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極夜物語  作者: 昆布
第3節 わからず屋
33/68

第3節1項 叙任

ここから第3節開始です。

第3節からもよろしくお願いします。


 レーベン遠征軍は、最終目標ノーザンブルグへの到達と、北部旧領土奪還を果たしたため一時解散した。

 

 しかし、廃墟となったノーザンブルグはもはや戦略的価値はおろか、都市としての機能すら喪失していたため、ノーザンブルグを経由しての大陸との貿易による経済効果を期待していた商人や貴族からの批判が殺到した。


 ――そして、ノーザンブルグの虐殺から約半年――


 冬が過ぎ、春になり、そして初夏になった。


 バーナードは当初ノーザンブルグを橋頭堡として、大森林地帯であるジグラト山脈の西側を突破しようと考えていたが、ノーザンブルグの焼失によりその計画を断念していた。

 

 そして、それに代わっての計画案として、ガイウス占領下トイル城を奪還し、そこから西進してロードス盆地を抜けて直接ファブニル本国を強襲するというものを立案した。


 そのためには、ガイウス軍を攻め、ジグラトで最も堅牢な城塞、トイル城を陥落させなければならないのだが――


 ………………


 ――王都レーベンの王宮――


 その大広間にて、ジーク、ヴィル、サラの3名が今まさに騎士に叙任されようとしていた。

 ジークの前に、国王ジョン2世が剣を携えて立つ。


「ジークフリート・カーター。――ここに、第28代ジグラト王国国王ジョン2世の名において、汝を騎士に叙任する」


 と、片膝を立てて下を向くジークの肩に剣の腹が触れる。


 ――そうして、ジークは騎士になった。

 平民出身から騎士になった例は、初代ハボック家当主、ランドルフ卿以来のことであった。


 王都の市民たちはそれを聞いて自らも騎士になれるかも知れないという夢を持ち、オルギンの大本営には志願者が続出したという。


 ………………


 ジークたち3人は同時に伍長に任命され、部隊を率いることになった。

 ヴェルトはバーナード公の副官に昇進し、「伍長」ではなくなった。

 そして、リドニア――彼は、ニブルス伯の強い要請により王国騎士団ニブルス駐屯軍の所属となり、オルギンから離れることになった。


「大丈夫だよ、みんな。毎年冬には王都に帰ってくるし、ニブルスはオルギンから近いからすぐ会えるよ」


 と、見送りの時に本人は笑っていた。

 が、どうにもヴェルト班の人たちは寂しくてたまらない。

 来年の冬が待ち遠しい。


 ………………


 さて。

 念願の騎士ならびに伍長となった俺たちがまずしなければならない事とは何かというと、それは仲間集めだ。


 現状、俺たちの部隊には誰もいない。

 けれどもかつての伍長の班のように、5人を集めなくては伍長だなんて名乗れやしないのだ。

 幸いにも志願者は沢山いるので、その中から有望そうな者を取ればいいけど。


 と、そこにレイモンドがやってくる。

 レイモンドとディアスの上官だったジーンさんもバーナード公の副官となったらしく、2人は今のところ俺の部隊についている。

 


 特にレイモンドは先のノーザンブルグでの件の後、俺のことを姉の命の恩人だと慕っている。


「ジークさん、人が来ていますよ」

「……俺に?誰が?」

「さあ。なんでもリドニアさんの紹介らしいですけど」

「……?まあ、通して差し上げろ」

「はい」


 と、レイモンドがどうぞ、と言うとノックもなしに雑にドアが開かれる。


「失礼するわ!」 


 そこにやって来たのは老緑のサーコートを着た、黒の髪を後ろで束ね、ブラウンの瞳のかわいらしい女性だった。

 彼女は俺が座ってください、も何も言っていないというのにすぐに椅子に座って俺と対面した。

 失礼します、と言って本当に失礼な奴は初めて見た。


「……えーと、リドニアの紹介ってことなんだけど、その、自己紹介を」

「私はアリエスのケリー・ヘラー。弓が得意よ」

「……なるほど……その、弓が得意ってのはどのくらい……」

「ん?まあ飛んでる鳥を射落とすぐらいは」

 

 ……この人凄くね?いや嘘か?


