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ゾンビとアカツメクサ  作者: くらげ
第一章 ゾンビとアカツメクサ
4/12

04 ゾンビの罰とハンスの想い

『お姫様とスケルトン』では、出てこなかった国の歴史などを追加。


 ゾンビはフードを目深まぶかに被って、城の周りを見回していた。

 ふと城門近くで、立て札がかかっているのが見えた。門近くなので、兵士がいるのが厄介だ。


「ハンス、字は読めるか?」

「読めない」

 他に同じような立て札がないか、確認したら、すぐ他の立て札が見つかった。

 200年の間に少し、つづりに変化はあったようだ。隣国だから、少々綴りが違うのかもしれないが。文法自体は同じだ。


 いわく、

『王のお妃様になれる絶好のチャンス!容姿に自信のある方、奮って応募下さい。紹介者にも仲介料をお支払いします。』


「紹介者にも、仲介料……」

 えらく、軽いノリだが、やっていることは、人買いか。


「この国は、妃が二人以上いても良かったのか?」


 ――200年前の法律では、自分の国も隣国も一夫一妻制だったはずだが。


 この国も滅んだ自国も、元々は「レペンス」という一つの国だった。

 が、あるとき、庶子の兄と嫡子の弟の間に政争が起き、内乱寸前までに事態が発展した。

 内乱で国がぼろぼろになるよりかましと東西二つに分かれた。


 元々、小さな国が「ウエスト レペンス」と「イースト レペンス」に分かれて以来、どちらの国も、よほどのことがない限り、妻を二人持つようなことはないはずだが……。


(まあ、私が生きていた時代でも、かなり古い言い伝えだったから、廃れてしまったのかもしれないが)


「いや。お妃様は一人だったと思うけれど」


「アイリスは誰かに目を付けられて、ここに連れてこられたみたいだな。王の花嫁として」


 大事な恋人が王族にさらわれる。


 もうすでに溶けてなくなってしまった心臓が、氷の柱に閉じ込められたような感触。

 ゾンビは自分の物語の裏を見ているようで、恐ろしかった。


(いや、私とこの国の王とは違う。私は姫だけを愛していた)


 姫はその後、恋人と結婚し幸せな一生を終えた。


 この体で、永遠にさ迷う罰は受けよう。

 しかし、今さら、なぜ自分の罪をまざまざと見せ付けられねばならない!


「王を呪ってやろうか?」


 いまさら、呪いが跳ね返ってきても、これ以上ひどくはなりはしないだろう。

 この国の王も、自分と同じ罰を受ければいい。

 半分は本気で、半分は冗談でゾンビは口を開いた。

 

 くちゃくちゃと口を動かしながら、ゾンビがハンスに問いかける。


 呪いなどとても信じれるものではないが、昔語りのゾンビが目の前にいるのだ。

 ハンスは苦しそうに答える。

「いや、人を呪って幸せになんかなれはしない。お前は……いい奴だけれど、やっぱりそんな姿でずっと生きているのは……苦しいだろ」

 ゾンビは魔女の呪いで、今も死体のまま、この世をさ迷っているという。

 同じような呪いを王に与えて、アイリスを救出しても、そんなのは嬉しくない。苦しいだけだ。


「……そうだな。人を呪っては、手に持っている他の幸せも逃してしまう」

 安易な方法に走ろうとしたゾンビをハンスは諌めた。

 ならば、ハンスの望む形で、アイリスを救出しなければ……。


 他国の兵士とはいえ、派手な呪文で大怪我させるのもはばかれる。

 元をたどれば・・・あのまま、国が滅んでなければ、自国の国民だったのかもしれないのだから。


 ゾンビとしても、自分の誇りを傷つけるから、したくはないのだが……。

 ゾンビは深くため息を吐くとハンスに言った。

「よし。美女を連れて中に入るぞ」

「美女って、そこらに転がっているわけないだろう!」


「心配するな。私が美女役になる」

「無理。顔が半分崩れた美女なんていねぇ。大体、あんた男だろう」


 振り返った、ゾンビは美しい黒髪、黒目の美女になっていた。

 黒髪、黒目なんてここいらでは珍しい。

「うまくいったか?って、頬を赤らめるな!アイリス一筋じゃないのか!」


「おまえ……女だったのか?」

「生まれてから死ぬまで22年間、一度も女だったことはない」

 声は、相変わらず男だか、女だかわからない、くちゃくちゃと湿り気を帯びたものなのだが、不機嫌さだけはしっかり伝わる。


 まだ、頬を赤らめているハンスに“彼女”は、目を吊り上げ怒る。怒った顔も綺麗だ。

「目を覚まさせてやる。腕を掴め」


 手も、細くて綺麗だななんて思って“彼女”の腕を触ってみる。

 くちゃりと水気を含んだ何かが、潰れる感触が布を通して伝わってくる。


「うわっ!」

 ハンスは一気に現実に引き戻され、赤かった顔は真っ青に変った。


「体を変えたのではなくて、視えない魔法の仮面を顔と肌が露出しているところにかけているだけだ。油断しているとすぐにほころびが出る」

「よく、そんな美人の顔、すぐに出てきたな」

 ハンスが見るにどこにも綻びらしきものが見受けられない。


「この姿は……私に仕えていた侍女の姿だ」

 彼女はハンスからそっと顔を背けた。その横顔は苦しげだった。


レペンス(repens)・・・シロツメクサを英語でTrifolium repens というそうです。その後半を取って国名にしました。


ゾンビが姿を借りた侍女が出てくるお話が『花の指輪(短編集)』の中の『雪の夜 届かぬ春』にあります。もし、よろしければ、そちらもご覧ください。

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