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極夜物語  作者: 昆布
第3節 わからず屋
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第3節17項 簒奪(下)


 ――こうして、ヴェルト救出計画――という名のクーデターなのだが――は始動していく。

 タイムリミットは、明日の昼前。

 決行は、処刑の執行される明日の正午。


「……といった具合で処刑は一般に公開され、公衆の面前で執行されるようですな。」

「公衆の面前で、だと……」


 ヴィルが愕然とする。

 しかしシュナイダーは平然としている。


「ふむ、副長殿は公開処刑をご覧になったことがないのですかな?公開処刑は市民の娯楽の一つ。まあ言うなれば見世物ですな」

「……」


 ヴィルは絶句する。

 いや、俺も見たことがなかったから、処刑がそんな形だと思っていなかった。

 もっと厳粛で僅かな人たちだけで行うものかと思っていたのだ。

 それを、人の死を、見世物として扱うとは――

 

「処刑はさせない。ヴィル、計画は必ず成功させよう」

「もちろんだとも」


 ………………


 ――朝になった。

 俺とヴィル、レイモンドとシュナイダーは決行前にもう一度集まって話し込んでいる。

 

「――じゃあ、もう一回確認するぞ」


 と、ヴィルが言う。


 計画は以下の通り。


 ――正午。

 処刑台に伍長が連行されてくる。


 処刑台を囲むのは多くの市民であり、その市民たちの暴発を抑えるために十数名の兵士たちが控えている。


 俺はレイドスと共に断頭台に登る。

 レイドスが罪人の罪を読み上げ、罪人の最期の言葉を聞いた後で、執行人がその首を刎ねる。


 このレイドスが罪を読み上げるタイミング。

 ここのタイミングで逆賊レイドスの罪を言って、そして一刀のもとに斬る。


 レイドスを斬ったとなると、おそらく兵士たちは黙っていないだろう。

 そのため、俺がレイドスの罪を叫んだ、その声を合図としてグングニル兵が広場に突入して制圧する。


 ここまでが、伍長救出作戦である。

 その後は、宙に浮いたままの軍権を掌握するために臨時大本営に突入し逆賊レイドスが私物としていた「鎮西大将軍」の印章を手に入れる。

 その印章さえあれば、兵を動かすことができるのだ。


「……ジーク」


 サラがやってきた。

 彼女はいつも通りの冷たい顔である。

 

「サラ、どうした?」

「……2番隊は、準備が完了した」

「そうか」


 仕事が早い。

 この、いつも寡黙な(酒が入っていない時は)女性は、いったいどうやって兵士たちを束ねているのだろうか。

 もしかしたら俺にだけ無口で、ヴィルや部下たちには普通に話しているのかもしれない。

 などとつまらないことを考えつつ、わかった、と返す。


「ヴィル、1番隊は大丈夫か?」


 ヴィルは、苦笑いして頷く。


「昨日からディアスが張り切っててな。それで昨晩中に準備は終わってるんだ」

「ああ……」


 ディアスは、良くも悪くも純朴な青年である。

 なんというか、人間は善と悪しかなくて、騎士の力は悪を討つためにあると思っているらしい。

 それで、悪人で逆賊のレイドスを討てると張り切っているのだろう。


「では、これにて全部隊準備完了、ですかな」


 シュナイダーが言う。

 と、ちょうど2番隊の弓兵ケリーが部屋に入ってきた。


「総長、時間よ」

 

「わかった。――では、ヴィル、また後で」

「ああ。」


 立ち上がって、広場へ向かう。


 ――これが、"トイルの変"の始まりであった――


 ………………


 ――第5(午前11)時。


 広場に着くと、既に群衆がひしめいていた。

 と、その中で、見覚えのある青年がいる。


「……よう、青年」

「あ?」


 青年は、振り返った。

 やはり、この前俺の銀を盗もうとした青年だった。

 違うところといえば、痩せこけていた頬が少しマシになったぐらいで、やはりその鋭い目つきは変わっていない。

 青年は、俺の顔を見るやいなや目つきを変えて、ああ、と声を上げた。


「この前の騎士さま――」


 はは、と笑う。

 この前とは正反対の対応だ。


「騎士さま、なんてやめてくれ。ジークでいいよ。」

「じゃあ、ジークさん――え、ジーク?!」


 青年は、ジークという名前を聞いて目を見開く。


「……ああ、ジークだが」

「ジークって言えば、トイルを護ってくれた大英雄、神槍(グングニル)部隊の総長の、ジーク……?!」


 ……おいおい、なんだか凄いことになっているらしい。

 誰だ、グングニルを神の槍、などと吹聴したのは。いや、語源はそこなのだからあながち間違えてはいないのだが。


「……一応聞いておくが、それは誰が言ってたんだ?」

「そんなのみんなさ。街では臆病者のレイドスなんかよりも若き英雄ジークの方がいい、ってみんな言ってるよ」

「……」

「今日の処刑も、レイドスがどうにかして人気を取ろうとする政策の一環なんじゃないか、って噂だよ」


 困った。

 そこそこに的を射ている。


「青年――」


 彼に言葉をかけようとしたが、名前が分からないので固まってしまった。

 

