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三十八話、ピネの料理


 テーブルの上の紅茶とクッキーは片付けられて、今はそれぞれの目の前にミルクの甘い香りがただようシチューと、たっぷりレタスときゅうりのサラダが置かれてる。そして中央の籠には雲みたいに白いパンが山盛りだ。香ばしい香りでお腹がグゥーっと鳴って、鼻がヒクヒクして耳と尻尾もピクピクしてしまう。ヨダレまで出てしまいそうだ。


「ふふふ! ニャーさんお腹空いたのね」

「うん! ぺこぺこだよー」

「夕食も食べてないからな」

「話が長引いてしまいましたからね。ピネ用意は出来たかの?」

「あとは飲み物なんだけど、ワインと水くらいしかないけどいいかな? ミルクはシチューに使っちゃったんだよね」


 ピネは「えへへ」と笑って誤魔化してる。女王は気にする様子もなく「シチューが残れば、明日も食べられるであろ」とウインクした。


「ボクは水でいいよ」

「私も水でいいわ」

「オレも水でいい」

「妾はワインをもらいましょう」


 全員のリクエストを聞くと素早い動作でテキパキと飲み物を配ってから、ピネは女王の隣に座る。


「それではいただきましょう」

「「「「「いただいまーす!!」」」」」


 面白いくらいに声がそろった。みんな腹ペコだったからかもしれないね。


 まずはたまらなく美味しそうな匂いのするシチューからだよね。ボクはスプーンをギュッと握ってシチューをすくってパクリと口に入れる。


「うんまーい! 野菜も肉もトロットロだね!」


 テンションが上がって尻尾がゆらゆらしてしまう。


「ピネお姉さまのお料理はやっぱり最高だわ!」

「あぁ。今までで食べたシチューの中で一番だな!」

「そうであろ! そうであろ!」


 まるで自分が褒められているかのように女王はニコニコ笑顔だ。ピネは少し照れくさそうに顔を赤らめ「ありがと!」と小さくつぶやき、シチューを一気にかきこむ。熱かったのか咽せて女王に背中をさすってもらってる。


「パンも食べていい?」

「もちろんです」


 籠からパンを手にとる。空に浮かぶ雲みたいな白いパンは、見た目どおり持っただけで潰れてしまいそうなくらいフワフワだ。恐る恐るカプッと噛みついてみる。


「やわらくて甘くて綿毛みたい!」

「いつもの硬い黒パンと比べるなんて出来ないくらいフワフワでミルクの味が濃くて美味しいわ!」

「見た目に反して味がしっかり付いてて美味いな。それに初めての食感だ」

「美味しいでしょ! ヴェルチマーさまお気に入りのパン屋さんが作ってるの。アタシも大好きなお店なのよ」

「食べたくなるとピネに買ってきてもらっているのです。もちろん近衛たちには内緒ですけどね」

「王都で一番人気のパン屋さんで行列のできるお店なんだけど、店長さんの料理の腕は間違いなくSランクだと思うわ」

「ほほほ! ピネが言うならそうであろ」


 話をしたり聞いたりしながらの賑やかな食事は凄く楽しいよね。


 最後に食べたサラダも新鮮シャキシャキで、採れたてって感じだった。シチューもパンも今までで一番美味しかったから、おかわりをいっぱいしちゃった。普段、一人分食べるのがやっとなサアヤもおかわりしたし、ファディスはボクと同じくらいガツガツ食べてたよね。


「夜も遅い。そろそろお開きにしましょうか」

「はい。あ! ねぇ。ヴェルチマーさま、お願いがあるの。今日はサアヤたちと一緒に寝たいのだけどいいかな?」

「ほほほ! もちろん良いですよ。明日の城勤めもお休みして王都観光に行くとよかろ」

「ありがとうございます。ヴェルチマーさま大好き!」


 ピネが砕けた口調で話しかけても怒らないどころか、隣に座る女王に勢いよく飛びついても微笑みながらピネを抱きしめてる。二人は長い時間を一緒に過ごしてきたから信頼し合ってるんだと思う。そしてきっと、とっても仲良しなんだよね。


