05 ゾンビとアカツメクサ
『ゾンビとアカツメクサ』の『06 アカツメクサの指輪』と『07 目覚め』の部分に当たります。
次に目を開けると先ほどと同じ部屋にいた。
まだ眠そうな娘の肩を優しく揺すって、そっと扉を開けると、絵がたくさんあった部屋とは別の部屋になっていた。
部屋の中には綺麗なドレスを着た女性がアイリスを入れて6人いる。
「みんな綺麗だね」
「そうだな」
突然、『ぼこっ』と音を立てて壁の一部に穴が開いた。
ハンスが部屋の中に入る。穴の出入り口付近に黒髪の美女(ゾンビ)も立っている。
ゾンビのほうは驚いたようにアイリスを見つめている。
まあ、あんなにお姫様とそっくりだったら、無理も無いか。
「ゾンビさんがゾンビさんじゃない」
娘は、ゾンビが美女姿でいることに不満そうだ。
アイリスがハンスに抱きつき、ゾンビがアイリスに「大丈夫か」と声をかける。
アイリスは声だけで気づいたようで「ゾンビさんはいつも助けてくれるのね」と言ってゾンビにも抱きつく。
ゾンビは、絶対手に入れられない幻の宝石に恐る恐る手を伸ばすような顔で彼女の背中を優しく叩く。
見ているこちらまで、きりきり胸を締め付けられるような顔で……。
「ゾンビさん、具合悪いの?」
「大丈夫だよ。アイリスが村に帰れば、きっと元気になるよ」
そう言って、娘の頭を撫でてやる。
俺が望んだ宝石は今はちゃんと手の中にある。失って、宝石の幻が見えたら、同じように手を伸ばすのだろうか。そんな未来はずっと先であることを願っているが……。
ハンスとアイリスとゾンビのほかに二人の女性が脱出することになった。
残りの三人はがんばって玉の輿を狙うそうだ。
俺と娘は、扉を閉めて、また現れたこの部屋に入った時に使った扉を開けて、外に出た。
外は、少し日が傾き始めているが、まだ十分『昼』と言える時間帯だった。
ゾンビは王様を脅していた時に使っていた錆びた剣をハンスに差し出す。
ハンスは、小さな袋を手に持って帰ってくる。
どうやら質屋だか宝石商だかに剣を売りに行ったようだ。袋の中身はお金で、それをほぼ三等分して3分の1づつ二人の女性に渡した。
女性二人が、姿を消した途端、ゾンビは美女の仮面をはずし、元の姿に戻る。
アイリスを馬に載せ、ゾンビとハンスは歩きだす。
娘はもうそろそろ起きているのが限界のようだ。服がピンクのブラウスとスカートから、ピンクのパジャマになっている。
「寝るか?」
「いや。起きている」
うつらうつらし始めている娘を抱き上げた時、アイリスの声が聞こえた。
「シャム?」
ああ、どうやら、ハンスがゾンビの美女姿をアイリスの前で褒めたようだ。
必死に話を逸らそうとするハンスと怒るアイリス。
ゾンビはそんな二人を楽しそうに見ている……気がする。
(いや、ゾンビの表情はわからないけれど、なんとなくな)
が、ゾンビが突然、地面に膝をつき、荒く浅い呼吸を繰り返す。
呼吸という言い方が正しいのかどうかはわからないが。
やばい!
ゾンビが倒れ、ハンスとアイリスが駆け寄る。
「ゾンビさん。どうなっちゃうの?」
ミクの顔が真っ青だ。
「ミクは見ないほうがいい」
俺はこの夢に、ミクを連れてきたことを後悔した。
今、ミクは今まで見た中で、一番怖かった映画を見るよりも怖い思いをしているだろう。
泣くのを耐えて、ゾンビをじっと見つめている。
「ゾンビさん大丈夫だよね?」
俺は、大丈夫だと言えずに、ただ娘の頭を撫でてやることしかできなかった。
ゾンビが、アイリスに何事かささやいたようだ。
でも、その言葉はアイリスに届かなくて・・・ハンスとアイリスがどれだけ待ってもゾンビは動き出さなかった。
アイリスは、地面に生えている雑草の中から、アカツメクサを見つけ出し指輪を作ってゾンビの左の薬指に嵌める。
俺は、ゾンビの指先が崩れ始めるのを見て、即座に娘の目を隠す。
直後、ゾンビの体が、砂になり、地面に同化する。
地面に残った指輪にアイリスがささやく。
「さようなら、シャムロック」
その言葉と同時に、背景ががらりと入れ替わる。先ほどまでは外だったのに室内に変わっている。
子どもたちが、大人の男性を囲んでいろいろな質問をしている。
男性は「トリス先生」と呼ばれている。
一人の子どもがトリス先生の指輪を見て不思議そうに質問する。
俺も、その指輪はトリス先生の指を見たときから気になっていた。
「アカツメクサというんだ。大切な人たちからもらった大切な指輪だから、こっそり魔法をかけてあるんだよ」
先生はとっておきの秘密を打ち明けるように言うと、穏やかな表情で子どもの頭を撫でた。
「パパ、ゾンビさんはどこに行ったの?死んじゃったの?」
「うーん。ヒントはトリス先生の指にあるアカツメクサの指輪かな・・・?」
どういう超展開かは知らないが、とりあえずハッピーエンドでよかった。
娘の質問に答えて、気づく。いつの間にか隣に女性が立っていた。
ちょっと染めた黒髪に黒い瞳。現代風の服装。
この夢の持ち主―『お姫様とスケルトン』の作者だ。
あっけに取られたようにこちらを見ている。
「勝手にお邪魔させてもらってすみません」
勝手に夢の中でげろってすみませんと心の中で謝罪を付け加えておく。
こちらが軽く頭を下げたのにあわせて、向こうも慌てたように頭を下げる。
「ミク」
「ミクです。こんばんはー」
俺の呼びかけに、ミクは女の人に気づいて、元気に挨拶した。
「もうそろそろおはようかな?」
俺は、娘と夢の持ち主に朝を告げる。
☆
「おはようパパ」
「いい夢、見れたか?」
「うん」
おそらく、夢のほとんどを覚えていないだろう。満面の笑みを浮かべる娘の頭を撫でてやった。
こっちは徹夜したような気分なのだが、子どもは元気だ。
「パパは今日はお休みだから、もう少し寝かせて」
布団を被りなおしながら思った。
―本当に今日、日曜日でよかった。
ああ、頭痛がする。
『ゾンビとアカツメクサ』完結です。
拙い文章を最後まで読んでいただきありがとうございました。




