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極夜物語  作者: 昆布
第1節 開戦
5/37

第1節4項 オルギン


 ――オルギンの街――


 オルギンは、ジグラトで最も旧い街である。


 ジグラト屈指の酪農地帯である北部ニブルス高原と肥沃な穀倉地帯である中南部とを結ぶこの場所は、古代から人の往来が盛んであり、かつオルギン湾での漁業も盛んであったのでジグラトでいち早く発展した。

  

 その起源は青銅器時代まで遡ると言われており、街の中心部にはその名残である「城丘」があり、そこに2人が目指すジグラト軍本部が設置されている。


 先述したように、レーベンに遷都してからは王都への最終防衛拠点としての機能も期待され、軍事機能はここに集約されている。


 ――「オールト叙事詩」ジグラト地理誌より――

 

 ………………


 ――2人はオルギンの街のちょうど入り口、現地住民が「レーベンぐち」と呼ぶ場所にいる。


「……軍の本部ってあの丘の上か……?」

「……みたいだな」


 その入り口にあってもかなりの存在感を放つ「城丘」は、おおよそ30メートルほどの高さで、その斜面には一面に白亜の石垣が張られており、パッと見ても威圧感がある。


 2人はそれに向かって馬を歩かせる。


 通りの賑わいは王都ほどではないにしても、やはり大路が埋まるほどのものである。


 ――オルギンの人口はジグラトで王都レーベン、水都ガイウスに次ぎ、第3位である約6万人。十分に立派な大都市である。


 ………………


 ――城丘の下に着くと、坂があった。

 その先に城門があり、そしてその奥が目的地である軍本部である。


「止まれ!」


 と、不意にチェーンメイルを着込み、勝色のサーコートを羽織った、武装してある兵士に止められる。


「は……?」


 2人が困惑していると、兵士が言う。


「何者だ。ここがどこか分かっているのか」

「は……?軍の本部でしょう……?」

「それがわかっていて、何の用だ」

「兵士の募集をしているとのことだったので」

「……待っていろ」


 と、兵士は奥にいた同じく武装して深碧のサーコートを着ている兵士の所へ行って、そして彼を伴ってきた。


「――志願者だな。取り敢えず付いてきてくれ。」


 と、勝色のサーコートの兵士は言って、深碧のサーコートの男と共に奥へと向かう。


 ………………


 城門をくぐると、一同の目の前には大きなレンガ造りの建物が現れた。


「これが……」

「そうだ、これがジグラト軍本部、そして王国騎士団大本営だ」


 勝色のサーコートの兵士はそう言いつつ、その建物に近づき、そしてその中に入る。


「さ、お前たちも入れ」

「は……では」


 と、若干のためらいを持ちつつも2人は建物の中に足を踏み入れる。


「――これは」


 ロビーは美しい、の一言に尽きた。

 大理石の床、白亜の壁といった白基調の清潔感あふれる内装、そして天井には画が描かれている。

 おそらく東の大陸に伝わる神話の一節、戦の女神イシュタルと木星神マルドゥクの戦いの場面を描いているのであろう。


「さ、こっちに来てくれ」


 と、その画に見惚れる2人に対して、勝色のサーコートの男は2人を急かすように言う。


 男はロビーから伸びる数多の廊下のうち一つを進み、やがて一つの部屋の前に着く。


「さ、ここが応接室だ。入ってくれ」


 と、勝色のサーコートの男は2人を招き入れるので、2人はその部屋の中に入って椅子に座る。

 付いてきていた深碧のサーコートの兵士が2人に水を渡す。


「あ、どうも」


 深碧のサーコートの兵士は微笑んでペコリと会釈する。

 彼は茶の髪で面長、目は細く一重、瞳は翠色で、温和そうなふうに見える。

 

「さて、と」


 と、勝色のサーコートの兵士は2人に向かい合うように座る。

 注意して見ていなかったが、今になってようやく彼の顔がはっきりとわかるようになった。


 ――彼は銀の髪で、顔はやや長く、一重のブラウンの目を持っている。

 パッと見て淡白そうな印象で、ジークやヴィルと種類が違うものの顔は整っている。


「あ、申し遅れたな。俺はヴェルト・イェリントン。伍長をやっている。んで、こっちの緑のサーコートのはリドニア。俺の部下だ」


 と、ヴェルトが紹介するが、リドニアと呼ばれた青年はもう、という感じで訂正する。

 

「ヴェルトさん、何回も言ってますが僕のサーコートは深碧です。微妙に緑じゃないんですよ」

「……緑だろ」


 と、ヴェルトはボソッとつぶやきつつ、2人のほうを見る。

 2人はヴェルトが名乗りを求めているのだと気づいて、名前を言う。

 

