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極夜物語  作者: 昆布
第4節 汚れた手で
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第4節12項 君は軍神、けれど悪神


「父上……」


 エリーが、顔面蒼白になって歩いてくる。

 カルロスは、その尋常でないのを感じて駆け寄る。


「エリーちゃん、どうしたんだい?!」


 エリーは、ボソボソと喋る。


「……叔父上が、叔父上が……」

「エイブラムスのことか?あいつがどうした?」

「叔父上が、灼かれました」

「灼かれ……?どういうことだ」


 ルキウスは、未だ状況がわからない。

 灼かれた、とは――?


「敵の罠にかかって、地下道の中で焔に巻かれて……」


 ルキウスは、手の剣を取り落とした。

 あの四男がそんな簡単に死ぬものか――


 しかし、グングニルの軍勢が広場に迫る。

 それで、エイブラムスは死んだのか、と理解する。


「……まあ、いい。猪突猛進しか能のない男だったから、そういう死に方をするとは思っていた」

「父上……?」


 剣を拾う。


「……カルロス、エリー、我らは貴族ぞ。それを心に留めておけ」

「……はい」


 ………………


 グングニルの兵は、広場へと迫る。


 と、そこに伍長がやってきた。


「ジーク、後ろから敵だ!」

「後ろだと……?!」


 振り返る。

 確かに、後方から地響きが聞こえる。


「馬鹿な、敵の軍は前方に集中していたはず――」

「ニブルからの援軍だ。その数はおよそ40」

「ニブル――?」


 ニブル。

 現在は対ファブニルの最前線の拠点であり、その駐屯軍の隊長はかつて俺たちと共に戦ったリドニア・ニブルスだったはずだが――


「――まさか」

「そのまさかだよ、ジーク。……想定しうる限り最悪のシナリオだ」


 後ろから迫る軍の先頭を凝視する。

 ――そこにいたのは。


 胸に「銀の城壁冠」の紋章が入った、深碧のサーコートを纏った青年。

 見間違うことはない。

 ニブルス伯爵家嫡男、リドニア・ニブルスが、そこにいた。


 ………………


 リドニアと対峙する。

 彼の背後には40の手勢、俺の背後には参謀であるシュナイダーの部下40がいる。

 

「……どうして」


 呟く。


「僕も、分かんないな」


 リドニアは、いつも通り笑う。

 柔らかな笑み。それが、却って不気味だ。


「なあ、リドニア。俺の方に付こう。そうしたら、ニブルの土地だって、もっと良い爵位だって与えられる」

「……それは、できないな。」

「どうして」

「僕はね、採算の取れないものでも、守りたいと思ったら守りたいんだよ」


 かつての会話を思い出す。

 リドニアは、貴族でありながら故郷を守るために戦っていた。親の反対も、全て振り切って。


「……ジーク、君はね」


 と、リドニアは言う。

 

「君は、軍神(アテーナー)だよ」

「は……?」

「けれども、君は荒ぶる神(アレース)だ」

「何を言ってる、リドニア」


 話が掴めない。

 何の話をしているのか。


「君は強い。強さ故に怖れられる。」

「……」

「ジーク、このまま姿をくらますと約束してくれれば、僕は君を見逃すよ。」

「何……?」

「何なら金も渡す。それで貴族は安堵するし、君も命を狙われずに済む」


 本気で言っているのか。

 逃げてどうなるというのか。


「それじゃ、何も変わらないじゃないか」

「そうだね、ジーク。けれど、君は救われるだろう?戦友を殺さずに済む。大量虐殺者として名を残さずに済む。大悪人のそしりを受けずに済む。」

「……」


 確かに、そうかも知れない。

 けれど、それは――


「それは、できないな、リドニア」

「……そう。はあ、残念だよ」


 リドニアは、嘆息する。

 そして、剣を抜いて、後ろの手勢と共にグングニルに攻めかかってくる。


「……けど、君に殺されるなら、マシかなあ」


 と、リドニアは一言呟いて。


 ………………


「くっ、リドニアは殺すな!生け捕りにしろ!」

「駄目だよ、ジーク」


 と、乱戦の中、人ごみからリドニアの顔が現れる。

 斬撃が飛んでくるのを避ける。


「これから貴族を大量に殺すっていうのに、戦友1人殺せないんじゃ駄目だよ」

「くっ……!」


 リドニアの攻撃から、半ば逃げるように避ける。

 と、そこに割って入ってきたものがいた。


「あなたは……?」

「ふふ、我が主、ここはおまかせを。どうやら、広場の方が苦戦しておる様子ですぞ」

「シュナイダー……わかった、任せたぞ」

「はい、任されました」

 

