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極夜物語  作者: 昆布
第4節 汚れた手で
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第5節4項 前哨戦「ノーザンブルク城跡の戦い」


 ――7月25日、明朝。


 総長直属軍団400に二番隊100を加えた北陸道方面軍総勢500が、ニブルの街を出立した。


 まず彼らが目指すのは、旧ノーザンブルク城跡。

 2年前にファブニル軍の手によって焼き尽くされたノーザンブルクだったが、その跡地にファブニル軍は小さな駐屯地を築き、レーベン軍の侵攻に備えていた。


 現在この地に駐屯しているのは70〜100弱ほどの兵という情報が入っている。

 500の兵をもってすればその程度の軍勢は数の力で、正攻法でも圧倒できるが、それをすると時間がかかりすぎる。


 理想としては1日ないし2日以内に決着を付けたい。


 ………………


「――なら、奇襲作戦はどうかしら」


 と、ケリーが言う。

 

「奇襲?」

「ええ、北陸道はアリエスの森を避けるように東側に湾曲しているわ。だから、僅かな手勢でアリエスの森を突っ切ってノーザンブルクの守備隊の横を衝く」


 なるほど、敵は未だこちらの軍勢の全ては把握出来ていない。

 例えば100名で別働隊を作るとしても、残った400すら現在のファブニル軍の総勢を超える大軍勢なのだから、ここから更に別部隊がいるとは敵は考えない――


「採用だ。――しかし、俺はアリエスの森ってのに立ち入ったことがない。誰か案内役が欲しいな」

「……案内役は確保できないと思うわ」

「なぜ?」

「私含む現地人は皆、誰もアリエスの森に入ったことがないもの」

「………………は?」


 ………………


 ――曰く。

 そういう地域伝承があるらしい。


 ――アリエスの森には天地開闢の時から誰も立ち入ってはならない神聖な場所がある。

 そして、その場所に足を踏み入れた者は森の神の怒りに触れ、一生歩き続けても森の外に出られない――という伝承だそうな。


「……んじゃなんでお前はアリエスの森を抜けるとか提案してんだよバカ」

「流石にバカは言い過ぎじゃない、ディアス」

「いやバカだろ。なんで自分が立ち入りたくないなってところを人に薦めてんだよバカ」

「……試してみたくて」

「――はぁ?」


 詰所にいた全員が、同時に声を出した。


 ………………

 

 ――ケリーの言うには。


 アリエスの狩猟民は幼い頃からその伝承を聞かされて育ってきた。

 寝る前にその話を聞かされたり。

 長老がその話を若者に言って聞かせたり。


 そのような話を聞くにつれて、時代が下るにつれて、若者たちは「アリエスの森の奥地に立ち入ってはならない」という話を、「アリエスの森に立ち入ってはならない」と曲解するようになった。

 しかし、ケリーには疑問があった。


 ――なぜ、かの森に棲む獣たちは天罰に遭わないのか。

 アリエスの森は立ち入っただけで神隠しにあう場所なのに、なぜ獣は森に棲めるのか。


 そうして考えた結果、彼女は罰当たり、とも言うべき結論に至った。


 そもそも、神はいなかった。

 この伝承は、過去大森林の奥深くに立ち入り出口がわからなくなってしまった者がいたために、森の奥深くに入らないように警告するためのものなのではないか。

 

