第5節11項 復讐者
10月16日。
邪竜騎士団団長ホメロスと第一軍団長ミッチェルの戦死を受け、ラズ城守備軍は降伏。
包囲戦から2ヶ月弱。ようやくグングニルはラズに入城した――
………………
「ジーク、投降したファブニルの兵士たちは武器防具を没収して広場に拘束してあるぞ」
「ご苦労、伍長」
馬に乗って、伍長とともにその例の広場へと向かう。
――これから始まるのは、投降したファブニル兵たちの処分。
ラズ紛争において、ノーザンブルクにおいて虐殺を展開したファブニル軍へ、どのような対処を下すのかは、この自分の裁量に委ねられている。
――広場に到着すると、100名近い兵士たちが手を縄で縛られて地面に座っていた。
「……これはなかなか雑な扱いだな、伍長」
と、薄ら笑いを浮かべるが、それに対して伍長は苦笑いを浮かべる。
それを横目に椅子に座る。
「……まあいいさ。まずは、将軍級士官から処理していこうか。どうせ、すぐに終わる」
………………
――将軍、とはいうが、邪竜騎士団の将軍級は、もはや右手で数えられるほどもいない。
「……まずは、参謀であるオリヴァー・プラントだ」
と、赭色のサーコートを纏った男が連れてこられる。
伍長が、彼の経歴を読み上げる。
「オリヴァー・プラント。ラズ紛争の際に――」
「殺せ」
「………………は――?」
伍長と、オリヴァーが、信じられないような目でこちらを覗く。
「伍長、何度も言わせるな、さっさと斬れ」
「いいのか、本当に――」
「斬れ」
「……わかった」
伍長は兵士たちに目配せした。
オリヴァーは、兵士たちに立たされ、そして刑場へと歩いて行った。
………………
次にやって来たのは、オレンジの髪の男女一組だった。
しかし、もはや彼らに興味はない。
どうせ彼らも虐殺の加担者。
そんな者どもに貸す耳は持ち合わせていない。
「……邪竜騎士団第三軍団長ライト・アイゼンブルクと、副団長ジンジャー・コリントだ」
「……………………ライト…………?」
どこかで聞いたことがある名前。
記憶を辿る。
「ジーク?」
伍長が顔を覗く。
いや、なんでもない、続けてくれ、と言う。
「そうか……彼らはラズ紛争で――」
――ラズ紛争。
――ライト・アイゼンブルク。
椅子から立ち上がる。
伍長がこちらを見る。
「ジーク?」
彼の視線はよそに、ライトという男に駆け寄る。
彼はそれまで俯いていたが、目の前に俺が立ったのを見て顔を上げた。
「――ライト将軍、ジョン・カーターという男を覚えていますか」
ライト将軍は、――覚えている、ラズ紛争の時に私が接触したラズ市民だ――と言った。
即座に伍長の方を振り向いた。
「伍長、何をしている、早くこのお方の縄を解いて差し上げろ」
「は……?あ、ああ」
伍長は剣を抜いてライトを縛る縄を切る。
困惑を浮かべるライトの手を握った。
「将軍、私はそのジョン叔父上の甥です。ラズ紛争の際に叔父上に命を救っていただきました。その叔父上から、ライト将軍は命の恩人だと常々聞いておりました。」
「ジョンの――」
「はい。私の命の恩人を粗末には扱えません、将軍にはこのラズの土地を差し上げましょう。」
しかし、ライト将軍は首を激しく振る。
「私はファブニルの将軍。その私をかように厚遇するのは、内外から批判を買いましょう」
「それは、確かに。ならば、望むものを1つ差し上げましょう」
ならば、とライトは言った。
「このジンジャーは、ラズ紛争の時はまだ成人しておらず、ノーザンブルクの際もラズで留守をしていたので虐殺とは無関係です。どうか彼女をお救いください」
ほう、と横の女を見る。
この若さで幹部とは、かなり実力ある者らしいが、ライト将軍の願いとあれば断れない。
「いいでしょう。伍長、彼女の縄を解いて差し上げろ」
「はっ」
ジンジャーの縄が解かれる。
ライトとジンジャーは抱き合う。
それを見て、咳払いする。
「将軍、ぜひあなたを我が幕下に加えたいのですが――」
「私の部下を救ってくれた恩は忘れませぬ、ジーク殿の願いとあらば喜んで」
ライト将軍と握手を取り交わす。
「シュナイダー」
「はい、なんでございましょう」
にゅっ、と物陰からシュナイダーが現れる。
伍長が不意に、うおっ、と声を立てた。
「将軍たちを宿に案内して差し上げろ」
「はい、承知しました。ではライト殿、こちらへ」
「……ああ」
ライト将軍一行はシュナイダーに着いていく。
それを見送ると、伍長が耳打ちした。
「将軍級はこれで全員だ」
そうか、わかった、と空返事をする。
「――ならば、あとの捕虜は斬れ」
「……本気か?」
と、伍長が聞く。
「逆に、冗談でこんなことを言うとでも?」
「………………わかった」
伍長は麾下の兵士たちに命じて捕虜たちを郊外にまで歩かせた。
………………
――100名近かった捕虜の首は全て刎ねられた。
全員目隠しをされて、地面に膝立ちにさせられ、後ろから、皆、同時に一撃で首を斬った。
――さて、これをもって、邪竜騎士団は完全に解体された。
あとは、ファブニルの根拠地であるファブニル城に入城するだけである。
「……伍長」
ファブニルへ向かう軍の中で、伍長に声をかけた。
「どうした、ジーク」
伍長は、あくまでいつも通りである。
100名の首を刎ねた直後だというのに。
「俺は、ファブニルに入城しない」
「……そうか」
「だから、指示だけ伝える」
「……そうか」
伍長は、顔を俯かせる。
まるで、この先に俺が何を言うのかわかっているかのように――
「ファブニル城を焼き払え。住民も、全て殺せ」
「……………………わかった」
伍長は、声色も変えずに承知した。
それで、馬をラズに返した。
護衛として、ケリーとディアスの寄越した数人が付いてきた。
………………
――この後、ジークフリート・アテーネは、生涯ファブニル城に入城することはなかった。
そのため、ジークフリートの主観で「ファブニル大虐殺」を語ることはできない。
よって、この"ファブニル大虐殺"は、その当時ファブニルに住んでいた「アテーネ記」編纂者ベル・ブラウンの主観から語るとしよう――




