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探偵は死ななきゃ、治らない  作者: 夜野舞斗


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Ep.3 危険なドライブ

 駅から出た僕達を迎えに来たのは、太ったおばさんだ。彼女は車のキーを指で回しながら、僕達に確認を取った。


「こんにちはー! 貴方達が黒柳さんに依頼を頼まれたって言う、探偵さんね」


 僕達は頷いた。と同時に吉乃さんが話を進めていく。


「はい。探偵教から派遣された見砂です。そして、私がその世話係である梅園と申します。本日から三日間よろしくお願い致します」


 そんな彼女にもっと気を緩めるように伝えてきた。


「まぁまぁ。そんな世話もたまには休みなさいな。旅行に来たと思って、梅園さんの方もゆっくりしてって」

「お言葉はありがたいですが、こいつ信じられない程、散らかして、信じたくない程、寝坊して、人に面倒掛けますから。面倒を見る必要があるんです」


 僕が「おいおい」という声もスルーする吉乃さん。ここまでフリーな家政婦と主人の関係は存在するのだろうか。いや、しなくても当たり前か。高校生探偵と高校生家政婦の組み合わせなんて僕達以外で聞いたことがない。

 おばさんの方は黒い車に寄りかかって、朗らかに笑いだした。


「あはは! いいねぇ。それっくらいが面倒見がいがあるよ。食事も上げ膳据え膳で構わないから」

「あっ……では、食事の方は甘えさせていただきます」


 ペコリと頭を下げる吉乃さん。どうやら、そこは押し切られたらしい。僕がその点についてニヤニヤしていると、すぐに肘が飛んでくる。言いたいことは分かる。「笑ってないで早く車に乗れ」だ。


「はいはい……」

「心の中が読めるんなら、さっさとやりなさいよ。でないと……」


 今は脅迫状を何とかするためにここへ訪れたつもりだ。なのに僕が家政婦から脅迫を受けることとなったのは気のせいか。いや、自分のせいか。

 僕達二人が乗った後で家政婦が車を動かして、自己紹介を始めてきた。


「さてさて、わたしは赤岡だよ。よろしくね。分からないことがあったら、何でも聞いてね」


 そう言うものであれば、早速聞かせてもらおうじゃないか。


「じゃあ、すみません。赤岡さんは不倫などされてるんですか?」


 いきなり車がアクセル、そして急ブレーキ。あまりの勢いに吉乃さんは受け身を取れたようだが、僕はダメだった。前の席に額をぶつける始末。


「あ、あのねぇ」


 吉乃さんの方は呆れている。「そのまま言う奴があるか」と。


「つい緊張して変な言動を……失礼致しました。言いたいことはそうですね。黒柳さんは不倫などをされていないか、などの話をしたかったんです」


 おばさんは落ち着きを取り戻してから笑ってくれた。


「あはは……脅迫状が来たのは不倫関係かもしれないって言いたいのかい? もしかして、おばちゃんが黒柳さんと不倫して、そのおばちゃんを好きな人が脅すためにって」

「まぁ、その可能性も加味して、ですね」


 驚いた拍子に変なことを喋らないか。一応計算したが、口を滑らすことはなさそうだ。


「残念ながら、不倫はあり得ないよ。黒柳さんは実業家の前に一人の恐妻家だからね。少しここから都会に出ようとするだけでもしっかり仕事のことを話さなきゃ、浮気を疑われるっ位」

「ほぉ、うちのお爺様とは違うこと……」

「そっちは教祖様だもんねぇ。誰にも舐められちゃいけないから、当たり前よ。まぁ、そんなこんなで黒柳さんが不倫なんてしたら、ぼっこぼこにされちゃうわ。おばちゃんも黒柳さんとしたら……追い出される以上に怖いだろうね」

「女の世界って怖い」


 僕が口を変に動かしたせいで隣にいる吉乃さんから睨まれることとなった。今の発言はマジで申し訳ない。

 吉乃さんに頭を下げたところで赤岡さんがしていた話の続きがやってきた。


「女の世界も怖いが、それを作る男も怖いよ」

「ううん?」

「黒柳さんの家に住んでる甥の白原さんには気を付けなよ。女遊びが酷くて、しょっちゅうトラブルを起こすって話だから」

「へぇ……」


 彼女はついでに注意喚起をしてきた。


「夜は気を付けなよ。客間に白原さんが忍び込むかも、だから」


 「ひえ」と声を出していた吉乃さんに一言。


「大丈夫です。いざとなった時は僕がいますから」


 吉乃さんからも一言。


「その時は私がぶん殴るから手を出さないで」

「ちょっちょっと、格好つけさせてくださいよ」


 またも大笑いする赤岡さん。「あはは!」と大声で笑うはいいが、とっとした運転ミスで道路標識にぶつかりそうになった。素早く急ハンドルをしたから良かったものの、後数センチで事故を起こしていたところだ。

 ヒヤヒヤして、話にならない。後ろの二人で震え上がる中、彼女は村のことを話し出す。


「いやぁ、物は大切にしないとね。ぶつかりなんてしたら、また祟られちゃう」

「へっ?」


 僕の疑問を表現した声に応対する彼女。

 鬱蒼とする森の薄暗さが少しだけ恐怖を演出して、おどろおどろしい空気となる。吉乃さんの唾を飲む音が聞こえてきた。


「村の外から来た二人には何を言ってるか分からないわね。ここは物の怪村。付喪(つくも)神の故郷よ」


 今度は吉乃さんが復唱して、そのものについて詳しく聞きたい意向を示した。


「付喪神ですか?」

「ええ。物は長年使うと、そのものに魂が宿る。大事にしない人に罰を下すってそういう感じの神様よ。逆に愛すれば、そのもの以上の恩恵が返ってくるわ。この車もそうね。思ったよりも長く働いてくれてるわ」

「なるほど、です」


 何だかその伝承に興味を持ってしまった。非科学的なものは信じないように言われている。怪談の話も単なる作り話だと見ないようにしてきたためか。祖父がいない今ならば事件とは関係ないが、聞いても良いのではないか。

 少し魔が差して、質問をしていた。


「あの……その話をもっと詳しく聞かせてもらっても」

「いいわよ。というか、それなら黒柳さんのところにある蔵に行ってもいいんじゃないかしら。そこが一番、付喪神の縁がある場所だから」

「あっ、でも……脅迫状についても聞かなくては、ですし」


 そこで赤岡さんは何を狂ったのか、ハンドルから手を離して手の平をもう片方の拳で叩いた。急いで吉乃さんが「ハンドルハンドル!」と言わなければ、ガードレールを突っ切って畑の中へダイブするところだった。帰りはもう徒歩で帰りたい。

 で、思い付いたことを彼女は語る。


「そこは、黒柳さんに語ってもらえばいいのよ。一緒だったら、犯人なんかに襲われることはないだろうし」


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