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二十三話、密かに動くモノたち


 十日ほどは何事もなく順調に南に向かって馬車は進んでいた。


 ガタガタン!!


 いつものように小さな村でお昼ごはんを食べてから再び馬車が走りだした途端、突然止まった。


 ヒヒーン! ブルル! ブルル!!


 馬もかなり興奮して暴れてる。馬車が揺れてしまうくらいだ。


「モリス爺、どうした?」


 扉を開けて、ファディスが飛びだしていく。ボクたちも後につづく。


「魔物の群だ。しかも大型の魔物だ」

「なんだコレは!?」


 あまりの光景にファディスは固まってしまう。


「たぶんサアヤを襲った一つ目四足魔物と同じだよ」


 ボクたちの行く手を阻むように道を塞ぎ、右にも左にも、さらには後ろにも大型の一つ目四足魔物が三十体はいる。馬車に繋がれた馬はパニックを起こして飛び跳ね暴れて手がつけられない。


「えぇ。同じだわ。あの金属音も聞こえてくるもの」


 目を閉じてサアヤは耳をすませる。ボクとサアヤにしか聞こえないみたいで、ファディスとモリスは「どこからだ?」と首をひねり辺りをキョロキョロ見渡す。


「あちらの森の方からキリキリ鳴ってるわ」

「うん! なんか変な音がするよ」

「分かった。右手側の森だな。行こう」

「けど馬車はおいていってしまっても大丈夫かしら?」

「オレたちが魔物を引きつけて倒せば問題ない。オレとニャーが先をいく。サアヤはオレたちの後についてきてくれ」

「分かったわ」

「ではワシは背後を守る」


 スケルトンに変幻してボクは一つ目四足魔物に向かって爪を振り下ろす。ファディスもレイピアで次々と倒していく。サアヤはモリスと一緒にボクたちの後をついてくる。たまに背後から魔物が襲ってきても、さすがファディスの師匠だ。「今は剣は持ってないんでな!」と大きな声を発し魔物をひきつけると、斧を振りかざしためらいもなく一撃で倒してしまう。


「オレにも聞こえる。こっちだな」

「あぁ。ワシの耳でも分かる」


 すべての魔物を倒し、森の中に足を踏み入れると、さらに音は大きくキリキリカリカリと響く。木々の間をすり抜けボクの背よりも高い草を、かき分け奥へ進んでいく。


「ねー。あの人間、馬車に乗ってた人じゃないかな?」

「あのモノクルをかけた男性は間違いないわ」


 大きな岩と巨木の影に息をひそめて隠れ様子をうかがう。視線の先にある開けた場所には二人の人間と馬車が止まっているのが見える。


「馬車の隣にあるのは何かしら?」


 サアヤの細い指が指し示す場所には、馬と同じくらいのサイズの見たことない不気味な黒いモノが音を立てていた。馬車の隣に置いてあるせいで、馬は怯えて足踏みしたり首を振ったりして落ち着きがない。


「魔物を誘き出し操る魔道機ですよ。お前たちは何者ですか? なぜ僕らの居場所が分かったんです? それにそちらにいるのは死んだはずのファディス様ではありませんか」


 前方にばかり気を配っていたから、背後からもう一人近づいてきたことに気がつかなかった。と言うよりも気配が無い。グレーのモヤをまとった奇妙な人間は口元をニタニタ歪め、サアヤに手を伸ばす。ボクはとっさにサアヤの前に躍りでて、その手を爪で引っかいて払いのけた。