「今日はみんなアタシの部屋でお泊りよ!」


 膝の上に乗ったままのピネは満面の笑みを浮かべ体を左右に揺らす。女王はピネが滑り落ちないように腰にしっかり腕を回してる。


「もしかしてピネお姉さまのお部屋もお城の中にあるのかしら?」

「そうなの。この一つ下の階が城勤めをする女性たちだけの部屋が並んでるのよ」

「ピネお姉さまのお部屋とても楽しみだわ」

「うん! どんな部屋かな」

「オレも行って大丈夫なのか?」

「一部屋が広いから三人くらい余裕よ。それではヴェルチマーさま、おやすみなさい」


 ピョンと女王の膝の上から降りて、ピネはボクたちの手を引いて扉に向かい歩きだす。


「おやすみなさい」

「おやすみー!」

「おやすみ」

「ゆっくり休んで明日は楽しむがよかろ」


 首だけで後ろを振り返ると、閉じられていく扉の隙間から、女王が微笑みながらボクに向かって手を振ってるのが見えた。


 コツコツコツコツコツコツ……。


 4人分の靴音が響く。


 スキップしながらテンポよく階段を降りていくピネの後をついて歩く。真夜中だから魔法石の灯りも消されてるけど、窓からは月の淡い光が差しこんで思ったより明るい。


「この大扉の向こうが居住区よ」


 ガチャ!


 ギギィー……。


 踊り場に立ち止まって、ピネはスカートのポケットから鍵を出して扉を開いた。女王のいた部屋と違って蝶番が少し軋んだ音を立てる。


「わぁ! なんか凄いね!」

「扉が沢山あるわね」

「驚きだな」


 大扉をくぐった先は、毛足の短いグリーンのカーペットが敷かれた廊下になっていて、一定間隔に魔法石の灯りと木製の扉が並んでいた。


「この廊下はね。なんと一周できちゃうのよ」

「面白いわね。でも窓が無くてさみしいわね」

「それだけが残念よね。円柱形のお城の内側だから仕方ないって分かってるんだけどね。でもね。お部屋は驚くと思うわよ」

「楽しみだわ」


 キョロキョロ辺りを見渡しサアヤたちの話を聞きながらついて歩く。女王の部屋は、だだっ広くてベッドしか無い殺風景な感じだったから気がつかなかったけど、この城はかなり大きな円形の建物だ。女王の部屋の周りにも、台所とか小さな部屋はあったみたいだから、もしかしたら同じような作りなのかもね。


「ここがアタシの部屋よ。ようこそ我が家へ」


 ピネは大扉の鍵とは別の小さな鍵を使って扉を開けた。入ると淡い魔法石の灯りに照らされた廊下が奥へと続いてる。


「不思議な形の部屋だな」

「面白いでしょ! お城が円形だから、たぶん上から見ると階段と居住区の廊下の部分はまるでドーナツで、内側にピザみたいに三角の部屋が並んでるように見える気がするの」


 気になった左手側の、ドアをソッと開けてみるとトイレとお風呂だった。


「凄いでしょ。全部の部屋にトイレとお風呂がついてるのよ。さすがにキッチンはないけど食堂があるから不便はないの」

「素晴らしいと思うわ。綺麗なお部屋に住むことが出来て、お城に何でも揃ってるなんて!」


 サアヤはあちこち見て回りながら目を輝かせる。


「廊下の奥にベッドが置いてあるんだね」

「あの場所にベッドがピッタリ収まったの。ベッドはかなり大きいからアタシたち四人くらい余裕で寝転がることができるはずよ」


 たどり着いた寝室はかなり広いし、ベッドもボクが飛び跳ねても転がっても落ちたりしないと思う。


「うわぁ! でっかいね!」

「こんな大きなベッド初めて見たわ」

「たしかに、これなら四人でも余裕だな」

「アタシも最初ベッドの大きさにビックリしたよ。さぁ、今日は疲れたでしょ。お風呂に入ってから寝てしまいましょう」


 疲れてるのもあるけど、美味しいご飯を食べた後って眠くなるんだよね。なのでボクたちは迷いなく頷く。


 ちなみにお風呂も広くて湯船も四人で入っても大丈夫なくらい広い。ゆっくり温まってから広いベッドでボクたちは、一つの布団に仲良く包まって眠った。

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