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ゾンビとアカツメクサ  作者: くらげ
第一章 ゾンビとアカツメクサ
3/12

03 森に迷い込んだ男

 年を経るごとに少女は森の泉に訪れることは少なくなった。


 ここ一年ほど姿を見せていなかったが、久しぶりに森の泉に現れた。華やかな笑顔で。

「シロツメクサの花を贈られたの」

 そう言った彼女の左手の薬指には鮮やかな白が柔らかい光を放っていた。

「もうそういう年か。幸せにな」


 シロツメクサの指輪には、いい思い出はないが、アイリスの幸せは素直に祝福したい。

 ある意味、顔は崩れているので、表情を読まれないのが救いだ。



 彼女が訪れたその日の夜。人の気配がした。


 また、迷い込んだ人間か。


「ひっ」

 赤い髪に青い瞳の男だ。

 ゾンビがいつも通り姿を現すと、腰を抜かした男は手近にあった木の枝を振り回す。森に入るなら、せめて弓矢ぐらいは持ってきて欲しい。


「おまえが……食ったのか。アイリスを」

 男の指にはまだ真新しいシロツメクサの指輪がある。


「アイリス……金髪で緑の瞳の女か」

 男はかくかく頷く。


「アイリスがいなくなったのはいつだ?」


「昼に見かけたっきり」

 じゃあ、その後、この森に来たんだろう。


「少し限定しないと無理か」

 行きと帰りの足跡が入り混じっていたら、わかりにくい。


「なにを……するんですか?」

 とりあえず、がくがく震えている青年を放っておいて、唱える呪文ことばを考える。

 ゾンビから姫君を奪った青年に少し似ているのが気に食わなかったが、力を貸さないわけにはいくまい。


「名はアイリス。 時は日が傾きし時より没する時まで 大地と光の神に希う 光の足跡そくせきを」


 大地に光の靴跡が刻まれる。


 無事に森は抜けられたようだが、森を抜けたところで、光の靴跡が途切れている。

「馬の足跡に……轍……四頭立ての馬車か……」


「ゾンビの友達がいるって言っていたけれど……」

 アイリスの婚約者、ハンスは当然信じてなかった。


「私にできるのはここまでだ……夜が明ける」


「太陽に弱いとか?」

「別にそんなことはないが」

「た……助けてくれないのか?」


「夜の闇の中ならまだしも、太陽の下ではこの姿は目立ちすぎるだろう。どうしてもというならー」


 昔、ゾンビが姫に渡した指輪。どうしても捨てられなかったが、この指輪を人に贈るときは永遠に訪れない。

 ここで、人の役に立つのなら、長年、持ち続けていた意味もあるだろう。


 ゾンビがハンスに指輪を渡す。

「なんで、そんな宝石を持っているのですか?」

 粒は大きくないが鮮やかな赤い宝石がついている指輪だ。

「子どもの頃に聞かなかったのか。動く屍は王子様だったと。これで顔を隠せる服と馬を一頭買ってこい」


 ゾンビが、優しい手つきでハンスが買ってきた馬を撫でる。

「馬は乗ったことはあるか?」

「って、あんた馬に乗ったことあるのかよ」

「口の利き方に注意しろ。小僧。乗馬は魔法の次に得意だったさ」

「小僧って、あんたいくつなんだよ!」

「享年22だったか」

 死んだ後もプラスすると軽く200は越える。

「ちっ。一歳足りない」

 ハンスの舌打ちをよそにゾンビは呪文を組み立てる。


「大地の精霊にこいねがう 黄花の足跡を」


 ゾンビの呪文ことばにタンポポの花が舞い、道を作る。


「なんで、さっきみたいに馬の足跡を光らせないんだよ」

「さすがに道に光の轍が付けられていたら目立つだろう」

 ゾンビは馬の手綱をピシリと打つとタンポポの花びらを舞い散らせて馬は夜明けの世界を駆け抜けた。


 たどり着いたのは昔、ゾンビが姫をさらっていったあの城だった。

呪文は適当です。

アイリスの婚約者の名前は童話っぽい名前で『ハンス』にしました。

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