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二十話、仲間 


 すっかり真っ暗になって夜風が吹き荒れる中サアヤが火を起こす。ボクとファディスは火が消えないように壁になったり、乾いた落ち葉を探したりした。パチパチと爆ぜる音と炎の暖かさを感じながら、定番になった干し肉スープを食べる。身体がホカホカ温まるし塩味もきいて美味しい。さらにファディスが「鞄が無事で良かった」と、草むらに放りっぱなしだった肩掛け鞄を拾ってくるとパンを分けてくれた。


「これからお前達はどうするつもりなんだ?」


 野宿なのに黒パン二つも食べられる嬉しさに尻尾がゆらゆら揺れてしまう。硬めで噛めばかむほど甘みが増す黒パンは、実はボクの大好物だったりする。歯ごたえがいいからね。お腹いっぱいになって大満足の夕ごはんになった。ファディスは食べ終わると、再び立ち上がって道の傍に投げ出されたままのレイピアを拾い腰の鞘におさめた。ボクたちも腰を上げ寝床の準備を始める。


「ボクたちはカイのダンジョンに行くんだよ」

「助けて欲しい魔物さんがいるみたいなの」

「カイのダンジョンか……。そういえば変な噂を聞いたな」

「変な噂?」

「ダンジョン内を魚が飛んでいるんだそうだ。どうやら先ほど聞いたミノのダンジョンと同じことが起こってるのかもしれないな」

「だったら私たちで治せるわね」

「そうだね」

「なるほど。精霊から貰った癒やしの手か……興味深いな……」


 サアヤをまじまじ上から下まで観察するように、ファディスがじっくりみる。サアヤは気にする様子もなく微笑みかえす。


「ファディスはこれからどうするの?」

「追ってきた奴らには、オレが死んだと思われてるだろう。母上の為に動くなら今だと思う。だから……」

「ならファディスも一緒に旅をしよ!」

「あなたがいてくれたら心強いと思うの」

「いいのか?」

「もちろんだよ! ボクたちのパーティーにおいでよ」

「そうね。それがいいわ」

「ありがとう」


 再び頭を下げたファディスの首に、ボクとサアヤは飛びつく。ファディスの方が背が高いから首に少しぶら下がり気味だけどね。鍛えてるからだろう力強いファディスはビクともしない。


「お礼は母さんを助けてからでしょ!」

「そうよ。仲間だもの」


 ファディスは目をまんまるにしてから、ほんの少し目を潤ませながら微笑んだ。


「ニャーとサアヤ、これからよろしく頼む」

「うん。よろしくファディス」

「ファディスさん、よろしくお願いします」


 握手を交わす。ファディスの手のひらは剣術をやってるから硬くしっかりしてる。きっと母さんを助けるために沢山沢山、稽古して努力したんだと思う。袖口から、ちらりと見えた腕輪の宝石の色もブルーのAランクだった。それになによりファディスは、ボクたちの知らない外の世界の事を沢山知っているから、すっごく頼りになりそうなんだよね。


「寄り道さえしなければカイのダンジョンは、このまま南に歩けば半年ぐらいで着くはずだ。港町に近いから人も多いし屋台もあって賑わってる。だが今日はここで野宿した方がいい」

「カイのダンジョンは凄く遠いんだね」

「大陸の北から南まで移動するようなものだからな」

「早く行きたいけど夜は危険なのよね?」

「あぁ。魔物が活性化するからな」


 ファディスの母さんの事や、カレンの兄弟の事、色々と心配で気になることだらけで早く行きたい気持ちになるけど、今日は寝てしまったほうがいいみたい。


「サアヤ明日にしよ?」

「そうね」


 雲が風で流されて夜空に月と星が戻ってきた。月明かりの中、敷いた毛皮の上でボクとサアヤは、いつものように毛布にくるまり抱き合って眠る。ファディスは、まだ少し気が昂っているのか、毛皮の端っこに座ったままレイピアを抱えるようにして目を閉じた。途中、目を覚ましたサアヤがファディスの肩に毛布をかけてあげていた。目を開けたファディスは照れくさそうに「ありがとう」と微笑み、今度こそ横になって眠りはじめた。



 朝になるとビチョビチョだった道は乾きはじめ水たまりが所々に残るだけになっていた。それを避けながら三人で歩きだす。


「あせっては駄目と分かっているけど早くカイのダンジョンに行きたいわね」

「うん。馬車も通らないし……」


 一応、爺ちゃんの飛行スキルはあるんだけど、ボクには翼がないんだよね。爺ちゃんは大きな骨の翼を持ってたから飛べたんだと思うけど、どうしようかな?