「その、実演とかって――」

「別に良いけど」


 ………………


 と、言うわけで俺とレイモンドとディアスがいるのは、オルギン郊外の演習場。

 流石に市街地で弓なんて撃ったら危ないからな。


 と、早速ケリーは上空を飛ぶ鳥を見るやロングボウを引いて射た。

 その矢は勢いよく飛んでいき、そして、1羽の鳥が墜落した。


「まさか」


 と、思わず声が洩れる。

 飛ぶ鳥を落とすなど、常人にできるそれではない――


 ケリーがその鳥のところに走っていって、脚を持って帰ってくる。

 鳥の体には、確かに矢が突き立っていた。

 ケリーはドヤ顔だ。


「……」


 しばらくの絶句のあとで言った。


「採用です」


 ………………


 大本営に戻ってくると、ヴィルがサラと話していた。

 ヴィルとサラ、最近よく話しているが、そんなに仲が良かっただろうか。

 ヴィルが一方的に喋っている感じでもないし、サラが雑談に付き合うだなんて珍しい。

 と思っているとヴィルがこちらを見て話しかけてきた。


「あ、ジーク。さっきお前を訪ねて来てたやつがいたぞ」

「えっ?」

「とりあえず第3応接間に待たせておいたから」

「お、おう……」


 俺を訪ねてくるだなんて誰だろう。

 と、応接間のドアを開けると、群青色のサーコートを着た、茶髪にグレーの眼の、目鼻立ちの整っている青年が椅子に座っていた。


「……えっと」


 ええと、本当に誰ですか。どこかで会ったことありますかね?

 と、その青年はこちらの姿を認めると、立ち上がって言う。


「あ、ジークさんですか。」

「そ、そうですが」

「自分は従騎士のトイルのサイラス・ハミルトン。ヴェルトさんの紹介でここに来た者です」

「伍長の……?」

「はい。ヴェルトさんから"お前は弱すぎる。ジークかヴィルの部隊に行って鍛えてもらえ"と」

「弱すぎて……?」


 弱すぎてって何だ。伍長の紹介だったら入れてあげないといけないけど、流石にライン超えの弱さなら帰ってもらうことになるが……

 

「まあ、はい。運と身体が頑丈なのだけでどうにか生き抜いて来れたので」


 運と頑丈だけでって。流石にそれは無いだろう。

 曲がりなりにもオルギンから北部奪還戦を生き残ってるんだから。

 ……そんなに弱いのかな。


「ちょっと中庭で一戦どうだ?」

「あ、はい。」


 ………………


 ――サイラスは、弱かった。


 基礎は出来てるようだが、基礎だけだ。

 基礎を応用するということが極端に下手くそな印象がある。

 だが、本人が自認するように、耐久はとにかく高い。


 それほどガッチリした体格では無いというのに、なぜか木剣を直撃させても異様に手応えが薄い。

 というより、多分これは無意識に急所や致命傷になる斬撃などを逸らして被害を減らしている。

 つまり耐久というより回避性能が高い。

 ただ、それを上回るレベルで攻撃性能が低いので結果弱いという評価に落ち着くのだが。


 地面に倒れるサイラスに手を差し伸べて言う。


「……まあ、伍長の紹介だ。歓迎するよ、サイラス。ディアスに毎日鍛えてもらうといいさ」

「うっ、はい……」


 サイラスが手を掴む。


「しかし、サイラスお前ヴィルのところに行ったほうが良かったんじゃないか?俺のところだとディアスぐらいしかいないぞ」

「まあ、それはそうなんですけど、ヴェルトさんが"ヴィルのところには強い奴が絶対殺到するからジークにしとけ"と……」

「ふむ、まあそれはそうか。今頃ヴィルの部屋は凄いことになってそうだしなぁ」


 ………………


「くしゅん」


 くしゃみをする。

 誰かが呼んだような気がする。

 サラさんがいつもの冷たい目でジッと見つめてくる。

 

「……ヴィル、風邪?」

「いやいや、風邪なんか引かないよ。なんだか誰かに呼ばれたような気がして」

「気のせい」

「まあ、多分そうだね……」


 と、そこにディアスが歩いてきた。


「おう、ヴィルの兄貴とサラの姉貴。なんかあんたらの部屋凄いことになってたぜ。早く行ったほうが良いんじゃねえか?」

「えっ、本当に?」

「嘘ついても意味ねぇじゃねえか」

「……まあそうか。ありがとうディアス」

「良いってことよ」

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