狼の尻尾
あるところに赤ずきんがいました。耳まである、綺麗なブロンドの髪の毛。美しいグレーの瞳を持つ、15歳の少女。彼女はいつも、お母さんの言い付けで祖母の家までお見舞いに行っていました。そして今日も、見舞いへ行くように言われます。
「お母さんは行かないのですか。」
「私、あの人苦手だから。」
「…」
赤ずきんは愛用している青いカゴに、パンやらワインやらを入れて、家を出ました。
お母さんははいつも穏やか。ですが、祖母のことになると目の中の光が消えてしまいます。どうやら、同居してた頃に起きた、とても大きな喧嘩で、仲が悪くなったらしいです。
(家の中ではおばあさまの話はタブーね。それでも、心配して、私にお見舞いへ行かせるけど。)
いつも通る薄暗い森。不気味ではなく、むしろこの暗さが心地いいと赤ずきんは思います。しかしこの道には、よく狼が出るのです。人に悪戯を仕掛けたり、子供を襲ったりする悪い狼です。
「まあ、これがあるから、私は大丈夫ですね。」
赤ずきんは、ぬるりとカゴから包丁を取り出しました。きらりんと光る刃、切れ味は落ちていないようです。
(これで何度狼を追い払ったことか。)
しばらく森を歩くと、黄色い花がたくさん咲いた、開けた場所に出ました。
「懐かしいですね。」
赤ずきんはあることを思い返し、目を細めます。
11歳の時。初めて一人でお見舞いへ行った赤ずきんは、フサフサの大きな狼に出会いました。彼は笑顔を浮かべ、一緒に花を摘みに行くように誘ってきましたが、賢い赤ずきんは彼が悪い狼だと気づき、包丁で腹を思い切り、切り裂きました。倒れた狼を見て、赤ずきんは思います。
(フサフサの尻尾…。)
しばらくして狩人が通りがかりました。倒れている、大きな狼を見て狩人は。
「君がやったのか」
「はい。これで」
取り出した包丁を見せます。
「…しかし、まだ息はあるようだ。」
「殺すのは可哀想だったので…」
「…そう。それじゃあ、こいつはこのままにしておこう。傷でしばらくは動けないだろうから。君はこれからどこへ?」
「おばあさんの家に。でも、少しここの花を積んでから行こうと思います。」
「そうか。狼が目を覚さないうちにね。周りにもこのこと、話しておくよ。」
狩人が去りました。誰も来ないのを確認して、赤ずきんは狼の尻尾を掴みました。そして
「…フサフサ」
包丁の刃を、尻尾の根本につけて、それから。
人には言えない秘密、誰にでも一つくらいあると思います。今でも、あの尻尾は、彼女のコレクションの中でも特に立派な物です。殺しはしない、でも尻尾はもぎ取っていく。被害にあった狼たちは、彼女をTail hunter(尻尾を狩る人)と呼びます。もうきっと人を襲うことなんてしないでしょう。
(あの狼には感謝です。)
赤ずきんが花を摘んでいると、後ろからゴソゴソと音がしました。振り返ってみると、大きな、それはそれは美しい銀色艶々の尻尾がぶんぶんと左右に揺れていました。
「…」
赤ずきんは静かに包丁を取り出します。こっそり近づき、尻尾をがしっと掴むと、本体はびくっと肩を揺らしました。
「な、何だ」
「こんにちは、狼さん。…素敵な尻尾ですね。」
狼に気づかれて、彼の大きな尻尾で、持っていた包丁を隠します。
「こんにちは…?」
狼は困惑して、思わず赤ずきんに挨拶を返しました。
「えっと、尻尾を掴んで何をしてるのかな」
「狼さんはいい狼ですか?」
「は?」
赤ずきんは尻尾から目が離せません。少しずつ、顔を近づけていきます。
(なんだこいつ。)
「お嬢さん、俺が誰か知らないのかい?」
「もしかして、悪い狼さんですか」
「…この大きな耳。大きな目。」
一歩ずつ、赤ずきんに近づきます。
「大きな口!」
「大きなふわふわの尻尾…。」
「勝手に付け足すんじゃないっ。」
狼は、尻尾を触っていた赤ずきんを突き飛ばします。
「俺は人を喰う、恐ろしい狼さ!」
鋭い爪を剥き出しにして、手を大きく広げましたが、赤ずきんはまだ尻尾を見ています。
「恐ろしくて動けないか。」
じわりじわり。悪い笑顔を浮かべて更に近づくと、狼は赤ずきんの手にあるキラッとしたものに気づきます。
「…お前それ」
「包丁です」
「…ひ、ひいい」
今にも噛みつきそうだった狼は、後退りして震え出しました。
「お前そ、それで何するつもりなんだ!」
「悪い狼さんだったら、尻尾をもぎます。」
「…ひいい。やめて、俺、悪い狼じゃないです、人喰ったことありません」
狼は体を丸めて、自分を小さく見せます。
「子供を襲ったことはありますか」
赤ずきんが傾けると、それは再びキラッと光ります。
「ないっないです。殺さないで。」
この様子だと、本当に人を襲ったことはなさそうです。赤ずきんは、包丁をカゴに戻します。ほっと狼が胸を撫で下ろしますが、赤ずきんはまだ諦められないようで、名残惜しそうに尻尾を見つめます。
(今まで出会ったどの尻尾より立派なのに…)
そこで、赤ずきんはふと思います。わざわざもがなくても、いいのではないか、と。
「失礼します。」
「へ」
返事ももらわず、大きな尻尾に抱きつきました。
「…」
何か言いたげな狼にカゴを振って見せると、再び怯えて、丸まってしまいました。
赤ずきんはこの日、素敵な出会いをしました。素敵な尻尾に顔をうずくませて、狼に次もここにくるように約束します。
狼はその日、恐ろしい人間に出会いました。尻尾を人質にされ、定期的に尻尾を触らせるように脅されることになりました。これからどんな目に遭うのか、この日は恐ろしくてよく眠れませんでした。
初めて書いたので、自分でも違和感感じるところが多々あります。読みずらい文章ですみません…。




