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極夜物語  作者: 昆布
第3節 わからず屋
37/68

第3節5項 出征


 ――王国暦204年6月22日――


 今日をもって、レーベン政権とガイウス共和国間での停戦協定は失効した。


 明朝、ジグラト軍約400はオルギンの大本営の広場にて整列、バーナード公による演説を聞いた。


「諸君、ようやくこの日がやって来た!――何の日か。それは、我ら正統なるジグラト王国が、偽の王国なるガイウスを打ち破る日である!」

「ガイウスは、ジグラト唯一の王国たる我らを裏切り、あろうことか陛下はじめ我らに仇なす者だ。それに、ようやく諸君らの協力によって天誅を下すことができる!」

「諸君らには、我らが戦神たるモルガン神をはじめとした天地神明の加護がある!なぜか。我らジグラト王国こそが正統なる王室だからだ。我らジグラト王国が正統な国だからである!諸君らの一層の奮闘を期待する!」


 ………………


 ――さて。

 オルギンからトイル城までには徒歩で4日ほどかかる。


 余談だが、オルギン〜トイル間には広大なトイル平野が広がっている。

 この平野部は東はオルギン川、西はロードス盆地から流れ出るロードス川とトイル川の大河によって、ジグラト屈指の穀倉地帯を形成する。

 

 ファブニルは当初この穀倉地帯を獲得しようとしたが、しかしジグラト山脈の険しい山々がその進軍を大きく阻害した。


 そのためにファブニルは仕方なくラズからノーザンブルグを経て、そしてニブルス高原からこのトイル平野へと至ろうとしたのであった。


 その道を、今ジークたちは行く――


 ………………


 ――出征から初日の晩。


 トイルからおおよそ3日の地点で、レーベン勢は野営を行った。

 ジークたち幹部はバーナード公の幕舎に集まり、軍議を行なっていた。


 その内容は、トイル制圧――否、解放である――後、どうするか、というものだった。

 どうするも何も――と思うが、おそらくバーナード公はその先の、トイルからロードスを通ってファブニルへ遠征するルートを完成させようとしているのだろう。


 トイルを制圧した後、そのままファブニルに攻め入るのか、それともトイルで待機するのか。


 ――これは、勝手な推測なのだが――と、ヴェルトは考える。

 おそらく、バーナード公はついでにファブニルまで攻め滅ぼしたいのではないか。

 貴族院に承認されている予算は、旧領土の奪回までのものしか承認されていない。

 

 貴族たちは自分たちの領土さえ帰ってくればもう遠征はそれきりだと考えているのだろう。

 だから、その先のファブニルとガイウスの征服、そしてジグラトの再統一についてはどうでもいい。むしろ、武器商人出身のサイモン家が貴族院に蔓延っている限りは戦争は終わらせられない。


 サイモン家は武器を三国に売り払い、その儲けで貴族にまで成り上がったものだから、戦争権益を捨てたくないのである。


 バーナード公は、そこまで見越して、トイル解放後にそのままの勢いでファブニル本国に攻め入り、ファブニルを攻め滅ぼしたい。

 当然貴族院からの追及は免れないだろうが、済んだものはもう仕方がないし、ほとぼりの冷めた頃に残ったガイウスを攻略すればいい――


 という筋書きを、ヴェルトは考えた。


 しかし、まずはトイルを陥落させられるのかにかかっているのだが。

 バーナード公は僅かに100の軍勢の守る城ならば、今手許にいる400と、後続の貴族の私兵含めた200程度で圧し切れると考えているのだろう。


 ――ヴェルトの想定どおり、軍議はトイルを攻略したことを前提として、その後どのように軍事行動を起こすのか、というものが主だった。

 末端の伍長たちは当惑していたが、ジークはこの事を想定していたらしく、すんなりそれを受け入れるどころか、積極的に作戦案を提案すらしている。


 ――流石は俺が見込んだ男だ、とヴェルトは内心誇らしくもありつつ、すました顔でレイドス卿の説明を聞く。


 ………………

 

 ――ふぅ、ようやく終わった。


 と、ジークは幕舎を出て一言洩らした。

 

「さて、ここからヴィルとサラに説明、レイモンドたち構成員にも伝えないとだな……」


 今になってわかったことだが、グングニルに採用したシステムは、総長たるジークの負担が大きいように感じる。

 

