

 どちらも、中世っぽい服ではなくって、子どもはピンクの生地に熊さんの柄が印刷されているパジャマを着ていて、さらさらの黒髪にまるでオニキスのようにきらきら輝く瞳を持っている。男の人はカッターシャツにズボン、あと黄色の髪。不自然に綺麗な黄色の髪は染めたものだろう。


「うーん。ヒントはトリス先生の指にあるアカツメクサの指輪かな……?」

 男の人はそういうとふとこちらに振り返り、小さく頭を下げる。

「勝手にお邪魔させてもらってすみません。……ミク」


 男の人の言葉に、私も思わず頭を下げ返すと、女の子が元気に挨拶をした。

「ミクです。こんばんはー」

「もうそろそろおはようかな?」

 男の人が優しい声で、朝を告げる。


「え?」


 ☆


 起きたら、朝になってた。

 思わず、自分の部屋を見回した。

 そして、机の上の手紙に目を落とす。

 宛名はちゃんと親が代筆している。ふと封筒の裏を見る。


 封筒の裏には太く濃い鉛筆で名前……らしきものが書かれている。子どもの字で。

 それは「ミく」と読めた。


「夢の中を散歩する親子……か」

『ゾンビとアカツメクサ』一応、完結です。

が……第二部として『夢を散歩する親子』を書かせていただきますので、もう少しお付き合い願います。

内容は『ゾンビとアカツメクサ』の内容を別角度から見たお話です。


物語の順番は『お姫様とスケルトン』→『ゾンビとアカツメクサ』→『トリス先生たちの日常』となっています。

『トリス先生たちの日常』は時系列順と登場人物別に分かれております。読みやすいほうで読んでください。


最後に唐突に現れた親子のことを知りたいかたは前作『お姫様とスケルトン』をご覧ください。


アカツメクサの花言葉・・・『勤勉・実直』『善良で陽気』『華美でなく上品』


トリス先生の名前はシロツメクサ(Trifolium repens)の最初の部分を使いました。

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