03 王様とゾンビ
第一章『ゾンビとアカツメクサ』の『05 死霊王子』の部分に当たります。
さすがに他人の夢に入り続けるのはしんどいな。
一旦、自分の夢に戻ってから、ラストだけ見たいけれど、娘は譲らないだろうな。
娘は、今も、眠そうに目を擦りながら、王様っぽい人とハンスと美女がいる部屋を窓から覗いている。
王様、明らかに俺より年上じゃないか。娘は絶対やらんからな!
「そんなに目を擦ったら、目が悪くなるよ」
夢の中のことは、実際の体にはあまり影響しないとしても、ついつい注意してしまう。
いや、眠りながら、手は目を擦る動作をしているかもしれないから、やっぱり注意は必要か。
ちなみに中世ヨーロッパ風の服装は夢が切り替わる時に元の現代の服装に戻っている。
「シャムと申します」
現実では絶対聞こえない小さな声も、夢の中なら慣れたら聞き取れるから便利だ。
でも、なんか声が妙に湿っぽかったって言うか、水っぽかったって言うか、違和感を覚えたのは何でだろう。
「パパ、なんて言ってるの?」
「あのお姉さんはシャムちゃんなんだって」
王様がフードを取る。
やっぱり、相当の美人さんだ。美人さんを見るとそれだけで得した気持ちになる。
が、彼女の可愛らしい唇が「石神に希う 我らを守りし城壁を」なんて叫んだ瞬間――
美人さんの化けの皮がはがれ、ゾンビの姿になる。
奥さん、すんません。夢の中と言えども、二度と他の女の人に目を移したりしません。
天井や床から壁が突如現れて、王様とハンスとゾンビを護衛の兵から隔てる。
「ロボットアニメの緊急隔壁みたい」
緊急隔壁って、秘密基地がピンチになったときにがちゃがちゃ閉まるあの壁か?隔壁って言葉よく知っているな。まあ、女の子アニメだけじゃなくって男の子向けの戦隊物も大好きだからか。
「化け物を使って、攻め入ってきたか?」
王様が悲鳴を上げる。
どっかの国の魔術士が送り込んだと思っているのだろう。
いや、ゾンビを操るなら死霊術士か。
ホラー好き母子と生活していると余計な知識ばかりが増えてしまうな。はぁ。
「死霊王子の伝説は知っておろう。我はシャムロック・ラハード。ウエスト レペンス地方は元はラハード伯爵家の領地。所領を取られた恨みはいまなお忘れてはいないぞ」
はじめて、王子様の名前を知った。そりゃ名前ぐらいあるよな。
「や……はり、やはり呪っているのか!」
王様が、がたがた震えた声で怒鳴る。
呪っている?
たしかにグロいし、『お姫様とスケルトン』の時は、青年を呪ったが、今現在、彼(もしかしたら彼女?)は積極的に誰かを傷つけようとしていない。
もし、相手の被害を考えないなら、狼に使った雷の玉を一発、王様に直接当てれば早い。
「伝説のゾンビが王家を呪っているせいで、この王家は男子が育ちにくいんだと……先々代は男の王子様が3人いらしたが、二人の兄は小さい時に食中毒と原因不明の病で死んだって、父さんが言ってた。
ちなみに今の国王の子どもは、二歳になる王子様がひとり。ついでにいうと16歳を筆頭にお姫様が4人だったか。ゾンビが伝説のお姫様とそっくりな姫君を探し出すために王家に女子を生ませているとか何とか」
長い説明ありがとうハンス。
ん? 三人いた男の子が一人しかって、この世界の死亡率がどれくらいか知らないが、言い伝えがあるからにはもっと他にも例があるのだろう。お姫様が無事で王子様だけが死ぬって、呪いというよりも――
少し窓から目をはずして、考えていると、
「ぐちゅり」と水を含んだ肌が潰れた音が耳元で聞こえた気がした。
昔、夢の中でゾンビに腕をつかまれたときの腕にかかった握力と、振り払った時に服の袖に手形状こびり付いたついた汁と濡れた皮膚片を思い出した。
窓に視線を戻すと王様の腕をゾンビが掴んでいる。
「わー、いいな。ゾンビさんに握手してもらえて」
ぜんぜん良くない。
以前、ゾンビに手足を掴まれた感触がよみがえってきて、吐き気が込み上げてきた。
「ごめん、パパ、吐きそう」
「たらいやトイレ以外に吐いちゃ駄目なんだよ」
娘にそう言われても、吐き気は引っ込まない。
木の陰で隠れて吐く俺に娘は背中を撫でることもせず、
「ねえ、私もゾンビさんに握手してもらっていい?」
などと訊く。
「絶対駄目だ」
娘の顔は思いっきり不満そうだ。
許可を出したら、ボールを投げられた犬のごとく、ゾンビのところ行くだろうが!
吐き終わった俺が次に部屋の中を覗えば、ハンスとゾンビはおらず、王様は、ゾンビの手形がべっとりついている服を慌てて脱いでいた。
美人をかき集めていた王様とはいえ、ゾンビに腕を掴まれたことだけは同情しておこう。