 ジークが走り去っていくのを見ながら、シュナイダー、とリドニアは呟く。


「……ああ、ガイウスから寝返った将軍かな。ジークの腰巾着をしているなんて、意外だなあ」

「……ふふ、侮辱、ですかな」


 しかし、シュナイダーは動じない。

 胡乱げな笑みを浮かべたままだ。


「しかし、ええ。難儀です。生け捕りなどと、我が主は難題を仰る」


 と、シュナイダーは剣を構えた。

 リドニアもそれに応じる。


 ………………


 広場に到着した。

 伍長が出迎える。

 

「――ジーク、リドニアは?」

「シュナイダーに任せた。」

「そうか……」

「状況は?」

「……見ての通りだ」


 と、広場を見る。

 明らかに、状況は良さそうではない。


 広場の向こう側の屋根の上には敵の弓兵が配置されており、そもそも広場にはバリケードが構築されていて、陣地になっている。


「うーん、どうしたものか……」


 と、思案する。

 この状況を一気に打破できる手段。

 こちらに損害はなく、相手に大打撃を与えられる手段。


 ――しばらくして、閃いた。


「……なあ、伍長」

「ん?」

「ここの地下にも、道は通ってるか?」

「まあ、一応大路だし、通ってると思うぞ」

「わかった」


 と、ほくそ笑む。


 ………………


 ――グッゲンハイム陣営――


「……仕掛けて来ませんね」


 と、ハンフリーが言う。

 その言葉にリードは返す。


「ええ、まあこの陣容です。慎重になるのも分かりますよ」

「そうですね……」


 と、ハンフリーが水筒の水を飲もうとした、その時。


 突然、地響きが聞こえた。


「なんだ、この音は――」


 と、その瞬間。

 足元が、崩れた。


「――?!」


 グングニルの別働隊が、地下道を崩したのである。

 それで、広場は崩落した。

 広場にいた兵士も貴族も、皆地下に落下した。

 ……といっても、人2人ほどの高さしかないのだが。


「今だ!一気に攻めろ!」


 その号令で、一斉にグングニルは攻勢を開始する。


 ――そこから先は、もはや語るべくもない。

 総崩れになった貴族院軍を、グングニルの兵士たちは蹴散らしていく。


 と、その戦場で、ヴェルトは1人の男と対峙した。


「久しぶりだな、ヴェルト」

「……兄上」


 それは、ヴェルトの兄であるハンフリー。

 しかしヴェルトは狼狽えることなく剣を構える。

 

「俺を、殺すつもりか?」

「兄上が俺を殺す気なら」


 ハンフリーは、剣を構えた。


 ヴェルトと、ハンフリーの剣が交差する。

 激しく打ち合う。


 ……しかし、実戦経験ではヴェルトに一日の長がある。

 ハンフリーは剣を弾き飛ばされて、喉元に剣を突きつけられた。


「……兄上、降参しますか」


 しかし、ハンフリーは嗤う。


「はっ、三男風情が調子に乗りおって……貴様ら逆賊に降伏するぐらいなら死を選んでやる!」

「そうか」


 ヴェルトは、迷わずにその首を刎ね飛ばす。

 そうして、地面に転がった首を何も言わずに見下した。


 ………………


 ――さて、一方その頃。

 ジークも、ある男と対峙していた。


「久しぶりだな、ジークフリート」

「……リード卿」


 その男は、月白のサーコートを着て、黒髪にブラウンの瞳と、親友を彷彿とさせる風貌をしていた。

 ……父親なのだから当然である。


「ジークフリート」


 と、リードは話しかける。


「――ヴィルはどこだ?」

「あいつはもういない」

「……は?」

「王都に攻め込むと言ったら、女と逃げたよ」


 リードの顔は見えない。

 しかし、どうせ真っ赤になっているんだろう。

 怒りと、失望とで。


「……わかった。なら、せめて貴様を殺す」


 と、リードは構える。

 ……構えは、似てないんだな。


「……悪いが、死ぬのは貴方だ」


 と、剣を構えて、リードに飛び込んでいった――

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