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十九話、禁忌 


 うつむき頭を抱えながらファディスはポツポツと話しはじめる。 


「オレの故郷は今は酷い状態なんだ」


 軍事帝国ルネディアに住む者たちは魔力を持たないが、大陸全土で良質な魔法石が大量に取れた。魔化学者達が魔法石を元に魔力で動く魔導機を発明すると、料理や洗濯といった様々な家事を助ける魔導機や仕事に使う多種多様な道具、さらには色々な武器まで作られた。


「こんな感じの物だ」


 顔をあげて辺りを見まわし、落ちてた小枝を手に取り地面に、ゴミ取り魔導機、洗濯をしてくれる魔導機などの絵を描いて見せてくれる。


「とても便利そうね」

「うん。本物、見てみたいな」

「オレが生まれた時には、もう魔導機が生活の一部だったから分からなかったんだが、このヨルの大陸で魔導機がない生活をしてみると、魔導機の便利さがよく分かった」


 大陸全土で魔法石が取れなくなると、今度はヒルのダンジョンのある山を削るようにして魔法石を採掘し始めた。最初は大量に取れていたんだが、しだいに取れなくなってくる。そこで王は、全体が魔法石で出来てるヒルのダンジョンそのものを帝国兵に攻略するよう命じた。攻略とは言っているが、実際は破壊としか言いようがないものだったらしい。


「もしかして私たちの大陸にあるヨルのダンジョンも魔法石で出来てるのかしら?」

「三大ダンジョンは同じ構造だと研究者から聞いてるから間違いなくそうだろうな。そして重要なのは魔法石も永遠に取れるわけではないという事なんだ」

「ダンジョンを破壊してもボスが生きているかぎりダンジョンは死んだりしないんだよね?」

「本来ならな。だが父上…。ルネディア帝国の王は禁忌を犯したんだ」


 ダンジョンを兵器と掘削魔導機を使い、縦に掘り進め巨大な穴を作り出した。そして魔導機を使って地下層から地上へ魔法石を運び出し加工していく。何十年もかけて、ついにボスのいる部屋まで掘り進めてしまった。


「魔物さんたちはどうなってしまったの?」

「逃げられたのかな?」

「片っ端から討伐したらしいと聞いてる。できれば生き残っているといいんだがな……」


 ファディスは、眉間に皺をよせ唇を噛み拳を握りしめる。握ったままだった小枝が、パキッと折れた。ツラそうな表情をするファディスは、本当は優しい人なのかもしれない。


「話しを続ける」


 ダンジョンの心臓であるボスを捕えれば永遠に魔法石が生みだせると考えたルネディアの王は、ルネディア城の地下牢獄にダンジョンボスを捕獲。予想通り魔法石は生み出され続けてはいる。あとどのくらいボスの命が持つかは分からないが……。


「ただ鎖に繋ぐだけでは逃げられる。だから強大な力を持つボスを封印する為に、オレの母上ソフィアを人柱にしたんだ。母上はメディセーラ大陸の女王ヴェルチマーの双子の妹だから魔力が強かった。それを利用されたんだ」

「そんな酷いことを……」

 

 サアヤは顔を両手でおおい震えだした。泣いているのかもしれない。ボクはサアヤの背中を撫でさする。優しいサアヤには想像もつかなかったんだろう。


「そもそも今までは王家が他の大陸から妻を娶るなんてこと自体なかったというから、もしかしたら最初からオレの母上を人柱にする為にルネディアに嫁がせたんじゃないかと思ってる」


 ルネディア帝国のあるグレングル大陸に生きる人間達は魔力は一切持たない。だからルネディアの王はメディセーラ大陸に生きる者達、特に魔力が強い王家の双子に目をつけた。


「友好の証としてメディセーラの妹姫ソフィアと、ルネディアの第二王子クロスが、それぞれ大陸へ渡り王家に入った。ルネディアではオレが生まれたんだが、身の危険を感じていた母上はオレを男として育て鍛えた。そして一年ほど前に王の近衛兵の襲撃があり、その時にオレを逃したってわけだ」

