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極夜物語  作者: 昆布
第2節 北
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第2節11項 初日(下)


 時間は遡って、4人がそれぞれ2人組を組んで別れた後。

 ヴィルはサラを伴って市内を歩き回っていた。


「はあ……良い宿屋、どこにあるんだろう」


 ――ついため息が洩れる。

 サラさんは全く喋らないからちょっと気まずいし。伍長は酒を飲ますな、だなんて言ってたけど、酒を入れるとちょっとは饒舌になるんだから飲ませたほうがいいかなあ……


 と、その時、後ろを付いてきているはずのサラの剣の柄がヴィルの背中を小突いた。


「?!」


 と、即座に自分の腰の剣に手を伸ばすが、サラが逆に一瞬ビクッと動いたのを見て、どうやら敵ではないらしいとわかった。

 じゃあなんだ。


「どうかしたのかい、サラさん」

「……ん」


 と、サラはあるところを指さす。


 見ると、宿屋だった。

 外から見る限りそこまで悪くは無さそうだ。


「ここに泊まりたいの?」


 コクリと頷く。

 ……まあいいか。ここに泊まろう。


 ………………


「――はぁ?!部屋が一つしか空いてない?!」


 と、店主の親父さんは困り顔だ。

 

「はい……なんでも、ちょっと前にニブルの方で戦があったらしいじゃないですか。それで戦場を避けようとした人たちがここまでやって来てましてね。多分どこの宿屋も同じようなものですよ。」


 ……状況はこの通り。

 誰かのせいにしたいが、自分の顔しか浮かばない。


「……部屋は何人部屋なんですか?」

「ああ、それに関してはご心配なく。2人が過ごせるぐらいの設備はありますとも」

「……」


 チラリとサラを見る。

 多分ここを選んだのは彼女の気まぐれか、はたまた適当だったのか分からないが、彼女が良いと言えば俺は文句は言わない。


「サラさん、ここにする?」


 コクリと頷く。


「……じゃあ、一部屋を1週間、お願いします」

「はいよ。」


 ………………


 部屋に入ってすぐ、ヴィルは頭を抱えた。


 ――あのジジイ、騙しやがった。

 と、言うのも、なんとベッドが一つ、それもシングルサイズしかないのだ。

 一応マットみたいなものはあるからこれで床で寝ろ、ということなのか。


 普通に騙されたぞ。

 厨房が建物に付いてないからそこらへんで勝手に飯は調達してきてくれみたいな感じだし。その分安かったけど。

 最悪じゃないか。

 とりあえず夜も近いからどこか飯屋に行きたいけど……


 と、サラさんの方を振り返ると、蜂蜜酒の入った小さなボトルを直で飲んでいるサラさんと目が合う。


「んっ」

「あっ」


 ………………


 ――ここから先は、言うまでもない。


 何とかしてボトルを飲み干す前に奪い取ろうとしたがが抵抗され、股間を蹴り飛ばされて泡を吹いて倒れている間に全部飲み干されてしまった。


 くそっ、どこからそんなもん湧いて出てきた。


 そして、案の定彼女はボトル1本だけで顔を真っ赤にしてベロベロに酔っぱらってしまったので、本来は激戦になるはずだったベッド争奪戦は一瞬で片がついてしまった。

 

 なんで弱いのに飲みたがるのか。なんで自分の飲める量を踏まえてキープできないのか。

 

 このまま外出したら色々となんだか危ないことになりそうな気がするので、仕方なくどこかでご飯を買ってこよう。


 ………………


 大きな都市とはいえ、さすがに夜道は怖いなぁ。

 今にも集団で巨漢が現れて肩をぶつけて来て絡まれるんじゃないかとハラハラしてしまう。


 まあ、いざとなったら"ハボリム"でぶった斬れば良いんだけど。

 それをしたら多分この街にはいられないだろうし、荒事は出来るだけ避けたい。


「ねえ、お兄さん」

「えっ」


 と、急に知らない美人なお姉さんに声をかけられた。

 なんだなんだ。


「お兄さんカッコイイね。ちょっと私と遊んでいかない?」

「えっちょっとあの」


 袖を引かれる。まずい。この女なんなんだ。

 まさか敵の防諜機関か何かの手先で、俺を殺そうとしてるんじゃないのか。いやそれはないか。


「いやちょっと待ってください」

「そんなこと言わずにぃ、ねぇ?気持ちいいよ?」


 カッコイイとか言ってくれたり熱烈なアタックをして頂きとても興味があるしとても嬉しいけれど、ちょっとそれは勘弁していただきたいです。

 遊びでやってるんじゃないんだよ。


 と、その時、後ろからも服を引っ張られた。

 まずい、もしこれがコンビの敵の暗殺者とかだったら確実に死ぬ。


 パッと後ろを見ると、顔が真っ赤のサラさんだった。

 なんで?

 と、困惑していると、知らないお姉さんはサラに対して明らかに不機嫌そうに怒鳴る。


「なんなのあんた!この人は私の客で……」


 知らない知らない。何それ。

 えっとなんかセールスか何かなの?てっきりナンパとかかと思ってたんだけど。

 と、サラさんがおもむろに、呂律の回っていない口を動かした。


「あらしの男に手ぇ出さないで。」


 ……はい?

 君は助け舟出してくれるんじゃなかったの。

 なんで事態を悪化させた?


 と、思っていたら、女はなぜかそそくさと退散していった。

 サラさん効果……なのだろうか。


「……サラさん、ありがとう」


 が、サラさんは冷たく言う。


「うそらから、ほんきにしないれ」

「あはは、もちろんさ。――ところで、ご飯どうする?」

「そこらへんれ……」

「特に希望はないんだね?じゃああそこの店行こう」


 ………………


 初日から失敗した。

 もう酔ってるし、店ではこれ以上飲まないかなと思って油断していたらガッツリ飲んでる飲んでる。

 しかも気配りなのか分からないけど俺の分まで大量に注文するし。

 こんなこと続けてたら3日で金無くなるぞ。


 ――と、それで、ぶっ潰れたサラさんと、意識は辛うじてあるけどフラフラの2人組の完成と相成った。

 俺まで飲んだのが馬鹿だった。吐きそう。


 サラさんの肩を持って宿まで歩く。

 こういう時、背が丁度いい高さなのは助かる。けど、酔いつぶれてる時点で大迷惑なので差し引いたら損だ。


 ヴィルたちの初日は、こんなものである。


 ジークたちがあらぬ嫌疑をかけられている間に、ヴィルはこの氷のような姫様に振り回されているのだった――

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