 彼女はそれを証明したいらしい。


 ………………


「……というのが、事の顛末で……」

「うん、ケリー、お前はバカか」

「総長まで?!」

「そりゃそうだよ自分の好奇心のために軍を使うんじゃないよ」

「それは、そうなのだけれど……」


 ケリーは露骨にしょんぼりした姿を見せる。

 すると、その様子を見たディアスが、ああもう、と言う。


「兄貴、俺は400の本軍を率いる。だからケリーと一緒に100の別働隊でアリエスの森を抜けてきな。」

「ディアス、お前からそんなふうに言うなんて珍しいな。……しかし、なんで俺が別働隊の方でお前が本軍なんだ?」

「なんでってそりゃ……怖いからだよ」


 と、ディアスはぼそっと呟く。


 それで、ケリーとサイラスと、顔を見合わせて笑った。


「アハハ――いや、すまんな。……じゃあ、ここはケリーを信じてみるとするか」

「総長、ありがとう」

「いや、どっちみち奇襲は必要だからな。礼は、どっちかというとディアスに言ったほうがいいだろう」


 ………………


 ――7月28日。


 北陸道方面軍は、アリエスの森の目前に到達した。

 ここで、予定通り俺が率いる100の手勢は本軍から離脱し、アリエスの森に突入した――


 森林内は馬で駆け抜けられないということで、全員歩兵。

 しかし、先日の雨天により地面はぬかるんで最悪の状況であった。


「しかし、こんな地面で何日か野営せねばならんとは、ハズレくじを引いたな、みんな」


 と、冗談交じりに言う。

 兵たちは苦笑いを浮かべる。


「……ケリー、本当に大丈夫なのか?」

「大丈夫。狩猟民をバカにしちゃダメよ」

「しかし――」


 と、言おうとした口に、ケリーは人差し指を当ててくる。


「心配になっちゃうから、ネガティブな事は言わないで」

「はいはい……」


 と、道なき道を進んでいく。

 本当にノーザンブルクへ向かっているのか分からないので不安だが、ケリーを信じている以上、聞くわけにもいかない。


 ………………


 さて、そうして森の中を歩き続けて3日目。

 最悪な寝心地のせいで兵たちも疲弊してきたころ。


「――総長、あれ、出口よ」

「は……」


 前を見る。

 確かに、木々の隙間から光が見える。

 恐らく、あそこで大森林は終わりだろう。


 ――走っていって、ようやく、脱出した。

 目の前には、平野が広がっていた。

 そうして、その奥に、ノーザンブルクが見える。


「……本当に、ノーザンブルクの後ろ側まで回り込めたのか」

「みたいね。だから言ったでしょ?伝承は無かったって」

「ああ。お前を信じてよかったよ」


 などと少々感傷に浸っていると、ノーザンブルクの方角から喚声が聞こえてきた。


「皆、疲れていると思うがもう一辛抱だ。ノーザンブルクに入れば大森林の中よりかはまともな睡眠体験が待っている、さあ行くぞ!」


 おお、と兵たちは走り出した。


 ………………


 ――ノーザンブルク跡地での戦闘は、ジークら別働隊が大森林を抜ける数時間前から始まっていた。

 

 ノーザンブルク跡にある駐屯地は、焼失を免れたノーザンブルクの城壁によって守られており、そしてその中に砦があるためそれなりに堅牢であるとされていた。


 ディアス率いる本軍400は既に旧ノーザンブルクの城壁に取り付いて攻城兵器を繰り出していたものの、対するファブニルの守備隊は全兵力の70をもって攻撃の集中する東門を守備しており、攻略は難航していた。


 しかし、第7(午後1)時、事態は一変した。

 アリエスの森を抜けてきたグングニルの別働隊が、全く守っていなかった西門を突破したのである。


 ファブニル軍は突然背後から現れた別働隊に混乱して潰乱した。

 ディアスの本軍もその混乱を突いて東門を突破し、ファブニル軍は挟み撃ちにされて潰滅した。


 こうして、ファブニル征伐の前哨戦「ノーザンブルク城跡の戦い」は、グングニルの快勝に終わった。


 ………………


 ファブニル軍を破った後、ディアスたちと合流もせず、1人でノーザンブルクの焼け落ちた廃墟の中をぶらぶらとしていると、ディアスが馬に乗って走ってきた。

 ディアスはこちらの姿を捉えると馬から降りて駆け寄ってきた。


「兄貴、無事か」

「この通り、ピンピンしてるとも」

「そうか、なら良かった。なかなか来ねぇもんで焦ったぜ」

「そうか。しかし、あのまま俺が出てこなくても勝ってただろう」

「いや、兵たちの士気があるからなぁ。兄貴がいるのといねぇのとで兵たちの気分が変わるんだよ」

「そうなのか……」

「まあ、勝ったしどうでもいいか!さあ、今夜は宴だぜ!」

「そうだな」

「んじゃ、先に駐屯地に行っておくぜ」

「おう」


 そうして、ディアスは再び馬に乗って駐屯地の方に行った。


 ――ノーザンブルクの廃墟の中を歩いていく。


 どこか見慣れたような道に入った。

 そのまま歩いていく。坂を登る。


 ……そうして、かつてメリアさんに教えてもらった、絶景スポットにたどり着いた。

 しかし、今やここから見えるのは煤汚れた廃墟と、グングニルの兵たちだけである。


「――ああ」


 と、声が洩れた。

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