「あ、俺はジークフリート・カーター。こっちはヴィルヘルム・ハボックだ」

「なるほど、ジークにヴィルね……」


 と言いつつ、ヴェルトは渋い顔をする。

 

「えーと、2人は兵士に志願してる……ってことで良いんだよな?」

「はい」

「んーと……その、動機が知りたい」


 と言うヴェルトの声に、ジークが答える。

 

「動機……俺は騎士になりたくて……」

「俺は正義のために……」

「ふーん……」


 と、ヴェルトはリドニアと顔を見合わせる。


「そのだな……本当に言いにくいのだが、帰ったほうが身のためだと思うぞ」

「……は?」

「いやその、落ち着け。今この町にファブニルの軍勢が迫っているのは周知の事実だと思う。彼らは強いし、その上数も我々王国騎士団と軍を合わせた数の3倍近い。その、間違いなく死ぬぞ」

「……」


 と、2人は黙るものの、ヴィルが口を開く。


「国のために死ぬのなら、本望です」


 ヴェルトは視線を少し落とす。

 

「いや。その…………ん?」


 ヴェルトの視線の先にはハボリムがあった。


「ハボリム?……いや、そんな馬鹿な……いや、ハボック……?」

「ヴェルトさん、何か?」

「……あの、ヴィル」

「……?」

「リード・ハボック卿って知ってる?」

「…………父です」


 ………………


 その後は、トントン拍子で話が進んだ。


 なんでも、以前リードが王都に招集された際に王国騎士団団長兼軍の総督のバーナード将軍と、その他関係者に「近々息子がそっちに行く」と既に話を通しており、そのため受け入れ準備も整っていたらしい。


 ――2人はヴェルトの下に付くことになった。

 

 リドニア曰く、ヴェルトはそれなりにバーナード将軍に実力を認められているらしく、将来の側近とも称されているらしい。

 そのヴェルトの下に付くということはかなりの好待遇だ、とリドニアは言う。


「――あの人そんなに凄い人だったのか」


 と、ジークは呟く。

 今彼らはリドニアに連れられてこれから生活をする軍の兵舎に案内されている。

 

「王国史上最年少で5人とはいえ人を束ねる立場に立った人だ。ああ見えても優秀なんだよ」

「ふうん、そうなんだ……」

「――あ、2人とも、着いたよ」


 と、リドニアがある部屋のドアの前に立ち止まる。


「サラはいるかな…」

「サラ?」

「うちの軍唯一の女性だよ。うちの軍最強の兵でもある」

「女性が、軍最強……?」

「ああ。女性だからって侮っちゃ駄目だよ。君たちも、痛い目に遭うからね」

「……」


 フフッと笑いつつ、リドニアはドアを開ける。


 ………………


 部屋はそこそこに広かった。

 壁はやはりロビーと同じで白く、二段ベッドが3つ置いてあり、あと丸いテーブルと人数分の椅子、戸棚、そして6人分の防具立て――


 ――その椅子に、女性が座っていた。

 リドニアが言っていたサラという女性であろう。


「おーい、"お姫"ー、新しい人来たよー」


 と、リドニアが言うと、その女性は3人の方を見る。


 ――その女性は、美しかった。

 髪は茶色で後ろで束ねており、顔は小さく白い。奥二重でアンバーの瞳を持っていて、鼻筋は通っている。顔は幼いが、雰囲気はクールな印象を持つ。

 手にはコップが持たれていて、何かを飲んでいる途中なのだろう。


 と、ヴィルが進み出てニコリと挨拶する。

 ――そう言えば、親友はこんなタイプの麗人がタイプだったとか言っていた気がする、とジークは半ば呆れる。


「はじめまして。僕はヴィルヘルム・ハボック。よろしくお願いします」


 しかし、麗人は「……サラ・ウィンター」とだけ、自分の名前を冷たく言う。

 ヴィルは一歩後ろにいるジークとリドニアを見る。

 その顔にはしばしの狼狽があった。


 何度も述べている通り、ヴィルとジークは好青年である。

 だから女性に軽くあしらわれた経験がないのだ。


 ジークはそれを見て笑い飛ばしたいのを抑えつつサラに挨拶する。


「俺はジークフリート・カーター。よろしく」

「……」


 今度は返事さえもない。

 いよいよ2人はリドニアを見て狼狽える。

 リドニアは2人の顔を見て苦笑いする。

 が、ヴィルが果敢にもサラに話しかけた。


「――サラさん、さっきから一体何を飲んでるんだい?」


 サラはヴィルの方を見て、しばしの間があってから言う。


「……テーフルトゥム(果実のシロップを水や酢で割ったジュース。主に子供が飲む)。」

 見た目はクール、中身はお子ちゃま。

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