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二十二話、馬車の旅 


 まだ太陽も昇らない早朝、馬のいななきと大きなガタガタという物音で目が覚めた。モリスとファディスの声に混ざって、風が強いのかヒューヒューゴゥゴゥと、まるで魔物が叫んでるみたいな音も聞こえてくる。


「準備をしてるのかしら?」


 目をこすりながらサアヤが起き上がって着替えはじめた。「お行儀が悪いけど寒いから仕方ないわよね」と、笑いながらサアヤは床に置いてあったリュックサックを引き寄せ服を取りだすと、熱のこもる布団の中でモソモソ動きながら着替えた。ボクは寒いのも平気だけど何だか面白そう。ってことで、サアヤのマネをして布団の中にもぐって変幻して服を着る。真っ暗で二人分のぬくもりが残る布団の中は思ったとおり楽しかった。


「ふふふ! せっかくの美しい銀の髪の毛がくしゃくしゃね。私のお膝に乗って」


 温かなベッドの上、サアヤの膝に乗るとクシでスルスルと髪の毛を整えてくれる。髪の毛を触ってもらったりするのって凄く気持ちいいんだよね。尻尾がプルプルしてしまう。


「はい! 綺麗になったわ」

「ありがと! ボクもサアヤの髪の毛とく!」

「嬉しいわ。よろしくね」


 クシを受けとってサアヤの後ろに回りこんで、髪の毛をとかしていく。サラサラな赤毛はクシどおりもよくツヤツヤだ。


「どうかな?」


 クシを返してドキドキしながらたずねると、サアヤはふわっと微笑み「ありがとうニャーさん」と、抱きしめてくれた。


 コンコンコンコン!


「出発の準備が出来たんだが起きてるか?」


 ノックと共に、モリスの声が聞こえてきた。


「起きてるよ」

「今、行くわ」

「では外で待ってる」


 ベッドからピョンと飛び降りてリュックサックを手に、サアヤと手を繋いで部屋をあとにした。外へのドアをサアヤが開けようとしたけど、風が強く開きにくいみたいだ。ボクも一緒に押し開けようと手を伸ばすと、ドアが開いた。


「はっはっはっ! 今日は朝から吹雪いてるから気をつけな」

「ありがとうモリスさん」

「ありがと!」


 モリスが、がっしりした腕と手でドアを開けてくれた。その途端に風が雪と共に部屋へ入ってくる。慌ててボクとサアヤは外に出た。ファディスがドアを閉めて、しっかり鍵をかける。


「さぁ、乗ってくれ。カイのダンジョンまでは早ければ一ヶ月ぐらいで着くはずだ」


 雲の切れ間からもれた朝日が茶色の馬を照らし毛並みがピカピカ光る。馬車は風が強くても吹き飛ばないように、鉄製の金具でしっかり止められた木製の立派なものがとりつけられている。御者台にモリスが座り、ボクたちは扉を開いて乗りこむ。


「モリス爺、頼む」

「任せときな」


 リズム良くポクポク鳴る馬の蹄は耳に心地いい。車輪がガタガタガラガラと音をたてて、たまに道の段差や石を踏んだりして馬車と一緒に体が跳ねる。雪はやんだけど、たまに光がさすくらいで空はどんよりしてる中、馬車は南に向かって勢いよく走り続ける。


「ねー。カイのダンジョンまで、どのくらいで着くの?」

「何事もなく順調に行けば一カ月、長くても四十日前後で着くはずだなんだが……」

「なにか起こるかもしれないの?」

「あぁ。昨夜モリス爺から聞いた話では、地上で魔物が活性化してるそうなんだ。昔はダンジョンから這い出ても人を襲うほどの強い魔物はいなかったらしい。だから最近まではギルドへの魔物討伐依頼は滅多に来なかったと言っていた」

「もしかしてサアヤが魔物に襲われてたのも関係あるの?」

「間違いないな。今までも狼タイプの魔物が群を作って街を襲うことがあったが、大型で一つ目四足魔物が群れで人を襲うなんて地上では、まずありえなかったからな。ましてや魔王が復活したなんてこともないからな」