「おぉ! これは珍しい魔物ですねー!」


 緊張と警戒心で全身の骨がピリピリして、尻尾がビビンと立ち上がってしまう。ジリジリ近づいてくる人間に、姿勢を低くして爪を剥きだし、いつでも応戦できる体勢をとる。


「ニャー、少しだけでいい。あの者と話をさせてくれ」


 ピリピリした空気を破ったのはファディス。


「もしかして知ってる人なの?」

「あぁ。あの者は兄弟子だ」

「ワシの一番弟子だ」


 そう言われても不安はつのる。


「いきなり襲ってくる事はないはずだ」


 ファディスの言葉にモリスも「あぁ、大丈夫だ」と頷く。


「……分かった」


 ボクはピョンと跳ねるようにして後ろにさがり、サアヤの腕の中に飛びのった。素早い動きでファディスとモリスが、ボクたちの前にでる。


「ルノン……お前、だいぶ様子が変わってしまったな」

「ワシらの事は覚えているのだろう?」

「……僕は変わりたくて変わった訳じゃないんですよ」

「どういう事なんだ?」

「少し待ちなさい」


 問いつめるファディスをさえぎると、グレーのモヤ男、ルノンは口を大きく開けて聞き取りにくい言葉を早口で一気に唱える。サアヤの言ってた呪文ってやつかもしれない。


「隠蔽バリアをはりました。これで何を話しても大丈夫でしょう。まずはコレを見てもらう方が早いですね」


 グレーのモヤは相変わらずだけど、上半身を覆う黒いコートを脱ぎ、ワイシャツのボタンを外していく。そして最後に赤黒いシミのついたさらしを解く。


「な!?」

「お前、それはなんだ?」


 ファディスとモリスが驚きのあまり固まってしまった。が、ボクとサアヤには見覚えのあるモノだった。


「モリス爺がファディス様を連れて逃げた後、僕は近衛兵に捕まったんです。そしてコレを埋め込まれました」


 生きた人間とは思えないくらいの青白い素肌の中央、心臓部には脈打つ赤黒く禍々しい石が根をはっていた。ネズミゾンビのときと同じく血がにじみ痛々しい。


「僕は魔物と融合させられたんです。そのおかげで魔物の能力を受け継ぎ魔法も使えるようになりました。ですが、代償は帝国への絶対服従でした」


 絶句したままのファディスとモリスの様子に、苦い顔をしながらルノンは話し続ける。


「だから”表向きは”帝国に従っているフリをしています」

「じゃあ、本当は帝国に従ってないの?」


 ボクが思わず聞いてしまうと、ルノンは崩れてしまいそうな笑みをこぼし頷いた。


「僕以外にも実験をされた人々が大勢いました。奇跡的に”僕だけ”は死ぬ事はありませんでしたが一緒に実験された人々は死んだり狂って魔物となっていったんです」

「もしかしてダンジョンボスを狂わせてるのも帝国なの?」

「間違いないと思います。ゆくゆくはヨルのダンジョンボスにも手を出すつもりなのではないか? と思ってます」

「なんとかできないのかな?」


 地面を見つめミノのダンジョンで、つらそうにしていたカレンを思いだす。サアヤも同じ気持ちみたいで、震える手でボクを抱きしめる。


「……今、僕は”表向きは”帝国に従ってます。が、ルネディアの同志達と、いつかは王に反旗を翻すつもりで動いています。幸い、僕も正気じゃないと思われていますからね」

「仲間がいるの?」

「まだまだ人数は少ないし戦える力もまったく足りませんが、います」


 暗いグレーのモヤの中で、赤くギラギラ輝く瞳は強い意志を感じる。ルノンは嘘をついたり騙そうとする人間じゃないと思う。


「サアヤ、ファディス、ボクはこの人を助けたい」

「そうね」

「あぁ、もちろんだ」


 放心状態から我にかえったファディスも、そしてモリスも握りこぶしを作り気合い入れる。


「ありがとう」


 泣きだしそうにルノンが顔を歪めた、その時。


「No.666、どこにいるんです? 一旦、戻りますよ」


 モノクル男が声を張りあげ周囲を見渡す。


「時間のようですね……戻ります。あの男達は僕に任せてください。それではまたいつかお会いしましょう」


 去り際に、指輪を落としていった。ファディスが拾い大切そうに握りしめる。


「遅かったですね」

「……」

「まぁ、いいでしょう。お前だけでも生きていれば、とりあえず問題はありませんからね。とはいえ、ファディス様を失うだけではなく、せっかく集めた魔物を倒されてしまうとは、やはり一度ルネディアに戻るしかなさそうですね」

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