第3節2項 発足
「――そういえば、聞きましたかジークさん」
部屋でぼーっとしていると、不意にレイモンドが聞いてきた。
「ん?どうしたレイモンド」
「ヴィルさんのところ、人気すぎて選考とかするらしいですよ。サラさんのところと一緒に」
「ふーん……」
と、ぼーっとしながら話を聞く。
多分俺には関係ない。
だってこの部屋にはレイモンドと俺とケリーしかいないし、サイラスは外でディアスにボコボコにされてて、それ以外に俺の隊に入りたいという奴なんていない。
至って平和。戦時だとは思えない。
と、レイモンドが続けて言う。
「そういえば、ジークさん。ヴェルトさんから招集がかかってましたよ」
「ふーん…………は?」
急に重要な情報を言うな。
今のは雑談する流れだっただろう。
「えっ、それはいつどこで?」
「第6(午後1)時ぐらいに第2会議室ですね」
「そういうことはもっと早くに言ってくれよ……」
「すいません、失念してて」
「まあいい。――そうだ、レイモンド」
「はい?」
「後でメリアさんが来るから、話でもしておいてくれ」
「姉さんが?!分かりました!」
ほんとに、姉弟のことになるとテンションが上がるな、この姉弟たちは。
「はあ、せっかく色々教えてもらおうと思ったのに」
と言いながら会議室に向かう。
一体何の話だろうか。
………………
会議室――
ここに、俺のほかヴェルト、ヴィル、サラがいた。
おおむね、というかもう以前のヴェルト班だ。
「……それで、ここに呼び出して何の用なんだ、伍長」
と、言うとヴェルトはフフ、と笑う。
「もう伍長じゃない。これからはヴェルト卿と呼ぶがいい」
「はいはい伍長伍長」
「チッ」
と、舌打ちしつつもヴェルトは本題を切り出す。
「知っての通り、ヴィルの隊とサラの隊は志願者がとにかく多くてかなわん。ジークのところはそういう話は聞かないが――まあ、お前たちと戦いたいという者は余るほどいる。」
ヴィルはコクコクと頷く。
翠の眼でそれを横目に見つつ、伍長の方へ向く。
「そこでだ。俺は"共同戦隊"の創設をバーナード公に提案し、そして承認された」
「共同戦隊……?」
「そうだ。今は5人で一部隊だが、それを1つの部隊長が統括して中隊を構成する。そして、その上に総長を置いて大隊となすという構想だ」
「そして、総長はバーナード公の指揮のもと大隊を指揮すると」
「そうだ。こういうのは兵が多くないとできないから今まで実現できなかったが、今回は志願者が多いからそういうのが可能になった」
ヴェルトの案は画期的なものだった。
それまで軍議などは各小隊長が全員部屋に詰めてやっていたのでなかなか案がまとまらないという点もあった。
しかしこの案なら大隊を総括する総長や副長のみの出席で済むし、それに個々がそれぞれ動くのと、連携して動くのとではかなり戦術的にも有利ということもある。
「まあ、その案には賛同するけど、ヴェルトが総長になるのか?」
と聞くと、ヴェルトはフッ、と笑う。
「名目上はな。」
「名目上……?」
「ああ。俺は共同戦隊を作ったあと、お前ら3人のうち誰かにそれを譲る」
「はぁ?!正気か伍長!」
「まあ落ち着け。俺はバーナード公の副官として働かないといけないからどのみち大隊まで手が回らん。それなら大勢に慕われるお前らに委ねたい」
「……それなら、まあ」
伍長め、最初からこれが狙いだったのかもしれない。
けど、俺はそんな将軍の器では無いからな――
「……じゃあ、総長はジークだな」
と、ヴィルが言った。
うんうんジークがふさわ……ん……?ジーク……?
「……はぁ?!正気かヴィル」
「ああ正気さ。軍を束ねるには、俺のような人殺ししか能がない人間よりもお前の方がふさわしいさ」
伍長の方を見ると、伍長も微笑む。
これは観念するしかないか。
「……分かりましたよ。俺が総長になります」
「よし来た。じゃあ俺がバーナード公にそういうのを作ると言って、2、3日後にお前に代わると届け出る。これで行こう」
「分かりました……」
まったく、ずっと前からわかっていたことではあるが、やはりこのヴェルトという男は滅茶苦茶なことをする。まあ、そういうところ含めて、俺たちはこの男を慕っているのかも知れないけれど――
「あ、そうだ」
「ん?まだなんかあるのか?」
「いや、一番重要なものが残ってた」
「……?」
「部隊の名前だよ。名前」
「あー……」
名前。
確かに、共同戦隊だとか第〜大隊だとかは味気ないものな気がするから、カッコイイ名前は欲しいものの――
「……すまん、学が無いからピッタリな名前とか全くわからん」
「私も」
ヴィルと伍長は顔を見合わせる。
ここにいる半分が、全くそういうネーミングセンスというものが欠落していることが慮外だったのだろう。
「うーん……」
と、ヴェルトは下を向いてしばらく悩んでいた様子だったが、急にパッと顔を上げて言った。
「"グングニル"ってのはどうだ?」
「……グングニルって、神話に出てくる槍のことか?矛先を向けた先にいる軍勢は必ず勝つという――」
と、ヴィルが聞くと伍長はそれだ、とヴィルに指を向ける。
「そう、そのグングニルだ!なかなかに縁起が良いんじゃないか?」
確かに、グングニル――神の持つという伝説の槍――というのは俺でも知っている、有名なものだ。
そして、確かに縁起もよい。
「それで良いと思う」
「よし、じゃあ決定だな。俺は今からバーナード公のところに行ってくるぜ!」
と、伍長はすぐさま部屋を飛び出して行った。
部屋に残された3人は、その後ろ姿を何も言わずに見守った。
………………
グングニルの発足は、すぐにオルギン中での噂となった。
と、言うのも、ヴェルトが知り合いに頼みまくって噂を広めてもらったのだ。
――平民出の騎士が若くして将軍になる、だとかバーナード公の直属なので待遇がすごぶる良い、だとか真実が
初代総長ヴェルト・イェリントンは3日で総長を辞任し、それに代わる2代目総長にジークフリート・カーターが就任。
体制としては、小隊を集結させた中隊にそれぞれ番号を振っている。
現状ヴィルヘルム・ ハボックを1番隊、サラ・ウィンターを2番隊の隊長とし、そして総長ジークの直属としてもう1つ中隊を置くというもの。
現在の兵数は、15人。
ジーク、ヴィル、サラのそれぞれの部隊の人数が全ての、ちっぽけな組織である。
しかし、ジークはいずれはこの部隊を邪竜騎士団の地方方面軍ほどの勢力にしたいなという野望めいた構想も持っている。
バーナード公は、「軍の総大将の指示によって、独立して判断し行動する」というグングニルのコンセプトに不安感もあったが、その規模の小ささから現状は放任することとした。
………………
――グングニルは、王国暦204年、第1回ガイウス遠征に先立って結成された「軍閥」である。
結成したのはヴェルト・イェリントンであるが、その組織を特に成長させたのは2代目総長であり、……………………であるジークフリート・………である。
彼は…………の……後の混乱を収束させ、実権を握ると、………………を吸収して大組織とする。
この「統一戦争」を語るに際して、このグングニルの存在を挙げないということは不可能であると言っても過言ではない――
――ベル・ブラウン著「………記」より――




