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三十六話、予言の子


「何から話そうかの……」


 女王は頬に手をあて、少し考えるそぶりをしてから話しはじめた。


「まずは、そうだの……。妾は国に生きる民たちには極秘で、ソフィアと共に計画を練って五年で全ての準備をおこない成し遂げたのですが……」


 ゆるりと女王は立ち上がりボクたちの座るソファの後ろに回り、サアヤとクロスの肩に優しい手つきで触れた。


「この計画は本来の運命を歪めることを前提で、かなり強引に進めました」

「ハンッ! 俺はこの城に来る以前から、すでに歪められていたがな!」

「そう……だの」


 クロスは女王の手を乱暴にパシンッとはらった。目をふせて深呼吸をしてから再び女王は話しはじめる。


「ソフィアは計画どおり、ルネディアに到着後すぐに王にダンジョンを視察したい申したであろな。転移石は石自身が行ったことのある場所でないと転移することができないからの」

「なるほどな。だからあの日あの時ソフィアはあの場にいたんだな」


 声を震わせるクロスの怒りと悲しみは何十年経ったとしても、そう簡単に消えないし癒えたりしないのかもしれない。


「えぇ。不審がられぬよう一旦、王と共に城に帰って再びダンジョンに転移。けれども予言どおりソフィア自身が間に合わないことも、ソフィアだけではクロスあなたを守りきれないことも妾も妹も分かっておった」


 布擦れのかすかな音を立てながら、女王はボクたちの前にくると床に膝をついて、サアヤとクロスの手を握りしめた。


「だからこそ時間を止めたのです」


 クロスは普段と変わらないけど、サアヤはビックリして固まった。女王って国のボスだよね? そりゃ驚くよね。爺ちゃんはボクには優しかったけど、他の魔物たちには厳しかった。だからボク以外の前では膝を地につけたりはしないって言ってた。


「すべてはクロスとサアヤ、あなたたちを出逢わせるために」

「それは何のためだ? 初めて聞いたぞ」


 クロスは眉をピクっと上げ口元もへの字にして訝しむ。いきなり自分の名前が出てきたサアヤは首をかしげてる。


「勇者と聖女、昔話で聞いたことくらいはあろ?」

「魔族の王が異界から、この地に訪れて破滅を招くと伝えられてるものよね?」

「そうだの。そして命の危機にさらされた人間たちの中から、まれにスキルが発現するのです。それが勇者と聖女。二人は対の存在。二人がそろった時、この世の全てが救われるというものです」


 初めてボクは聞いたけど、サアヤたちは知ってる話だったみたいで頷いてる。


「けれどソフィアの詠んだ先見はルネディアの帝王が世界を壊すというものでした。しかも勇者と聖女が同時に存在しないと詠んだのです。勇者だけでは倒せたとしても世界を救うことはできないのです。壊された世界の全てを癒すことが出来ないからの。逆も然り」


 時間を操作してでもクロスを生きながらえさせて、サアヤに出逢わせる。もう答えは一つしかないよね。


「もしかしてサアヤは聖女?」


 思わず勢いよくボクが問うと、女王は微笑んで頷く。


「そうです。そして勇者はクロスあなたです」

「ハァ? 何の冗談だよ? ピネの妹はともかく、俺はスキルなんて持ってないぞ!」


 クロスは女王の手を振りほどいて立ち上がる。興奮してるのかフーフーと鼻息が荒い。


「私も聖女ではないと思うわ」


 腕輪を外して隅々まで確認していたサアヤも不思議そうにしてる。ギルドの腕輪はボクから見ても何も変わってない気がする。


「では、この腕輪をつけてごらんなさい」


 自分の腕にはめていた腕輪を外すと、女王はサアヤとクロスにそれぞれの手に握らせた。見た目はギルドの腕輪とそっくりそのままだ。


「まぁ! 石が虹色に変わったわ!」


 サアヤが女王からもらった腕輪を身に付けると石が眩い光を放つ。ギルドのランクには無い色だ。


「俺のもだ。どういうことだ?」


 クロスが受け取った腕輪の石は銀色がかった煌めきを放つ。やっぱりギルドのランクには無い色だ。


「虹は聖女、銀は勇者の証なのです。その腕輪でしか特殊スキルを知ることができません。クロスの持つ転移石と同じ国の宝として代々王家に伝わってきたものです」

「しかしなぜルネディアではなくメディセーラにばかり重要なモノがあるんだ?」


 腰のレイピアの柄をコツコツ爪で弾き鳴らしながら、ファディスが難しい顔で考えこんでる。たぶん無意識に、つぶやきがもれてしまった感じだ。


「ほほほ! 今は交流はないが、太古の昔それこそルフトラーガがまだ地上にあった頃には交流が盛んであったそうですよ」


 ひとりごとのようなファディスの、つぶやきにも女王は答えを返す。本当に全部の事情を話すつもりみたいだ。


「三大陸それぞれに一つずつ秘宝が眠っていたそうなのだけどルフトラーガ侵略戦の時、やはり未来を詠んだ者がおったそうなのです。が、侵略戦のさなか書が燃えてしまい王家に伝わる話はここまでなのです」

