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極夜物語  作者: 昆布
第3節 わからず屋
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第3節10項 進退


 ジークたちレーベン遠征軍は、遂にジグラト最難関の城塞、トイル城を陥落させた。

 

 しかし、その代償も大きかった。

 兵の死傷者は5割に上り、これからの進退が悩まれるところであった。


 そんな中、トイルを陥落させたその午後から、軍議が開かれた。


 ………………


 ――トイル城内、臨時大本営――


 ――トイル城内にある石造りのこの建物は、元々領主の住む館であった。

 設備もそれなりに整っているために、現在は遠征軍が押収して臨時の大本営としている。


 その廊下を、ジークとヴェルトが並んで歩く。

 すると、ヴェルトが歩きながらジークに耳打ちした。


「ジーク、この軍議だが、おそらく――」


 ジークは難しい顔をして、頷く。


 ――おそらくこの軍議の主題が投降したガイウス兵の処遇と、今後の進退、そして南門攻撃隊の戦闘行動に対する詰問であるということぐらいは、ジークでも理解していた。


 思いつく限りでも、バーナード公の指示を無視して攻撃を行わなかったこと、騎士としての品位に欠く夜襲を敢行したことぐらいがすぐに浮かんでくる。

 それに、攻撃をしなかったことで守備兵が移動し、他の戦線での被害が大きくなったのもあるので、そこも追及されるかもしれない。


 とにかく、ここが正念場なのである。


 ………………


「失礼します」


 と、ドアを開けて中に入る。


 広間には円卓が置かれていて、奥からバーナード、レイドス、ドーンら王国騎士団の面々、そしてそれに次いでサンドブルグ家の私兵を率いているエイブラムス候など貴族が座り、そして最もドアに近い場所に、先ほど投降したガイウスのシュナイダー・ベルモンド卿が座していた。


 シュナイダーの横に2席、誰も座っていない席があったので、2人はそこに座る。


 2人が座ると、バーナードが、「まずは、諸君らの健闘に感謝する。」と頭を下げた。


 そして、顔を上げて、口を開く。


「――さて、では早速本題に移るとしようか」


 と、バーナードはレイドスを見る。

 レイドスは立ち上がった。


「まずは損害報告から。王国騎士団全150名中死者は18名、重軽傷者は56名」

「遠征に際して徴集した軽装歩兵(志願兵)全250名中死者は87名、重軽傷者は104名。」

「貴族の私兵全300名中死者は11名、重軽傷者43名になりました」


 淡々と読み上げる。

 いや、淡々と読み上げるほか無いのだが。


「損害が最も大きかったのは北門攻撃隊で、全損害の4割が北門攻撃隊からです。一方、最も損害が少なかったのは南門攻撃隊で、全100名中死者はゼロ、負傷者も僅か7名です」


 視線がジークに集中した。

 内地にあって、戦地から報告されたこの字面だけを見たのならば誰しも称賛してくれるだろうが、この場では称賛はなかった。

 知っていた。

 それも承知の上でかの作戦は決行したのだ。


「……さて」


 と、一通り報告を聞いたバーナードは、次いでシュナイダーに目を向ける。


「シュナイダー卿、貴殿とともに降った兵たちは何名かな?」

「まだ全ては確認できていないですが――ええ、おそらくは40名ほどかと」

「では、その40名はレイドス卿の麾下に組み込む。以降レイドス卿に従うように」

「はっ、かしこまりましてございまする」


 と、そして次にジークの方に彼の目が向く。


「――ジークフリート、此度の大功、素晴らしいものだったぞ」

「はっ、ありがたきお言葉」

「――しかし」

「……」

「私の命に背いたり、騎士として恥ずべき闇討ちなどをしたりと、なかなかな事をしたではないか」

「……」

「これでは貴様を推挙したヴェルトの顔も丸潰れというもの。何か申し開きはあるか?」


 ジークは何も言えない。

 何を言っても突っつかれる。


「……何も、申し開きはございません」

「そうか」


 バーナードは、その回答を聞いて、笑った。


「――ふっ、冗談だ、ジークフリート。」

「……はっ?」

「よいか、貴様の罪は確かにある。しかし貴様の功績がそれを上書きして余りある。深く追及はすまいよ」

「……はっ、ありがとうございます!」


 ――思いのほか詰められなかったどころか、なぜか褒められたような気がする。

 と、言うよりもジークに構っている暇が無いように思えた。

 つまり、本題は――


「さて、それでは次に、"ファブニル征伐"についての議論をしたい」


 すると、先ほどまで黙っていたエイブラムス候が急に顔色を変えて立ち上がった。


「バーナード公、"ファブニル征伐"とは一体どういうことか」


 猛将と呼ばれ、顔は日に軽く焼け、口元にカイゼル髭をたくわえている男が血相を変えているのは何か滑稽なものがあるが――


 バーナードは淡々と、まるで当然かのように返す。

 

「どういうことも何も、ここからロードスを経由してファブニル本国に攻め入ることについての議論をしようと言っているのだ」

「……貴族院での予算は、トイルを制圧するまでと言って取り付けたもののはず。バーナード公、貴公は貴族院を謀るおつもりか」

「謀るなどとは、大袈裟な。私はこの機会に蛮族ファブニル人を滅ぼそうと言っているだけだ」

「……正気か、バーナード」

「"本気"だ」


 エイブラムスは立ち上がった。


「……もはや付き合いきれん。私は本国(レーベン)に帰る。この件は兄者に報告させていただく」

「勝手にするがいい」


 と、エイブラムスがドカドカと足音を立てて退席したのに続いて、慌てて続々と貴族たちが退席していく。そうして貴族は誰もいなくなってしまった。

 心理はわかる。サンドブルグを敵に回しては、ファブニルを滅ぼせたとしてもその後どうなることかわからないし、最悪命を取られるしれない。


「閣下――」


 流石のレイドスも、300の兵を擁する貴族連合が全て帰還するというのは想定外だったようで、慌ててバーナードを見た。

 しかしバーナードは澄ました顔で言う。

 

「想定内だ、レイドス。残った300人でもファブニルは攻め落とせるさ」


 ………………


 ――バーナードは、強引な人間だった。


 1週間後、トイルを発ってロードス盆地へ至り、そこから城砦都市ラズを陥落せしめ、そしてファブニル本国へ侵入するという作戦案を皆に披露し、賛同を受けて決行することになった。


 どうやらバーナードは貴族院からの追及を受けようともファブニルを滅ぼそうとしている様子だった。

 彼を動かすものはジークなどには知りようもないが、しかしその執着が、今まさに決行されようとしていた――

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