「ならば、この先のメルの村で馬車を借りたらいい」


 変幻で翼を作れないかな? とか色々、考えながら歩いてると、ファディスがボクの肩をポンと軽く叩いて教えてくれた。


「馬車あるの?」

「ある。メルの村だったら、ここから半日もあれば着くはずだ。明日、馬車を借りてカイのダンジョンに向かえばいい」

「良かったわ。早く着きそうね」

「うん!」

「とても詳しそうだけど、もしかして知り合いがいるのかしら?」


 ボクも気になってたことを、好奇心の塊のサアヤは聞かずにはいられなかったみたいだ。


「師匠が住んでるんだ」

「お師匠様がいるのね」

「まぁな。ルネディアにいた時、オレの剣術の師匠だった人だ。王の近衛に襲われた時にオレを守り共にメディセーラに渡ってきた。それで今はメルの村で表向きは商人の真似事をしてる」

「ファディスと一緒に逃げてきたんなら凄く強そうなのに今は商人ってことは、もしかしてもう剣士じゃないの?」

「いや。たぶん今も密かに鍛錬は続けてるはずだ。ただ田舎で冒険者でもない者が剣を持ってるのは不自然だから仮の姿ってヤツだろうな。まぁ……。もっとも商人というよりも、野菜作りの方に夢中になっていたから今は何をしてるのか分からないがな」

「そっか。会えるのが楽しみ」

「あまり期待はしないほうがいい。見た目は、ただの厳つい爺さんだ……」


 そこまで話したところでファディスが足をピタリと止めた。ファディスの視線の先を見ると、クワを肩に担いだ麦わら帽子をかぶったオーバーオール姿の人間が走ってきた。所々が、すり切れ膝小僧が見えてしまってる。


「もしかして、あの方がファディスさんのお師匠さまかしら?」

「あぁ……」


 ニカッと笑いながら大きく手を振って近づいてくる。身振り手振りも激しく、ドスドスと足音が聞こえてきそうなほどだ。けど水たまりを、しっかりよけてるのが凄い。


「おぅ! 久しぶりだなファディス坊ちゃん!」

「久しぶりモリス爺」

「がっはっはっはっ! 元気だけがワシの取り柄だからなぁ」

「相変わらずみたいだな」


 ボクたちの目の前までくると、見上げるほどの巨漢で声まで大きい、大男はファディスの頭を少し乱暴に、くしゃくしゃ撫でて「無事で良かった」と再びニカッと笑った。ファディスは痛そうにしながらもされるがままに「モリス爺も無事で良かった」と微笑んだ。


「それで、この者達が誰なのか紹介してくれないか?」


 真っ黒な瞳が好奇心でキラキラ輝く。


「オレの……」


 “仲間”と言ってしまってもいいのか悩んでるんだろう、目をさまよわせるファディスの手を握る。ボクは左手、サアヤは右手、手を繋ぐのは仲良しの証。


「ボクはニャーだよ。ファディスの仲間なんだよ」

「私はサアヤと申します。ファディスさんの仲間です」

「ありがとう。二人共。うん! ニャーとサアヤはオレの大切な仲間だ」


 大男はボクたちの言葉に少し驚いた顔をしてから、破顔した。とても嬉しそうに。


「そうか! そうか! 良かったなファディス坊ちゃん。これでワシも安心だ。ワシはモリスだ。よろしく頼む」


 ファディスだけではなく、ボクとサアヤの頭をくしゃくしゃに撫ででくる。


「よろしくモリス」

「モリスさんよろしくお願いします」

「では我が家に招待しよう」


 ご機嫌に鼻歌を歌いながらモリスは、のっしのっしと体を揺らしながら、ボクたちの前を歩きはじめた。でもさすがファディスの剣術の師匠だよね。ただニコニコしながら歩いてるだけかと思ったら全く隙がない。もしかしたら凄い冒険者なのかも?


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