 総長はバーナード公はじめ高級幹部の説明した要項を隊長たちはじめ構成員たちに一言一句――というわけではないが――事細かに説明しないといけない。

 少しの伝達ミスでもあるとグングニルそのものが全体の作戦計画から逸脱する危険があるのだ。


 全く難儀だ、と思いつつも、グングニルの幕舎に向う。


「――お疲れ様です、総長」

「おう、お疲れ、レイモンド」


 幕舎に入るなり、レイモンドがその碧眼を笑わせて挨拶をしてくれる。

 彼は雑務もなかなかにこなせたので、今はジークの副官としても活動してもらっている。


 幕舎の中を見渡すと、1番隊隊長ヴィル、2番隊隊長サラ、そしてディアスとレイモンドの4名のみがいる。


「ジーク――いや、総長。軍議の内容は」


 と、ヴィルが訊く。

 ジークは幕舎の最奥に移動してから、口を開いた。


「うん、それじゃあまずトイル攻めでの我々の配置から説明しよう。――我々はトイル南門の攻撃並びにグングニル含む南門攻撃隊の指揮を仰せつかった。」

「おお、凄いな。末端の俺たちが早速こんな大役をもらえるなどとは思っていなかったぞ」

「ああ。それについては、伍長が公爵閣下に口添えをしてくれたらしくてな。」

「伍長が……ありがたいな」

「ああ――それで、話を戻すが、南門は最もガイウス本国側に近いので、セオドアの軍が引き返して来たら最初に攻撃される非常に危険な配置だ。――しかし」

「しかし?」

「……しかし、南門は最も守備が薄い穴場だ。軍功も挙げやすいと想定できるぞ」


 と、ディアスが立ち上がる。


「おお、やったな総長!ここで手柄挙げて将軍になっちまおうぜ!」

「ディアス、総長の話し中だ。静かに」

「はいはい、レイモンドは生真面目だねぇ」


 ジークはふふ、と微笑んで次の言葉を出す。

 

「そして、攻撃隊の指揮はグングニルが執ると言ったが、目付け役としてバーナード閣下の部下のドーン・ヒューストン卿という人物が派遣される。だからめちゃくちゃなことはせぬように」

「閣下からの目付け役……グングニルはそこまで危険視されているのか」

「まあ、ある程度の警戒はされていると見て妥当だな。中央の統率から逸脱している存在だし」 

「そうだな……」


 と、ヴィルは顎に手を当てて考える。

 我々は何もやましいことをしようとしているわけではない。

 しかし、それでもそう見えるのなら、我々のしていることは、本当に大丈夫なことなのだろうか。


「……ヴィル?」

「あ、ああ。なんでもない。続けてくれ」

「ああ……」


 ジークは少し引っかかったようにヴィルを見つつも、話を進める。


「それで、トイル攻略戦についてだが――ここだけの話、南門攻撃は、極力しない」


 幕舎にどよめきが走る。

 ディアスが立ち上がる。


「なんでだよジークの兄貴!手柄を挙げる機会だってさっき――」

「ああ。手柄は挙げやすい。が、手薄であるために南門は最も守備兵が多いと想定できる。そこで、我々は北門攻撃隊――バーナード公の直属部隊がトイル城内に突入したタイミングで南門に攻撃する。そうすれば、最も少ない損害で最も沢山の軍功を挙げられる。」

「……ドーンとかいう目付け役には、なんと説明するんだ?」

「攻撃の糸口を探しています、とでも言うさ」

「……」


 ヴィルは、内心で少し驚いた。

 騎士になることを夢見て、曲がったことを嫌っていたジークが、こんなに悪辣な手法を考えるような人間だったとは。

 いや、或いはそれこそがジークの本当の人格だったのかもしれないが。


 ジークの提案した作戦に反対する者はいなかった。

 皆、この後の、セオドアの軍勢との戦闘などに備えて兵力を温存しておきたいという意識があった。

 それに、ヴィルやレイモンドなどは、トイルを制圧した後に、ファブニルに攻め入るかもしれないということまで考えていたのである。


 ――トイル城の戦いまで、あと3日――

【お知らせ】


諸事情により、執筆から一旦離れ、不定期投稿にしようと思います。

急に何話も放出する可能性もありますので、これからも「極夜物語」をよろしくお願いします。

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