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三十二話、女王と城(前)


「サアヤ! 久しぶり元気にしてた?」


 茶色のワンピースにエプロンをつけた女性は、勢いよく走りよってきたかと思うと飛びつくようにしてサアヤを抱きしめた。サアヤが大人になったら、こんな感じだろうなって思うくらいそっくりだ。


「もしかしてピネお姉さま!?」

「そうよ。ピネお姉ちゃんよ。顔をよく見せて」


 少し体を離してサアヤの顔を両の手のひらで優しくはさみサアヤの姉さんピネは、ふわっと微笑む。


「ふふふ! ピネお姉さま、レニィお姉さまにそっくりね」

「当たり前じゃない。もちろんサアヤもアタシたちにそっくりよ」

「姉妹だものね」

「そう、そう! 姉妹だもの。それにしても母さまからのお手紙に書いてあった事は本当だったのね」


 再びサアヤを抱きしめ「アタシたちが見えてるのね。本当に良かったわ」と、涙を流してピネは喜ぶ。


「えぇ。お顔が見られて、とても嬉しいわ。それでね。ピネお姉さま、この子が私に世界の色をくれた私の大切なニャーさんよ」

「まぁ! とっても可愛いじゃない。ニャーさん、サアヤを救ってくれてありがとう。アタシはサアヤの姉のピネよ。よろしくね」

「うん! よろしくピネ」


 ピネはサアヤから離れると、今度はボクをギュッと抱きしめてきた。さわやかな花の香りがピネからほのかにする。優しい匂い。ラスディの姉妹は三人とも凄く似てるから、そろったところを見てみたいと思ってしまう。


「この方は一緒に旅をしてるファディスさんよ。色々物知りでとても頼りになるの」

「これからもサアヤをよろしくね」

「あぁ。もちろんだ」


 ボクから離れてファディスを抱きしめる。ファディスは少し視線を泳がせ驚いた表情したけどピネを抱きしめ返した。


「ピネよ。そのような場所ではなく入ってきてもらいなさい。妾も早く皆に会ってみたい」


 部屋の奥から、しわがれた声がピネを呼んだ。しわがれているのに妙に耳に心地いい不思議な声。けれど間違いなく女王の声だと分かるからか、サアヤとファディスの体がピクリとと震え緊張が走る。


「はい。ヴェルチマー様、今そちらにサアヤたちを連れていきます」


 ピネは首だけで部屋の奥に向けて返事を返してから、ボクたちの方を見て微笑む。


「女王ヴェルチマー様は気さくな方よ。緊張しなくていいわ」


 ウインクまでしてピネは二人の緊張を解こうとするけど、やっぱり簡単にはいかないようでサアヤもファディスも表情は硬いままだ。


「って言われても緊張しちゃうわよね。私も最初そうだったもの。じゃ、みんなアタシについてきて」

「分かったわ」

「あぁ……」

「うん」


 軽い足どりのピネとは違い、サアヤは両手両足が一緒に動いてるし、ファディスは腰にさげたレイピアを握りしめてる。


「ヴェルチマー様、アタシの大切な妹たちをお連れしました」

「サアヤと申します。よろしくお願いします」


 旅の途中のサアヤは当然、綺麗なドレスなんて着てないから、ペコリとお辞儀をするだけになってしまったけど、女王は気にする様子もなく微笑む。


「ファディスだ」

「ニャーだよ」


 ボクとファディスは相手が誰であっても、まぁ……いつも通りの挨拶だ。まるで友達同士みたいな言葉使いをしても女王は、やっぱり気にしないみたいだ。心が広く大きな器を持った人間は素晴らしいのだと爺ちゃんが言ってた。きっとこの国の女王は凄い人なんだよね。


「ほほほっ! 可愛らしい子たちだこと。普段通りにしておくれ。ピネ、皆にお茶を用意してちょうだい」

「はい。ヴェルチマー様」


 広大な円形の部屋の中央、大きなベッドに女王ヴェルチマーは、淡いブルーのドレスに生成りのガウンを羽織って寝転がりくつろいでいた。腰ほどまで伸ばされた艶やかな紫がかった夜色の髪と瞳はファディスに似てるかもしれない。


「三人共こっちに来て座って待っててね」


 意外と力持ちのピネは、部屋の片隅に置かれた丸テーブルとソファを手際良く軽々と持ってくると「お茶、用意してくるね」と、スキップしながら一定間隔にある扉の一つに入っていった。台所かもしれない。


「突然、城に呼び出されて、さぞ驚いたであろ。本来なら手続きで一月は会うことができないのだけれど妾は、そなたたちを心から待ち望んでいたのです」


 ソファにボクたちが座ると、女王は立ち上がりゆったりとした足どりで向かい側のソファに腰を下ろした。長い裾がはだけて、透きとおるくらい真っ白な太ももが露わになる。よく見ると顔色も袖からのぞく指先も、まるで血の通わない人形のように白い。


「これ以上は待てないのでな、大臣共に内緒で、近衛達に頼んでおいたのです。ラスディを名乗る者が現れたら直接、妾の元に連れて来いとな」


 口元に手を当ててコロコロ笑う女王は、悪巧みが成功したのが嬉しいのか何だか楽しそうだ。


「待っていたと言うのは、まさかオレたちが来ることが分かっていたのか?」

「ほほほっ! 察しが良いのは嫌いじゃないよ。そう……妾は妹のソフィアが示した未来の運命を長い間、待ち続けておった」

「未来を待っていたとは、カレンが言ってた先見スキルのことか?」

 

 ファディスの言葉に、女王がうなずき「そなたが生まれた時にはソフィアはスキルは使えない状態だったようだけど……」と、顔を曇らせた。


「全てを話す前に、この城の存在する意味を知っておくれ」


 立ち上がり深呼吸をすると天に向けて両手を広げ呪文をつぶやく。早口すぎて意味は分からないけど、唱え終わると同時に城全体が熱を帯び青白く輝きだす。


 次の瞬間。


 ガタン!


 大きな音が響きボクたちは思わず上を見る。すると白く丸い天井が開き、月の光をとりこんだ金の粒子が舞い踊り複雑な模様を描きだし空中に魔法陣が現れた。


 そして……。


 ベッドの周りにも天井の魔法陣とは別の陣が赤く光を帯びて、先ほどまで誰もいなかったベッドには人間の子供が横たわり眠っていた。


「起きているのでしょう?」


 女王がベッドの側に行き声をかけると、まぶたを震わせゆるゆると目が開き子供は視線だけをボクたちに向ける。


「来たんだな……」

「ほほほ! 賭けは妾の勝ちでしたね」


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