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十五話、踊る野菜 


 雪は少しずつ辺りを白色に変えていく。どんより曇り空も寒さもなんのその、ボクたちはすっかり雪に夢中だ。


「見て! 草や木の枝に白い花が咲いてるみたいよ!」

「本当だ! あ! 風で雪が吹き飛ばされてく!」

『ふわふわぁ〜綿毛みたいぃ〜! 綺麗ぃ〜!』


 ときおりすれ違う冒険者たちは、厚手のコートと手袋とマフラーをしてても体を縮めて歩いてる。コートの上に、さらにモコモコ毛皮まではおってる人までいたりする。


「凄く寒そうに歩いてるね」

「この辺りの冬は、特に寒くて厳しいのよ。でもね。夏は涼しくて過ごしやすいから避暑地になっているみたいよ」

「そうなんだね。サアヤとグノーは平気そうだね?」

「ふふふ! クランシャン村も同じくらい寒いから、寒いのには慣れてるわ」

『精霊はぁ〜暑いのもぉ〜寒いのもぉ〜平気ぃ〜。ニャーさんもぉ〜平気そうだねぇ〜?』

「ボクはスケルトンだから大丈夫なんだよ」


 スケルトンは、暑い寒いは感じるけどダメージはまったくないんだよね。だから人型になっても平気みたいだ。もしものことがあっても、爺ちゃんの灼熱無効化と凍結無効化があるから大丈夫だったりする。


「あれかな?」

「きっとそうだわ。人が集まっているもの」

『焚き火ぃ〜してるぅ〜』


 おしゃべりをしながらミノのダンジョンまでは歩いて二時間ほどで着いた。グノーはボクの胸元に潜り込んで隠れた。


「よぅ! お前さん達も野菜見物に来たんか?」

「けっこう今日はダンジョンの中は混んでるわよ」

「あんま広くねーダンジョンだかんなぁ」

「あぁ。しかも三階層しかないから野菜と人でごちゃごちゃしてんだわ」


 焚き火にあたりながら干し肉を噛みちぎってた四人組の冒険者が、ボクたちに気がついて干し肉を持ったまま手を上げ挨拶してきた。ボクたちはペコリとお辞儀で返す。


「はい。行ってきます」

「うん。面白そうだからね」

「そうか、そうか。楽しんでこいよ」

「捕まえて食べるといいぜ!」

「暑いから気をつけろよ!」

「お水を持っていくといいわよ。あまりものだけどどうぞ!」


 もこもこ毛皮のお姉さんが、水の入った竹筒を投げてくれた。


「貰ってもいいの?」

「あたし達、これから街に行くから、そこでまた買い足す予定なの。だから気にしないでいいわよ」


 お姉さんはウインクをする。さらに干し肉を持ったまま手をふってくれた。干し肉は最後まで手放さないつもりらしい。干し肉四人組と別れて焚き火の横を通りすぎると目的地に到着した。


