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探偵は死ななきゃ、治らない  作者: 夜野舞斗


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Ep.2 揺るがない正義

 吉乃さんはポニーテールを振り乱し、犬のように興奮してみせる。何だか楽しそうな。


「ええと、犯人ですか?」

「そうよ! だって、拾って伝えた人が犯人ってことでしょ! その黒柳さんに聞けば、分かるでしょ!」


 鼻息を荒くしているところ申し訳ない。もうすでに推測済みで手も回してある。つまり、電話もしてあるのだ。


「さっき、自分トイレに行ったでしょう」

「長かったわね。まさか掃除とかに時間が掛かったんじゃ! トイレに間に合わず漏らしたことと犯人が何の関係があるのよ!」

「いや、間に合いましたから。勝手に変な真実を作らないでください! じゃなくって、その合間に黒柳さんの方へ連絡をしたんです。その心当たりはないかって」

「えっ、じゃあ……」


 そこで彼女が妙な顔をした。言いたいことは分かっている。


「今から向かってる場所に行く必要はなかったんじゃないのって思いました?」

「ええ。その通りよ」

「残念ながら、犯人は分かりませんでした」

「何で!?」


 彼女が僕よりも悲しそうにしている。まぁ、僕も少々嫌な心持ちだ。早めに事件を解決して、ゆっくり自然を楽しもうと思っていたのだから。

 探偵教の仕事。祖父から出された「探偵教の一員として、脅迫状の犯人を見つけ出すためお前を派遣する」との命。猶予は三日。逆に考えれば、一日で解決できたら二日は観光していいとのことだ。観光とのことで遊びすぎる訳にはいかないのだが。誰にも強制するようなことを言われない暮らしを楽しみたかったところだけれど。仕事が終わらなければ、仕方がない。何よりも迅速に探偵の仕事を遂行しろ、それがうち、探偵教に属する人間の教訓だ。人の命も掛かっていることが多いから、例外が認められない。

 苦い事実を噛みしめながら、事実を語っていく。


「黒柳さん、どうやらその『見つけた』って人はいたとは言ったんですが、その人物を忘れちゃったと。噂が伝わるのも早く、気付けば村の人達が皆知る大騒ぎになったとか。で、最初に誰が言ってたかもう分からない、と。いやー、田舎って噂が伝わるの凄い速いんですねー」

「何、悠長(ゆうちょう)なこと言ってるのよ!? 拷問でもして、思い出すように言いなさいよ!」

「強引すぎますって」

「それか……そうよ! 黒柳さん、知ってたのよ。知ってて、黙ってるんじゃない!? 犯人は家政婦か、奥さんか、いやいや、黒柳さんの愛人かもしれないわよ!」


 冗談かもしれないのだが。何となく引っ掛かることもある。電話をした際に黒柳さんは何かを隠しているよう。重い声だった。


「まぁ、そういう可能性もありますが……それを調べるためにも実際、その場に行って話を聞いてみないと何とも、ですかね」


 その間にも電車は僕達をおぞましい地に向かって運んでいく。ふと、今から行くのはとんでもない場所なのではないかと思うも、いつものこと。寒気も虫の予感も慣れっ子だ。

 探偵として、容疑者には感情を見せるな。心を許すな。誰が犯人か分かるまでは、意地でも食いつけ。命を燃やせ。そして死を覚悟で探偵の職務を全うする。

 僕は一番の心情として、立ち向かっている。

 それが父の、姉の、妹の、生きた証だから、だ。

 犯人に立ち向かって殉職した、刑事の父。

 捜査中に犯人から子供を守って、植物状態となった姉。

 事件の最中に証拠だけを残して、行方不明になった妹。

 その生きた証を肯定しながら、病をその身に患い、亡くなってしまった母。

 全員、間違いなく熱い正義を抱いていた。だから、僕が悪を許してはいけない。人の生き方を狂わす悪魔の言葉に耳を傾けてはいけない。

 そんなことを考えた瞬間、隣の通路を通っていく少女の姿が目に入った。短い髪にくるんと跳ねた髪が何となく、妹の姿に重ねて見えた。

 いきなり少女に注目するものだから、吉乃さんもさぞ驚いたことだろう。早速、僕の異常性を口にした。


「あら、仕事一筋の高校生探偵さんも女の子に興味がある訳?」

「いや。そんなんじゃないですよ」


 何故か口を膨らませて、横を向く彼女。表情からして怒っているようにも推測できる。彼女の言い分はこうだ。


「今頃、思春期になって女の子に目覚めて……村ン中でいきなり女の子にナンパするとかやめてよね」

「なんか、やったことあるみたいな言い方ですけど、そんなこと一回もやったことないですよ」

「そ? それなら、いいけど。に、してもさっきの子」


 さっきの子と聞き、僕が首を傾げた。何か知っているのかと問うてみる。


「見覚えとかあるんですか?」

「まぁ、今さっきよ。駅構内で藪雨(やぶさめ)くんをずーっと見てたみたいだから」

「僕を……?」

「気付いてなかったんだ」

「まぁ、脅迫状のことについて推理してましたから。まぁ、今も脅迫状の文章にヒントとかがないか考えてますけど」

「うん。その間にずっと。もしかして、藪雨くんのファンとかじゃないでしょうねぇ」

「だったら、どうする?」


 僕が何となく静かに笑ってみる。すると彼女は不機嫌そうな顔をして前のめりになる。


「今から危険だって言ってくる。アンタの嫁さんなんかになったら、事件現場に連れてかれるか。その事件に遭遇する悪運に巻き込まれて、ずっと事件だらけの人生を過ごすか。色々大変なことになるでしょうから。早く止めないと。可哀そうよ」

「ちょ、ちょっとちょっと!」

「冗談よ。藪雨くんも推理ばっかりじゃなくて、ちょっとは息抜きしなさいな。女の子の顔見るまでずっと怖い顔してたわよ」

「す、すみません」


 なんて言うと、彼女は「別に謝る必要はないでしょ」と返してくる。では、何と言えば良かったのか。

 事件とは関係のないことを考えそうになったところで、電車が止まった。


『ご乗車ありがとうございました。終点の「物の怪村駅」でございます』


 アナウンスによると、目的地に着いたとのこと。僕達は慌てて散らかしたゴミを片付け、降りる準備をする。

 その時間、車掌さんが見回りに来る位まで、だ。吉乃さんが幾ら手際が早いと言えど、僕が散らかしたものが半端ではなかった。

 彼女が文句を言う。


「こんなところ、貴方のお爺さんに見られたら大目玉を喰らうわよ」

「で、ですよねー、すみません。いないからってことで、凄い羽目を外しました」


 途中で食べた駅弁もポテトチップスの欠片もお茶のペットボトルもなしと確認。車掌さんに縮こまりながら「お世話になりましたー」と言ってから、外へ出る。同時に他の車両から、少女と家族らしき人達が出てきた。

 ふと探偵らしき違和感。

 降りるためにあんなに時間が掛かるだろうか。立ち止まって考える僕にまたクレームを言うのが彼女。


「早くしないと! 迎えの車が来てるはずなんだから!」

「分かった! 分かったから! 押さないで! このままだと階段で転ぶことになる」

「何か考え事してるのがいけないんでしょ!」

「だって、あの家族」

「アンタみたいに散らかしてるってことはないでしょうから、きっとあの女の子がトイレに時間が掛かったんでしょ」

「そっか」


 もしかしたら、僕を見張ってたなんて。被害妄想が酷いだけか。僕は考えるのをやめて、吉乃さんと共に階段を駆け上がっていく。ほんの少し、冷たい視線を浴びながら。

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