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極夜物語  作者: 昆布
第1節 開戦
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第1節5項 伍長

今回はジークたちの隊長、ヴェルトについて詳しく迫るだけの回です。


 さて。

 ジークたちがリドニアやサラたちと談笑をしている頃。

 王国騎士団大本営兼ジグラト軍本部の前の門の守衛として、その男は立っていた。


 勝色の、「銀の弓」の紋章が入っているサーコートを着ているその男は、ジークたちの隊長になったヴェルト・イェリントン伍長である。


 今は門番などと地味な仕事をしているのだが、彼は実に異質な経歴を持っていた。

 ここで、彼についても紹介しておこうと思う。


 ………………


 ヴェルト・イェリントン。

 中部トイルの中級貴族の家の三男坊として、彼は生まれた。

 当然のことだが、いくら彼が優れた人物であろうと、三男では当主になることは不可能である。

 それに、ヴェルト自身も、それほど貴族という身分にこだわってはいなかった。


 しかし、次男はまだ「スペア」としての役割があるものの、三男坊はどうしようもない。

 そして、イェリントン家は小さくとも貴族家。彼の存在が家督継承に問題を来たす可能性も否めない。

 

 と、言うことでヴェルトに残された選択肢は出家して聖職者になるか、騎士になるかの二択。

 そして彼は騎士になることを選んだ。


 ………………


 ジグラトでは成人は16歳である。

 ヴェルトは成人して間もなく王国騎士団団長、バーナード・ワーグナー将軍の元に従騎士として送り込まれた。


 従騎士とは、簡単に言うと「騎士見習い」である。

 騎士になるために鍛錬を積み、騎士としての知識を身に着け、いずれは騎士となる存在である。


 従騎士から騎士になるためには、通常4年近くかかるとされている。

 作法や剣術は一朝一夕に完成させられるものではないからである。


 ――しかし、ヴェルトは僅か2年で騎士に昇格した。

 これは、貴族として成人前から作法などを学習していたからというのが大きい。

 だが、弱冠18歳にして騎士に叙任された前例というのはジグラト王国が開かれて以降ただ1人だけ。


 ――現王国騎士団団長にしてジグラト軍の総司令官、バーナード・ワーグナー公爵だけである。


 さらに言えば、彼は18歳と10ヶ月で騎士になったのに対して、彼は18歳6ヶ月なので4ヶ月も早く、騎士叙任の史上最年少記録を更新した。


 ――しかし。

 彼の経歴には不可解な店がある。

 騎士に就任した18歳から史上最年少で伍長に任じられる25歳までの記録が無いのである。


 一応軍籍には登録されている。

 しかし、約7年の記録が無いというのは不可思議な話である。


 ――これは、ヴェルトが密偵としてジグラト各地を放浪していたからではないか、との推察が一部であるが、それは正解である。


 彼、ヴェルト・イェリントンは密偵として各地を転々としていたのである。


 ………………


 ――まず最初に送られたのは、「ラズ紛争」でファブニルに占領されていた城砦都市ラズだった。


 ラズにはどれだけの兵力が駐屯していて、それがどれほどの練度で、そして住民たちは安全に生活しているのか。


 ――一つ一つの任務は長くても数ヶ月。

 大体大陸から船でやって来た傭兵や移民の振りをして潜入する。

 この戦乱の時代にジグラトをあちこち回る人間など怪しめと言っているようなものだからな。


 そうして下町の安宿に泊まって、住民の人たちと交流しながら情報を収集したりする。

 ――どの街に行っても、下町はスラムがあった。

 家のない浮浪者どもで溢れかえっていた。

 だから本当の下町ではなくて、そこそこに街の中心から外れた良いところを見つけ出さないといけない。


 特に、水都では浮浪者が多かった印象がある。

 水都が美しい街だ、海に浮かぶ幻想的な都市だ、と言うやつが王都には沢山いるが、あれは嘘だ。

 上下水道もなく、本当の下町では人々が舟で行き交うための水路は水とも思えぬ色で、あり得ないほどの腐臭が漂っている。


 大きな水路ではそういうのは無いが、やはりどんな都市でも光と闇があるんだな、というのはひしひしと感じた。


 逆に、ファブニル城はそういうのが意外にいなかった。

 皆に職と家があり、市は活気に溢れていて、ジグラト人はファブニル人を蛮人だというが、俺には蛮人の作り出す風景ではないなあと思ったものだ。


 むしろ、水都ではガイウス人の貴族どもが威張り散らして水路を占領するような大きさの舟を使い交通を滞らせていて、ジグラトの人の方が蛮人なのではないのか、と誰にも言えないような確信を持つようになった。


 ………………


 ――と、これは誰にも言えないヴェルトの独白である。


 ヴェルトは7年にも亘る各国への放浪を経て、貴族はそれほど偉くもないし、人々はそれほど卑しくも無いのだと気づいた。

 そして、ジグラト人が蛮人と呼ぶファブニル人は、今やジグラト人と同じような生活をして、ジグラト人と変わらない風貌をしていることも知った。


 国家の暗部とも言うべき諜報という任務を経て、ヴェルトは人々の「常識」とは異なる見解を持つに至ったのだ。


 ………………


 ――そして、今年。

 史上最年少の伍長が誕生する。

 言わずもがな、彼のことである。


 しかし、折悪くファブニルの侵攻が始まり、彼の元に付くはずだった兵士らは全滅。

 ヴェルトは運良くオルギンへ逃れられたものの、新たに兵士を採用しなければならなかった。

 ――しかも、平民の志願者の中から。


 ジグラトの騎士たちには「騎士以外の戦力は戦力ではない」と言う精神がある。

 自分たちは選び抜かれた選りすぐりの精鋭部隊であり、誇りもない平民や傭兵の力を借りるなど誇りが許さないと思っていた。


 だが、そんな中で平民からの志願者を快く受け入れたのがヴェルトだった――


 ――「アテーネ戦記」ヴェルト・イェリントン列伝より抜粋――

ヴェルトの話だけなので淡白な感じがしますが、彼は重要人物なので、ご理解いただけると幸いです。

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