「俺はダリルって名前だよ」

「そうか……ダリル」

「なんだい、ジークさん」

「――悪人のレイドスは俺が倒す。ここで見ていてくれ」

「悪人を――?……うん、わかった」


 ふふ、と笑って、その場を後にする。

 行くは処刑台である――


 ……………………


 処刑台に着いてしばらく待っていると、伍長が衛兵に連行されてきた。


 そして、処刑台に登る。

 群衆からどよめきが起こった。

 どうやら、誰を処刑するのかまでは公開されていなかったらしい。

 伍長はトイルの出身だし、顔なじみも多いのだろう。


 その彼が、処刑台に登らされて、今、台に固定された。


「さあ、来い」


 レイドスはそう言って、処刑台に登る。

 俺はその後ろに従っていく。


 ――そして、レイドスが懐からパピルスを出した。

 おそらく、これから伍長の罪を述べるのだろう。

 が、そうはさせない。


 剣を抜いた。かつて、伍長とリドニアと選んだ剣である。

 そして、声のあらん限り叫んで。


「――レイドス・ファール!私怨によって功臣を謀殺しようとした罪により、天誅を下す。覚悟!」


 剣が、逆賊レイドスの腰を一閃する。

 レイドスは、振り返る暇もなくて。

 そのまま、身体は腰から上下に泣き別れになった。


 上半身はそのまま右前に倒れ、下半身はゆっくりと横に倒れる。


 市民たちは呆気に取られている。

 レイドスの手下どもは唖然としている。


「――突入!逆賊どもを皆殺しにせよ!」


 と、ヴィルの指示で、グングニルの兵たちが喊声を上げて広場に突入してきた。

 市民たちは大混乱に陥り、四方八方に四散していった。


 ――伍長を、助け出さないと。

 俺は彼の手足を固定していた枷を外してやった。


 伍長も唖然としながら、もはや瞬きすらしないその屍体の顔と見つめ合っている。


「伍長」


 ようやく、彼が俺の顔を見た。

 顔や身体に拷問された跡はない。


「伍長、無事でよかった――」


 抱き締める。

 伍長はなおも呆然としている。


 そして、ようやく広場を見て、状況を理解してきたらしい。


「ジーク、これは――」


 広場から、レイドスの部下が一掃されたらしい。

 グングニルの兵たちは戦うのをやめて、処刑台に目を向けた。


 抱き締めるのをやめて、伍長の顔を見る。


「遅くなった。――伍長、助けに来たよ」


 ………………


 ヴィルが、処刑台に登ってきた。

 それと入れ替わる形で、伍長はレイモンドに随伴されて一旦詰所へと帰っていった。

 

「ジーク、広場から逃れたレイドス派が、臨時大本営に立て籠もっているらしい」

「……そうか、わかった。行こう」

「……ああ」


 処刑台を降りて、グングニルの軍勢に合流した。


 ――広場から臨時大本営は、ほど近いので、すぐに着いた。

 どうやら、残党はそれほど多くないらしい。

 抵抗すらない。この様子ならすぐに済みそうである。


「……ヴィル、突入だ」

「了解。1番隊、突入」


 その号令で、ディアスを先駆けにどんどんと兵士たちが突入していく。

 その様子を外から見守る。


 ……そして、10分ほどして、弓兵ケリーが出てきた。


「……20名ほどの残党、みんな自害していたわ。」

「……そうか」


 それを聞いて、建物の中に入る。

 向かうは領主の間――トイル解放後はバーナード公の執務室となっていた――である。


 そこに、印章がある。


 部屋のドアを開ける。

 部屋には既にディアスとシュナイダーがいた。


「ジークの兄貴、印章はここにあるぜ」


 机の上を見る。

 金の指輪型で、そこに軍神アレスが刻印された宝石が嵌め込まれている。


 なるほど確かにワーグナー家の印章で相違ない。


「……」


 黙って、それを手にしたまま、執務室の椅子に座った。


 グングニルのクーデター「トイルの変」は、今この瞬間に成功したのである――

これにて第3章終了です。あまり章のタイトルの回収ができなかったように思うのですが、そこはご容赦ください。

これからも、「極夜物語」をよろしくお願いします。

もしよろしければ高評価などもお願いします。

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