「じゃあ、ファディスは一年前にこの大陸に来たの?」

「いや。王の近衛から身を隠しながらだから、ここに来たのは、だいたい半年前だな」

「妖精を探してた理由も聞いていい?」

「それは母を救うためだ。妖精の力と知恵を借りたいと思った」

「そっか。ファディスは母さんを助けるために必死だったんだ。でも次に狙われてるのは妖精ってどういうこと?」

「それは母上の魔力があと少しで尽きるからだ。母上の魔力が尽きれば封印が解かれる。だからその前にルフトラーガの四精霊で封印し直すと王は言っていた」

「ねぇ。魔力が尽きるとどうなるの?」


 嫌な予感がする。けど聞かずにはいられない。ファディスは目を閉じて「死が待ってる……」と、おしころしたような声でつぶやいた。


「そんな! どうにかできないの?」

「どうにかできるんならオレがもう母上を助けてる!」


 ファディスが立ち上がって、顔を真っ赤に染め目には涙をためてボクたちを睨む。


「ニャーさん、私たちがファディスのお母さまを助けに行くのはどうかしら?」


 サアヤが、目元を袖口でこすりながらボクを見つめる。泣き腫らした目は真っ赤になってるけど、ファディスの母さんを助けたい気持ちはボクもサアヤと一緒、だから。


「うん! 助けに行こう!」

「おい! そんな簡単な話じゃないんだぞ。それにそんな冒険者ランクじゃ、王の近衛には到底、勝てない」


 そうだよね。たとえ個人のランクが高くても、新米Eランクパーティーじゃ心配になるよね。本当は正体を明かさない方がいいかもしれない。けどファディスの母さんが死んでしまうのは嫌なんだ。それに今までの話でファディスが悪い人間じゃないって分かった。


 だから……。


「サアヤ、ファディスに本当のボクを知らせてもいいかな?」


 サアヤの耳元で小声で聞いてみると「そうね。ファディスも話してくれたんだもの。私たちのことも知ってもらうほうがいいと思うわ」と、力強くボクの手を握って微笑んだ。


「ファディス、ボクの本当の姿を見せるよ」


 いつものように、ポプンッと軽い音を立てて猫スケルトンに変幻してサアヤに飛びつくと抱っこしてくれた。同時に隠蔽スキルをすべて解除した。


「なんなんだ! その魔力量は! まさかとは思うがダンジョンボスなのか!?」


 ファディスは二、三歩、後退り、ボクたちから距離をとる。母さんが魔力持ちだったから、ボクの魔力を感じることができるって思ったけど正解だったみたい。


「ボクはヨルのダンジョンの最下層で生まれたんだ。でもボスじゃないよ。ボスは爺ちゃんだったんだ」


 驚きのあまり石のように固まったままのファディスに、これまであったことのすべて話して聞かせた。サアヤはボクを抱きしめて額の辺りの骨を撫でてくれる。眉間っていうのかな? その辺りを撫でられると、すっごく気持ちいいんだよね。


「なるほどな……。ニャーが強いのは分かった。だが危険だぞ? 奴らはヒルのダンジョンボスを倒したんだからな」

「サアヤもいるし、これから王都にも行くし、ルフトラーガにも行くんだよ。だから話をして協力してもらうんだよ」

「女王様も妹君に危機が迫ってると分かったら、きっと協力してくれると思うわ。もちろん精霊さんたちも!」


 無言でファディスは腕組みをしながら、ボクたちの周りをぐるぐる歩きまわる。凄く難しい顔をしてるから、かなり悩んでるみたい。


 しばらくしてからファディスは、ボクとサアヤの前に立ち止まって頭を下げた。


「危険かもしれない。だが頼む。オレと来て母上を助けてくれ! いや、助けてください……」

「もちろんよ」

「うん。絶対助けるよ!」


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