「ミノのダンジョンには受付は無いのね」

「焚き火してる人たちがいただけだったね」


 小屋とか門とかは無くて、地下ダンジョンへの暗い入り口がぽっかり開いてるだけだ。


「行ってみよ!」

「そうね!」


 サアヤと手を繋いで地下への階段を進んでいく。外より暖かいし風も優しく吹いてる。


「上着を脱ぐから少し止まっていいかしら?」

「思ったより暑いね」


 コートとマフラーと手袋を脱いで鞄に詰めこんでから、サアヤはハンカチで額の汗を拭いて腕まくりした。


「お待たせ。行きましょう」

「行こう!」


 五十段くらいの階段を降りると一階層にたどり着く。すると噂通りの奇妙な光景が広がっていた。


「まぁ! 栗とピーマンがはじけて、枝豆は種を飛ばしながら浮かんでいるわ!」

「サアヤ! あっちにレタスとキャベツが葉っぱをパタパタさせて空を飛んでるよ!」

「見て! さつまいもとじゃがいもは根っこが足になっているのかしら? とても早く走っているわ!」

「きゅうりとトマトは茎やツタを振りまわして踊ってるよ!」

『面白いぃ〜けどぉ〜あり得ないぃ〜』


 他の野菜たちもせわしなく奇妙な動きをしてる。けど冒険者たちが捕まえると動かなくなる不思議な野菜たち。グノーも思わずボクの胸元から頭だけ出して興味津々で見てる。幸いなことに冒険者たちは動き回る野菜に夢中で、精霊グノーに気がつく様子はまったくない。


「食べてみましょう!」

「じゃ! 捕まえよう!」


 ボクとサアヤは同時に走りだした。


「さつまいもがいいわ」

「うん! すっごくいい匂いしてるからね!」


 あちらこちらで人々が小さな焚き火をしてる。そしてどうやら焼き芋を食べてるみたいなのだ。食べてる冒険者たちの笑顔と香ばしくて甘い匂い。食欲がそそられて、たまらないよね。


「思ったより足が速いわね」

「あそこの壁に追い込むのはどうかな?」


 ダンジョン中を走りまわってると、岩が丁度いい感じにコの字形になってる場所を見つけた。


「分かったわ。私は左から行くわ」

「じゃあ。ボクは右からだね」


 岩と岩の間でクルクル踊るように動くさつまいもに、足音をひそめてゆっくり近づいていく。緊張で耳と尻尾がピンと立つ。


「今よ!」

「うん!」


 二人で同時に、さつまいもめがけて飛びかかった。


 ズザァーーー!

 

「捕まえたわ!」

「やった!」


 顔が半分くらい隠れてしまうほどの大きなさつまいもを、サアヤとボクは両手でつかんだ。さつまいもは少しジタバタした後、すぐに動かなくなった。


「落ち葉を集めて焼きましょう」

「いっぱい落ちてるね」


 枯れた葉っぱや小枝を拾い集めていく。グノーも周りをキョロキョロ見渡し誰もいないことを確かめると、ふわっと胸元から羽ばたき出るとボクたちと一緒に枯れ葉をひろう。


「きっと暴れてる野菜から落ちた葉っぱかもしれないわね」

「そうだね」


 今も踊ったり走ったりしてる野菜たちから、葉っぱや根っこがポロポロ落ちてくのが見える。


「これくらいでいいかしら?」

「うん。いいと思う!」


 両手で抱えた枯れ葉を地面に固め置くと、サアヤが火打石で糸に火をつけて枯れ葉の山に放りなげる。するとじわじわと煙が上がって炎が灯った。もちろんさつまいもも入れてある。


「いい匂いがしてきたわ」


 パチパチと音が鳴って、モワモワッと煙がただよう。少しけむたいのさえ楽しい。


「もう食べられるかな?」

「えぇ。大丈夫だと思うわ」

「ボクがさつまいも出すよ!」


 周りの冒険者たちに見えないようにして、手の部分だけスケルトンに変幻させる。スケルトンなボクは炎は平気だから、焚き火の中に手を突っ込んで、さつまいもを探してつかんだ。


「三人で分けよう!」

「そうね」


 アツアツの大きなさつまいもを三つに割って、サアヤにはハンカチにさつまいもを包んで渡して、グノーには岩場の辺りに生えてる木から葉っぱを取ってさつまいもをのせた。


「ニャーさんありがとう」

『ありがとぉ〜ニャーさん〜』

「熱いから気をつけね」


 初めてのさつまいも。アツアツでいい匂い。皮をめくるとが湯気ホワホワ。


「おい! お前達なんで精霊連れてんだ!」


 さつまいもに、かぶりつこうと口を開けた瞬間、木陰から人が飛び出してきた。声をかけられて驚いたグノーは素速くボクの胸元にもぐりこんだけど、ばっちり見られてしまったみたい。


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