第3節9項 トイル城の戦い:突入
――トイル城北門、側防塔上――
「……さて、今日もどうにか凌げましたなぁ、ウォルト将軍」
「ふっ、戯言を、シュナイダー卿。今日も余裕だったではないですか」
と、そんなウォルトにシュナイダーは薄ら笑いを浮かべる。
「ええ、ええ。そうとも言いますなあ。しかし相手もオルギンから増援を寄越して戦力を増強したようにも見えまする。油断は、禁物かと」
「うむ、その通りだ。しかしどうやらこの北門攻撃部隊が主力で、他のは囮に見えるが」
「ええ、それはそのようですな。現に南門などは一度も攻撃を仕掛けて来ておらぬ模様ですし――」
「セオドア公が来られるまで、北門を死守しきれば、我らの勝ちだな」
「はい、そのようですな。」
………………
――第一夜警時――
日は既に暮れたが、月はない。
辺りを照らすは南門攻撃隊の陣営の松明と、そしてトイルの城壁の上の松明のみである。
その暗闇の中を、およそ100の軍勢が進む。
静かに、できる限り音を消して近寄る。
そして、梯子を、掛けた。
そうなれば最早速戦即決、疾風迅雷、電光石火である。
ガイウス兵の1人が梯子を掛ける音を聞いて、何事かと確認しようと城壁の上から下を覗き込んだ、その時。
ヴィルと目が合った。
彼が声を出すより先に、ヴィルは腰の獲物を引き抜いてその喉を一刺しした。
そして、城壁の上に乗り込んで、敵を手当たり次第に斬り伏せていった。
他の者もそれに続いて城壁に乗り込んで行く。
「おらおらおらぁ!」
と、ディアスは斧槍を振り回して次々に敵を突き、切り払う。
サラは普段の通りに無言で敵の喉を突き刺す。
ジークも抜刀して敵を斬り伏せる。
混乱の中、逃げようとする敵兵の脳天を撃ち抜いたのは弓の達人ケリーである。
――この、ほんの僅かな時間で、第一の城壁を守備するガイウス兵は淘汰された。
「よし、次は第二の城壁だ!間髪入れずに行くぞ!」
「「はっ!」」
………………
――城壁があったとはいえ、夜闇の中で状況を掴めていない敵を蹴散らすのは実に簡単だった。
グングニルはじめ南門攻撃隊は第二の城壁を突破。続く第三の城壁上への突入も成功し、夜が明けるまで城壁の上で戦い続けていた――
………………
――さて、夜明けの時点で南門での騒乱を聞いていたウォルト将軍らガイウス勢と、どうやら城壁の上で騒ぎが起きているらしいというのだけは夜間から把握できていたレーベン勢の双方で、未だ情報が錯綜していた。
ガイウス勢の方では、夜が明けるまで戦況の確認が取れておらず、夜襲を仕掛けられたものの敵は未だ第一の城壁で交戦しているという報せが広まっていた。
一方、レーベン勢――主に北門攻撃部隊――では、さらに情報が欠乏しており、きっと城内で何らかの争いが起こっているらしいのは分かっていたが、それの正体は未だ掴めていなかった。
――そうして、夜が明けて。
両者は驚愕した。
攻撃を仕掛けていたのは着陣以降全く動いていなかった南門攻撃部隊であること。
そして、昨晩に夜襲を仕掛けて三重の城壁の全てをとうに突破していること。
現在戦線を東西門の城壁上に拡大しているということ。
という、3つの情報が明るみになったからである。
――それはつまり、ジグラト朝成立から200余年、誰も成し遂げられなかった快挙「トイル城の陥落」が、今朝成されたということであった――
………………
――北門の側防塔上――
すでにこの側防塔の上から迫りくるグングニルの軍勢が見えている。
東門側から迫るは「ワタリガラス」の紋章の、白いサーコートを着た男――ヴィル――が率いるグングニル1番隊。
西門側から迫るは「槍」の紋章の、白縹のサーコートの女――サラ――の率いる2番隊。
そして眼下からは、バーナード率いる北門攻撃隊が迫る。
――もはや、どこにも逃げ場はない。
「シュナイダー卿、一体どうすれば――どうすればよいのだ!?」
と、ウォルトは後ろに控える白髪の男を振り返った。
シュナイダーはなおも飄々とした顔をしている。
「んん、どうするもこうするも、こうなっては致し方ありませぬな」
と、シュナイダーは腰の剣を抜いてウォルトを一閃した。
「な、何を――」
ウォルトが最期に見たその顔は、微笑をたたえている。
「ええ、ええ。どうか悪く思わないでいただきたい、ウォルト将軍。私も、もはやこうなっては生き延びる路は一つしかないのですからなあ」
「……貴……様……」
ウォルトは地に伏せる。
すぐに彼の側近がシュナイダーに斬りかかるものの、シュナイダーはそれらを軽くあしらって、一人は胴を両断し、一人は高い城壁の上から蹴落として、一人は脳天から剣を叩きつけて制圧してしまった。
「……んん、残念。私に従っておれば、生き残れたというのに……ですが。それもまた、一興かも知れませぬなあ」
などと、シュナイダーは一人ごちて、それからウォルトの首を持って、眼下の軍に叫ぶ。
「聞け、バーナード公!我が名はシュナイダー・ベルモンド!トイル守備軍の副将である!我らトイル守備軍は、守備軍総大将ウォルト・ダルトンの首を以て、貴公らの軍門に降る!」
すると、それを聞いて、バーナードが眼下の軍団の中から進み出てきた。
「私がバーナードである!シュナイダー卿、貴公らの降伏を受け入れる。まずは武装を解除していただきたい!」
「かしこまった!」
そうして、シュナイダーは腰の剣を地面に置いた。
ガイウス兵たちも、そのシュナイダーの姿に倣って武器を置いた。
――こうして、約3週間に渡ったトイル城攻防戦は、いささか呆気ない形ではあるが、幕を閉じたのであった――
久しぶりの投稿になります。
投稿が途切れていたというのに「極夜物語」を読んでくださっていた皆さま、ありがとうございます。
今後も、このように一気に何話も放出するという形で投稿しようかと思いますので、どうかよろしくお願いします。
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