「結局は本当のことは分からないってことか。だがメディセーラにあったことで父上の手に渡ることはなかったのは良かったかもな」


 ファディスの言葉に、クロスがうなずき「あいつの手に転移石が渡っていたらと思うとゾッとする」と声を震わせる。


「そうだの……。もっと早くに世界は破滅に向かっていたであろ。妾の想像でしかないが、もしかしたらその者には、今現在に至るまでの未来が分かっていて秘宝をメディセーラに集め残したのかもしれないと思ったのです」

「フン! なるほどな。昔から先見スキルってのはあったってわけか」

「何度言っても信じなかったのはクロスであろ」

「スキルの存在まではソフィアを見てるから分かってたが、未来を予言なんて信じられなかったからな。まぁ、負けは負けだ」

「そうだの。賭けは妾の勝ちだの。ソフィアの予言が当たれば妾に従う。ソフィアの予言が外れたならば封印を解いてクロスは単身で父王を倒しに行く。でしたね」


 苦々しく舌打ちをして「あぁ。そうだよ! 仕方ないから従ってやるよ」と、クロスはドカッとソファに座ると手足をジタバタさせる。かなり悔しいらしい。


「そして約は、メディセーラで生まれた全てのモノたちを傷つけない。人間だけでなく動物も魔物も含まれる。破った時は再び城の地下に封印と言うのも忘れておらんな?」

「分かってるよ! クソったれ」


 更にクロスがジタバタ暴れる。狭いソファだからボクたちまでグラグラ揺れてしまう。


「クロスは不服かもしれませんが、サアヤと精霊たちの加護を得たニャーとファディス。勇者と聖女に強き仲間を巡り会わせることができました。妾と妹ソフィアが命を賭して双子スキル時合わせを発動したかいがあったというもの」

「双子スキル、初めて聞くわ」

「ボクも聞いたことない」


 受け継いだ爺ちゃんのスキルにも無い。ダンジョンのボスたちは親兄弟みたいなものだけど、爺ちゃんに双子はいなかったからね。


「妾とソフィアが研究して編みだしたスキルなのです。妾の過去読スキルとソフィアの先見スキルは、どちらも刻に関するモノ。上手く二つのスキルを組み合わせることが出来たなら、どうにか出来るのでは? とソフィアが言ったのです」


 女王は立ち上がり、まず天井を指差し。


「妾の過去読スキルは魔属性なので天に魔法陣を描きました」


 次に床を指さす。


「妹ソフィアの先見スキルは聖属性なので地下に魔法陣を置いたのです」


 最後にベッドまで、ゆっくりと歩いていく。


「聖を魔で、魔を聖で制することで時間を止めたのです。そして妾が魔力の供給源、人柱として、この城の中央に存在しておったわけだの」


 ベッドの上に女王は腰掛けた。ベッドこそが城の中心なんだろう。


「妾は城から一歩も出ることはできなかったがクロスと同じく年をとることもなかった。ソフィアは妾の半身、妾と同じく年はとってはいないであろ。けれども封印に魔力を使い続けてるなら、もしかしたらもう……」


 言葉がだんだん小さくなっていき、うつむき肩を震わせる。泣いているのかもしれない。


「チッ! 辛気臭いのは嫌いだ。とにかく時間が惜しい。まずは何をすればいい?」

「まずはルネディアに渡りファディスの友であるルノンを見つけ合流するのが良いでしょう」

「りょーかい!」

「少しお待ちなさい」


 転移石を発動させようと立ち上がったクロスを止めると、女王はベッドの下から二つの金の腕輪を取り出しクロスに向かって投げた。


「これはなんだ? 腕輪なんか一つあればじゅうぶんだろ」

「妾とソフィアの魔力の残り香が宿る腕輪。これがあれば赤い石の侵食を抑え、一年は生きながらえることができるであろ。ルノンは優秀な人間です。必ず渡して仲間にしてください」

「フン! 期限は一年ってことか……」


 一年、それを長く感じるわけもない。女王はまるで自分自身が痛みを感じたように顔を歪める。


「あとルネディアに渡る前に二人のカレンにこれを……」


 指輪よりも小さな金の輪を二つクロスに投げてわたす。


「了解。じゃあな」


 手を振ってからクロスは転移石を発動させる。複数の腕輪がシャランと音を立てた後、空気に溶けて消えていった。



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