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サドマゾ

山崎竜二の必殺技とは、何の関係もありません。

 彼と出会ったのは小学生の頃だった。彼は気が弱く、誰にでも優しい性格で、とても大人しい。そんな彼を見ていると、私は何故かイライラした。それでつい彼に意地悪をしてしまったのだ。そしてその時、彼は初めて私の事を睨んだ。優しい彼が今までに見せた事のないような凶暴な瞳で。

 それを見た私は、背筋がゾクゾクするような感覚を味わった。それが快感であると気付くまでには少し時間がかかった。

 そしてそれから、私は彼をいじめ始めたのだ。彼は大人しいから、私に対して暴力で対抗する事はなかった。ただ、睨むことだけはする。私はそれが面白くて、何度でも彼をいじめた。いじめて、いじめて、いじめ続けた。

 中学を卒業する時、きっと彼はようやく私から離れられると思い喜んだに違いない。私は表向きは彼とは別の高校に進学する事にしていたから。しかし私は、こっそりと彼の進路を確かめて、同じ高校に進んでいた。入学式で、私を見た時の彼の絶望した顔が忘れられない。

 高校でも私は彼の事をいじめた。別のクラスになっても関係なく。彼は私を心底憎らしそうな表情でよく見ていた。堪らない。そんな顔をもっと私に向ければいい。

 高校二年になると、彼は必死に勉強をし始めた。きっと良い大学へ行く為だ。目的は分かっている。そう。私から離れること。きっと、レベルが低ければ、私がまた付いて来ると思っているのだろう。馬鹿みたい。そんな事をしても、私からは逃げられないのに。

 やがて高校を卒業すると、私は時間に自由が利く仕事を選んだ。もちろん、彼に意地悪をする為だ。彼は大学へ通う為に地元を離れていた。私は彼の大学の近くまで、追いかけてやった。同じアパートに住む。私を見た時の恐怖に引きつった彼の表情。私はその日、おかしくって笑い転げた。

 高校までに比べれば、意地悪はしにくくなったけど、それでも私は毎日彼への嫌がらせを忘れはしなかった。彼はその内に、神経症になり始めた。それでも卒業して社員寮のある企業にでも就職すれば、私から逃れらると希望を抱いていたようだった。そんな会社の面接ばかりを彼は受けていた。もちろん私は、彼を追った。特殊技能を身に付けて、彼と関係のある仕事を見つけて再就職したのだ。私はまた彼に近付けた。

 仕事上の飲み会の席。そこで、私はいつものように彼をいじめた。悪口を言い、食べ物を頭にかけてやったりした。彼はいつものように、凶暴な瞳を私に向けていた。私はそれに快感を感じていた……。

 その帰り道。彼は私と二人きりになると、突然にナイフを取り出した。

 「もう、たくさんだ! このクソ女め! 僕の前から消えろ!」

 そして、そう叫ぶと彼は私に向かって突進して来た。私の腹部にナイフが刺さる。その途端に鋭利な痛みが。

 彼の顔が近くにあった。

 憎悪に満ちた目が。

 私はそれに悦びを感じた。彼が私を憎んでいる。憎くて、憎くて、刺し殺している。最高。

 その時私は実感した。

 ああ、そうか。私はずっと自分をサドだと思っていたけど、本当はマゾだったんだ。彼に自分を傷つけて欲しくて、堪らなかったんだ。だから意地悪をし続けたんだ。

 薄れていく意識の中、私はふっと微笑んだ。もしも、彼がその事実を知ったならどんな顔をするだろう?

 そう想うと、ちょっと可笑しかった。

たーまには、こういうのも良いかと思いまして

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