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極夜物語  作者: 昆布
第4節 汚れた手で
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第5節1項 グングニル会議


 ――王都の変から1年――


 政策顧問ロバートをはじめ、レーベン事変によってグッゲンハイムなど有力貴族に冷遇されてきた学者を結集することに成功した新政府は、ようやく国内の体制を整えることができた。


 一方で、国外――

 

 ファブニルやガイウスはグングニルによる軍事クーデターに乗じて要衝トイル城に幾度も侵攻したが、ヴェルトによってそれらは失敗に終わった。

 

 ガイウスではこの侵攻の失敗によって再度国内の反セオドア派の動きが活発化し、セオドアはその鎮静化に追われることとなった。


 一方で、ファブニルは現段階でのトイル攻略は不可能と判断し、グングニルの侵攻に備えて防衛の構えを見せた。


 この状況の中、ジークはグングニルの全幹部を王都に招集し、ファブニル征伐についての会議を開催した――


 ………………


 ――王都レーベン、王宮――


 ここに、グングニルの幹部が集結している。


 まず、グングニル総長であり摂政、ジークフリート・カーター。

 もっとも、今は姓を変えて「アテーネ」姓を名乗るようになったが――


 次いで、副長であり、現トイル方面軍総司令であるヴェルト・イェリントン。

 

 一番隊隊長、レイモンド・ウッドヘルム。

 二番隊隊長、ディアス・トンプソン。

 三番隊隊長、シュナイダー・ベルモンド。


 これらの隊長は百の部隊を動かす、事実上の部将であり、総長、副長は直属部隊約二百を持つ将軍である。


 これらに加え、統一事業に協力を申し出てきた貴族らの私兵を加えると、グングニルは総勢千を超える大軍勢となる。


 ――それはさておき。


 各部隊長の補佐をする副隊長も、ここで紹介しておこう。

 

 まず、一番隊副隊長は、サンドブルク旧公爵家の令嬢、エリー・サンドブルク。

 彼女は貴族院解体後も影響力を保持するサンドブルク家に対する人質としてグングニル所属となっているので、実権はない。


 二番隊副隊長は、弓の名手ケリー・ヘラー。

 彼女には猪突猛進の隊長ディアスを後方から的確に支援する働きが期待されている。


 三番隊副隊長は、ドーン・ヒューストン。

 かつてグングニルに対して敵対的であったが、その実力を買われてシュナイダーが引き取った。


 ――会議はこれら幹部級8人と、政策顧問ロバート・アダムス、ジークの副官であるサイラス・ハミルトン、トイル方面軍副司令であるジーンの計11人で行われる――


 ………………


「――さて、皆よく集まってくれた」


 と、円卓を囲む10人に語りかける。

 心なしか、伍長とロバート以外の表情は少し硬いように感じられる。


「皆、緊張することはない。それほど仰々しい会議でもないからな」

「はっ……」


 ――などと言っても、彼らの顔つきが和らぐことはない。

 ならば、話を始めるとしよう。


「――さて、去年からの皆の働きによって我々は陛下をお支えするための新たな制度を構築することができた。皆の働きに感謝する」


「しかし、未だ国外には我が国を脅かす因子が存在している。特に西方のファブニルは一昨年ノーザンブルクを焼き討ちし、そこに住まう幾万もの住民を虐殺した。一昨年のこととはいえ、これを看過するわけには行かない。」

 

「――そこで、邪教の神を信奉するファブニル人の国家を滅ぼすための聖戦を決行しようと私は思うが、皆はどう思っているのか、是非聞きたい」


 ――聖戦。


 ヴェルトはじめ諸将――1人不敵な笑みを浮かべるシュナイダーを除く――は、その単語に衝撃を受けている様子だった。


「聖戦――?」


 おもむろに、レイモンドが言う。

 

「ああ。このジグラト諸島はジグラトの神々が我らに与え給うた土地。そこにやってきて暴虐の限りを尽くすファブニル人はまさしく神敵。だから聖戦だ」


 ………………


 ――ヴェルトは、頭の殴られたような衝撃を覚えた。


 あのジークが、よもや神の名を掲げるとは。


 感嘆ではない。

 恐怖に近しいものかもしれない。


「――聖戦かはともかくとして」


 と、ヴェルトはその衝撃を抑え、かろうじて言葉を発する。

 

