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極夜物語  作者: 昆布
第3節 わからず屋
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第3節6項 トイル城の戦い:前哨戦


 ――オルギンを出立してから4日経った。


 ジークたちの眼前には、ロードス盆地から流れ出るジグラト有数の大河、ロードス川があった。


 そして、その先には、遠目に目標のトイル城も――


 が、ジークたちは川を渡ることができず、ロードス川を眺めている。

 なぜか。理由は大きく2つあった。


 まず1つ。

 ロードス川を渡るための橋が落とされていたから。

 そして2つ。

 川の先の街道に、バリケードが築かれ、そして軍勢がそこに待機していたからである。


 その軍勢とは、言うまでもなく、トイルに駐留していたガイウス軍の一部であった――


 ………………


 ――ロードス川対岸、ガイウス軍本陣――


 そこから、対岸のレーベン勢を眺めている将軍が2人。


「……多いな」


 と、言ったのは黒の髪の、筋骨隆々とした男。

 

「ええ、実に。これは難儀しそうですなぁ」


 などと、本当にそう思っているのかわからないような調子なのは、長い白髪を結っている、黄色のサーコートを身に纏った長身の男。

 

「……」


 と、白髪の男は敵の軍勢を眺めたまま声を出さない黒髪の将軍を見て微笑を浮かべる。

 

「なぁに、心配いりませぬぞ、ウォルト将軍。このトイルは天然の要害。水都に遠征に出ているセオドア公が戻られるまで持ちこたえれば全て。全てが解決いたします」

「……うむ。その通りだ、シュナイダー卿。しかし――」


 と、ウォルトと呼ばれたその将軍は、なおもまだ不安げな顔を浮かべていた。

 シュナイダーと呼ばれた将軍はその顔を見てさらに重ねる。


「……ふうむ、それほど兵力差が気になりますかな、将軍」

「ああ。現状、奴らの兵力は目視できるだけでも400弱。翻って我らは100程度。城攻めをするには十分な戦力差だ。」

「ええ、それは、確かに。――しかし、しかしです。先ほども言ったようにこのトイルはジグラト最強の城塞なれば。あれなる烏合の衆などすぐに蹴散らせましょうぞ」

「……まあ、それはそうなのだが……」


 と、そこにシュナイダーが言う。


「……なるほど。いや、わかりましたぞ」

「何がだ。」

「いえ。いえいえ。そうですね――敢えて申し上げるならば――ウォルト卿はあれなる烏合の衆に怖気づいておられるのでしょう?」

「何だと?」

「ふふ、ですから。卿は敵の数を見て戦意を喪失なさったのではないのかと。」


 と、ニヤニヤするシュナイダーに対して、ウォルトの顔がどんどんと紅潮していく。


「何を言うか!私は怖気づいてなどおらぬ!」

「ふふ、どうでしょうなぁ」


 などと言っているシュナイダーの顔は、いつの間にか微笑んでいる。


「怖気づいておらぬなら良し。しかしながらここで野戦をしてはそれは無謀というもの。幾度も進言しておる通り、トイルに籠城し、セオドア卿の到着を待つのが良しかと」

「うむ、その通りだシュナイダー卿。ならばトイルに下がるか」

「ははっ」


 ………………


「……?」


 ガイウス軍が、トイル城へ後退していくのを、ジークたちは眺めていた。


 こちらの数に怖気づいたか、それとも野外決戦から籠城による長期戦へと戦略をシフトしたか――


「……まあ、明らかに後者だろうが――」


 と、ジークはつぶやく。

 至極当然といえば当然である。

 むしろなぜ野外決戦に打って出るなどと考えついたのかが不明なほどだ。


 ――ジークがそのように思っていたところ、後方の本陣の方から太鼓の音が響いてきた。


「……これは、"攻撃"の……」


 攻撃の指令。

 つまりは、広範囲に展開し、渡河の準備を着々と進めていた我らレーベン勢が即座に渡河して後退するガイウス軍の背を攻撃せよ、という指示であろう。


 しかしながら、前述のとおり、未だこちらは渡河の準備が完了していない。

 渡れないのだ。


 と、そこにレイモンドがやって来た。


「総長」

「どうした」

「少数――1番隊の分だけ――なら、舟はすでに用意しています」

「1番隊……」


 1番隊といえばヴィルの部隊であり、グングニルの誇る最高戦力である。

 とはいえ、彼らを先発させて、単独で追撃できるか――?


 と、悩むジークの視界に、川を横断する船団が映った。


「……ケリー。あれは、どこの部隊だ?」


 グングニルで最も目が良い弓兵のケリーが、目を凝らしてその舟の1つを眺めた。

 そして、「銀の弓」の紋が目に入った。 

 

「……銀の弓。イェリントン家の者ね。」

「イェリントン……伍長か?」

「多分ね。……あ、いたわよ。伍長(ヴェルト)さん。あれあれ」


 と、ケリーが指した方を見ると、遠目にだが、確かにヴェルトがいる。

 それを見て、ジークは決意を固めた。


「よし、伍長に遅れを取るな!1番隊はすぐに川を渡り追撃、他のものは舟を探してこい!」

「「はっ!」」


 ………………


「いやあ、やったなあ、ヴィルの兄貴」


 と、川を渡る舟の上で、ディアスはヴィルに言う。

 

「何がさ」

「ん?そんなの決まってんだろ。俺たち1番隊が先鋒を務める名誉に預かったことがだよ」

「ああ……」


 しかし、ヴィルの顔はそこまで上機嫌そうではない。

 ディアスは首を傾げる。


「……嬉しくないのか?兄貴はよ」

「いや、そうではない。確かに名誉には思っているぞ」

「じゃあなんでそんなに微妙そうな顔をしてんだ?」

「……何だか嫌な予感がする。」

「……罠があるってことか?」


 しかし、ヴィルはその質問には首を横に振った。


「いや、目先のことじゃないんだ。……その、なんていうんだろう。なんだか、この戦で、ジグラトが一気に変わるような気がするんだ」

「……それは、いいことじゃないのか?」

「うーん、そうなのかな……?」


 と、ヴィルは顔を曇らせるものの、舟の上の仲間たちの顔を見て、「ただの予感だ。どうせ外れるよ」と笑った。


 ………………


 さて、グングニル1番隊をはじめ、渡河したレーベン勢は後退するガイウスの軍勢の背後から攻撃を仕掛けた。


 しかし、この動きは読まれていたようで、縦列で後退していたガイウス勢が反転、両翼に展開すると包囲されると考えたヴェルトらレーベン勢は河岸まで後退したところで、日没を迎えた。


 ガイウス軍に打撃を与えることはできなかったものの、損害なくロードス川を渡河し終えたレーベン勢400は、夜明けとともに、本格的にトイル城の包囲に移行するのだった――

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