「そっか。ダンジョンの上の階に行くほど下級魔物になってしまうってグノーも言ってた」

「そういう事だ。そして問題なのは群れを作りだすボスが存在するんだ」

「……ボスってダンジョンボスみたいなの?」

「いや、理性は無いと聞いた。ヤツらはただ強いヤツに従ってるだけだと思う」


 それまでボクたちの話を聞いていたサアヤが「関係があるのか分からないけど少し気になることがあるの。いいかしら?」と、首をかしげながら聞いてきた。


「サアヤ何か知ってるの?」

「知ってるわけではないの。でも耳で聞いたのよ。ニャーさんに出会う少し前、私は家の周りの柵をつたいながらいつもと同じ道を散歩していたのだけど、あの日は村の住人じゃない人の声がして、そのすぐ後に魔物が現れたのよ」

「どういう事なんだ? その人物はサアヤを狙ったというのか?」

「分からないわ。言葉も聞き取りにくいというより、何かの呪文のように思えたのだけど……」


 サアヤはそこまで言ってから、ファディスを見つめる。


「大丈夫だ。話してくれ」

「ファディスさんが教えてくれた魔導機かもしれないの。人の声に混ざって聞きなれない金属の音が響いていたわ」


 ファディスは足を組み、頭を抱え「うぅーん」と唸る。


「……間違いなくオレの父上が関わってそうだな。ルネディア帝国なら何をやらかしても驚かないが……魔物をテイムした感じではないんだな?」

「えぇ、違うと思うわ。テイムが私とニャーさんを繋ぐ優しく温かい関係なら、あの場所にいた人たちから感じたモノは冷たくて凍りつくようだったの」

「なるほど。やはりテイムというよりは、魔物を操っている感じがするな。だが分からないな……。なぜサアヤを狙ったのか?」


 グノーに出会う前の、サアヤの癒しの手はEだったから狙われる理由は無いって思うんだよね。なら残るはコレしかない。


「ねー! もしかしてサアヤって聖女なんじゃないかな?」

「ふふふ! 違うと思うわ」


 口に手を当てサアヤは、ころころ笑う。


「いや、ありえないことではないと思う」


 そんなサアヤを、真剣な表情でファディスは見つめる。


「どういうことかしら?」

「聖女というのは家系で引き継がれたりするものでもないし、ましてや修行して獲得出来るものでもない。危機に陥った時に低確率で奇跡的に獲得出来る希少スキルなんだ」

「そうなのね。でもなぜ私なのかしら?」

「たぶんサアヤを狙ったというより手当たりしだい人に魔物をけしかけてるんだろうな」

「じゃあ、サアヤが狙われたのは偶然なの?」

「偶然かどうかは分からないが、王都や大きな街で騒ぎを起こすのはマズイ。だから小さな村の周辺に潜み、住人が一人になったのを見計らって襲ったように思う」

「私の他にも襲われた人がいるかもしれないわね……」

「いるだろうな。父上……ルネディアの王は手段を選ばない。そして目的は考えるまでもなく封印の維持だとオレは思う」

「でも私は私自身は、聖女ではないと思うわ」

「なぜ言いきれる?」

「お父さまがスキルを調べてくれた時は、特別なことは何も起こらなかったんだもの」


 サアヤは袖口を少しまくり腕輪をファディスに見せる。


「たしかにオレたちと変わらない普通のギルドの腕輪だ。だが聖女ではないとしても、サアヤのスキルはルネディアに狙われる可能性が高い。気をつけた方がいい」

「何があってもボクがサアヤを守る!」


 握りこぶしを作って立ち上がり、耳も尻尾もピンと伸ばし、ボクは大きな声で宣言した。


「ふふふ! ありがとうニャーさん!」

「オレも全力でサアヤを守ると誓おう」

「ありがとう。ファディスさん」


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