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二十七話、カイのダンジョン(後)


「日が落ちる前に、まずはカイのダンジョンをなんとかしよう」


 ファディスが腰の鞘からレイピアを抜き、刀身に指先で触れた。すると刃全体が真紅に輝きはじめる。


『うん! うん! 良い感じにゃ! やっぱりファディスちゃんとサラちゃんの相性は抜群だにゃ! そのままレイピアを振るうだけで浄化できるはずにゃん』

「分かった。ニャーとサアヤは少し離れててくれ」


 ファディスから手を離し、ボクとサアヤは三歩くらい後ろへさがった。サラはファディスのことが気に入ったのか、再び頭に乗ってる。


「いくぞ!」


 かけ声と共に、ファディスはレイピアを水平に勢いよく振るった。すると金色に輝く火の粉がレイピアから放たれ、周辺のドロリとした黒い魔物たちに降りそそぐ。


「見て! 魚たちが海に帰って行くわ」


 浄化された魚やタコやイカが跳ねながら空中を泳ぎ、次々に海に飛び込んでいく。誰一人、一匹も死んだりしてないし、臭いさえもやわらいだ。


「良かったぁ!」

「あぁ。成功したみたいだな」


 ホゥと息をついてからファディスは安心したように、ホワッと微笑む。


『サラちゃんの見立て通り上手くいったにゃん! じゃ! このままボスのところまでレッツゴーにゃ!』


 サラは、ファディスの髪の毛を手綱のようにつかみダンジョンへ行こうと急かす。乗り物にされたファディスもイヤではなさそうだ。むしろ精霊が好きみたいで足どりが軽い。


「カイのダンジョンは海に繋がってるから一階層しか無いと聞いたことがあるが……」

「真っ暗で何も見えないね」

「壁をつたって行くしかないのかもしれないわね」


 ダンジョン内は、よどんだ空気と濃い霧まで出てるからか夜の闇よりも暗い。サアヤの言う通りヌルヌルした壁をつたいながら奥へと進んでいく。


『あっ! こんな時にこそサラちゃんがお役立ちするんだにゃん! 見てて! にゃにゃにゃんにゃん!!』


 ファディスの頭から飛び立つと、ボクたちの周りをクルンと回って、更に『ふん!』と気合いを入れる。その瞬間、サラの体が赤く光ってダンジョン内を照らしだした。


「わぁ! 明るいね!」

「サラさん、とっても綺麗だわ」

「凄いな」

『うひゃひゃ! サラちゃん褒められて上機嫌にゃ!』


 明るく照らされたおかげで、ダンジョン内の様子がよく分かるようになった。


「黒いドロドロはやっぱり小さな魔物たちなんだね」

「えぇ。それに生き物の気配がしないわ」

「まずはこの黒い魔物をどうにかしてみる」

『広範囲だからサラちゃんも手助けするにゃ』

「頼む」

『任せるにゃん!』

「いくぞ!」


 ちょこんとサラは再びファディスの頭の上に乗ると『元気大爆発にゃ〜!!』と叫んだ。同時にファディスがレイピアを大きな動作で十字に振るう。


 ヴォーンー……。


 目が開けてられないくらいに、ダンジョン全体が燃えるように真っ赤に染まったかと思うと、暖かい優しい風が外に向かいサァーッと吹き臭いも消し去っていった。


「呼吸がしやすくなったわ」

「それに明るいよ」

「それはたぶんアレだ」


 ファディスの指さした方を見ると、無数の青くて透明なクラゲたちが淡い光をおびて空中をふわふわ漂っていた。


『浄火の炎で魔物化した姿から本来の姿に戻ったんだにゃ』

「こんなにも綺麗なダンジョンだったのね」

「うん。ダンジョン全体が青くて海の中みたいだね」

「だが、この姿もまだ異常なのだろう?」

『そうなんだにゃん。ボスを正気に戻さないとダメにゃ』


 ダンジョン内を照らす青はクラゲだけじゃなくて、きっとダンジョンを形造る魔法石が淡い光を放っているからなんだと思う。当然ダンジョン自体にも強い力を感じる。


「あっちから何か聞こえるよ」


 目の前の大きな水たまりの先にある岩陰から、何かの気配と声がする。


「私にも聞こえるわ」

「あぁ。うめき声のようだな」

『苦しそうだにゃ〜』

「急ごう」

「そうね。行きましょう」


 水でぬめる岩肌を転ばないように気をつけながらも早足で進んでいく。


「あの子がボスかしら?」

「うん」


 岩と岩の隙間にうずくまっていた小さな魔物。ネズミゾンビは、サアヤの声に反応して頭をあげた。予想通り額には赤く禍々しい石が埋め込まれている。


【キ……キ……シャー……!】


 ヨロヨロと立ち上がると、歯をむきだしボクたちを威嚇してきた。けれど声に力はない。


「かなり弱ってるわ」

「あぁ、オレの浄火だと強すぎるな」

「ならボクが捕まえるよ」

「そのあと、すぐに私が癒しの手で助けるわ」

「それがいいだろうな」

『サラちゃんも賛成だにゃ』


 レイピアを鞘に納めファディスが一歩さがる。岩と岩の隙間にネズミゾンビはいるから、正面からでも捕まえられそうだ。でも……。


「もしも逃げられたらサアヤとファディスに頼んでいい?」

「もちろん大丈夫よ」

「あぁ。逃したりはしない」


 二人も後ろでかまえる。ボクは猫スケルトンに変幻して、尻尾をゆらめかせ姿勢を低くすると、ジリジリとネズミゾンビに近づいていく。お互い視線は外さない。緊張感で空気もかたくなる。


 ピチャン……。


 水滴が落ちる音で、ネズミゾンビに少しのスキができた。その瞬間、ボクはネズミゾンビにピョンと飛びかかって両前足で、しっかり捕まえた。


「あまり逃げようとしてないよ? カレンみたいに暴れないし……」

「かなり弱っているんだろうな」

「私が治すわ」


 サアヤがかけよって座りこんで、ボクの手の中でぐったりしていたネズミゾンビを優しく抱きかかえる。


「もう大丈夫よ」


 ネズミゾンビの背中を撫でるサアヤから黄金色の光が立ち登り、そのままゆっくりと染み込むように光はネズミゾンビの小さな身体に吸い込まれていった。


【……ポク、シンデ、ナイ?】


 辺りをキョロキョロ見渡しながら、ネズミゾンビはしゃがれた声で聞いてきた。


「えぇ。死んでないわ。痛いところはないかしら?」

【イタミ、キエタ】

「良かったわ。もう安心ね」


 リュックサックから布を取りだすと、ネズミゾンビの血にぬれた額と、涙にぬれた頬を、サアヤは丁寧に拭いていく。


【オマエ、タスケテ、クレタ、ノカ?】

「私だけでは助けられなかったわ。ここにいる皆んなで、あなたを助けることができたの」

【ソウカ、アリガトウ】


 表情が分かりにくいネズミゾンビだけど、なんだか嬉しそうに口元がゆるく笑った気がした。


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