「詳細な作戦案を聞きたい」

「……わかった」


 ジークは、目を少し細めた。


 ………………


 副官であるサイラスが、円卓に地図を広げる。


 サイラスは碧の駒を地図上のトイル、オルギン、ニブルにそれぞれ配置する。

 そして、ファブニル城、ラズ、旧ノーザンブルク城跡に白の駒を、ロンディニウム、クレオス、水都ガイウスに黒の駒を配置した。


 言わずもがな、碧の駒がグングニル、白の駒がファブニル軍、黒の駒がガイウス軍を表している。


「現在、我が軍はトイルに副長直属隊、一番隊、三番隊から成るトイル方面軍総勢400、ニブルに二番隊100、そしてオルギンに総長直属隊にサンドブルク私兵を加えた計400が配置され、総勢900が動員可能だ」

「900……?総長、事前情報では千を超える軍団の動員が可能とのことでしたが――」


 と、レイモンドが訊く。

 

「ああ。しかし旧貴族らの反乱の可能性を考えると、予備戦力200は王都のロバートに預けておくことにした」

「なるほど」


 話を続ける。


「さて、バーナード公のファブニル遠征案はノーザンブルクを橋頭堡とし、そこから北陸道を進撃してファブニル本国に侵攻する、というものだった」

 

「――しかし、ノーザンブルクを焼き払われ、ノーザンブルクに中継拠点としての役割を期待できなくなったことにより、トイルからロードス盆地を経由してファブニル本国に侵攻する作戦に切り替えた――」

 

「その通りだ、伍長」


「――そして我々はトイルを奪還した――ということは、トイル方面からファブニル本国へ侵入するのか?」

「いや、半分正解だ」

「半分――?」

「そうだ、俺は、ファブニルに致命傷を与えるには、二方面から侵攻する必要があると考える」

「――まさか」


 ヴェルトは、信じられない、という顔を浮かべる。


「そう、そのまさかさ。」


 そして、オルギンに置いていた碧の駒を、ニブルへ――そして、ニブルから、ノーザンブルクへと動かした。


「今回の作戦は、旧ノーザンブルク城跡からファブニル本国に侵入する北陸方面軍と、トイルからファブニル本国に侵入するトイル方面軍による、共同作戦だ」


 無茶だろう、とヴェルトが言う。


「そもそもノーザンブルク経由の進軍は補給路が確保できないから断念したんじゃないのか?それはどうするんだ」

「その計画が断念せざるを得なかったのは、ノーザンブルクからの長期的な遠征を想定していたからだ」

「……と言うと?」

「バーナード公は、ノーザンブルクからラズまでの道で何回もファブニルの猛烈な抵抗があると想定していた。そこでさらにノーザンブルクを喪失した場合、兵站などの関係や、様々な不安要素からニブルからラズまでの幾度の進軍は採算が取れないと断念した。」

「しかし、トイルとラズからの二方面からの進撃ならば、損害は軽微で済む――と?」

「ああ。しかしこの作戦には、2度目はない。敗北した時点で、遠征は失敗する。」


 広間が静まりかえる。

 失敗しない、敗北しない、とは断言しにくい。

 レイモンドが事前に放った間諜によれば、ファブニルの戦力はラズに最低でも250、ファブニル城に100、旧ノーザンブルク城跡に70ほどが配置されているという。


 戦力差としては2倍。

 しかし、地の利は彼らにある。


「……俺は、この作戦に賛成だぜ」


 ぱっ、と皆がその声の方を向く。

 声の主は鮮やかな唐紅のサーコートを着込んだ若武者、二番隊隊長ディアスである。


「要は勝てばいいんだろ、勝てば。俺たちグングニルは今まで無敗じゃねぇか。」

「ンフフ、確かに。皆さま、普段は気取っている割にはファブニルを随分と恐れておられますなぁ」

「シュナイダー貴様、外様の分際で何を言うか」

「やめろレイモンド。今はそんな時ではない」

「しかし伍長――」

「シュナイダーにデカい態度を取られたくなければ、戦で活躍するんだ。ここで口喧嘩をしても意味はない。」

「……」


 レイモンドは伍長の言葉に黙る。

 他の部隊長たちはディアスに同調して遠征に賛成する。


「レイモンドは、どうだ?」


 レイモンドは、シュナイダーをチラリと見て、そして絞り出すように言う。


「賛成しますよ……」


 こうして――半ば強引な形ではあるが――ファブニル遠征が確定した。

 

 ――第二次ファブニル征伐――


 ジークフリート・アテーネによるジグラト統一事業。その第一歩が、ようやく始動した――

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