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極夜物語  作者: 昆布
第1節 開戦
12/68

第1節10項 オルギン会戦(下)


 ――ジークが初の対人実戦を行っていた頃。


 リドニアとヴェルトも、同じく敵と剣を交えていた。


 リドニアの剣技はやはり我流のジークとヴィルとは違って基本がしっかりとしている剣である。


「ぐっ……!」


 しかし、リドニアと対峙している敵もなかなかの腕。

 何合と剣を交えても互角どころかリドニアが劣勢である。

 

 ――リドニアは相手と鍔迫り合いになる。

 しかし、相手は身長の利を活かして、上からリドニアを圧し斬ろうとする。


「リドニア!」


 と、リドニアの劣勢を見たヴェルトはそこに割って入って敵を胴から一閃する。


「リドニア、無事か?」

「なんとかね。助かったよヴェルト」


 と、リドニアたちは周囲を見る。


 ファブニル兵はあらゆる要素で劣るはずのレーベン兵に押されていた。


「……意外と俺たち強かったのか?」

「どうだろうね。相手が様子見の可能性も……っ!あるからね」


 と、話の最中に斬り掛かってきた敵兵を、リドニアは一閃しつつも声を続ける。


 ――と、麓の方からラッパの音が響き渡る。

 その音を聞いたファブニル兵たちはすぐさま徒党を組んで丘を下り始めた。


「弓兵!一斉射!」


 と、守備側の弓兵たちはその敵の背めがけて矢を放つ。

 いくつかの敵の背に矢が突き立ち、倒れる者もいたが、まだ敵勢力は健在である。


「ふう、第二波は少し態勢を立て直してから来るはずだ。皆もしっかり備えてくれ」

「「はっ!」」


 と、そんなヴェルトたちの元にジークがやってきた。


「伍長」

「ん?」

「もし、敵がもう一度あの隊列で来たら、俺に考えがあるんだけど……」

「言ってみろ」

「――」

「……なるほど。アリだな」


 ………………


 ――30分ほどして。


 ファブニル軍は再びテストゥドの隊列を組んで進軍してきた。

 今度は盾の間から槍を覗かせ、先ほどの盾兵の突撃にも対応できるようにしてある。


「さあ、来たぞ!皆、着火しろ!」


 と、ヴェルトたちの手に持たれているのは薪用の丸太。

 そして、それに火をつける。


「よし、転がせ!」


 と、ヴェルトの指示のもと火の着いた丸太が坂道を転がり落ちる。

 そして、それは転がっていって、敵兵の足元に流れていく。


 火の熱さ、痛さに耐えかねた敵は多少の隊列が崩れる。


「よし、投擲開始!」


 と、守備側の槍兵が一斉に槍を投げると、隊列が乱れ、盾の傘の中から少しでも外れていた敵兵に直撃する。


 そして、弓兵が矢をあらん限り射掛けると、数本の矢が盾の隙間から覗かせた槍兵に命中する。


 ――いい調子だ――と、ヴェルトは思う。

 正直な話、テストゥドという陣形は正面防御力があまりにも高すぎるので、このような戦場ではどうしようもない場合もある。


 一見突拍子もないようなジークの焚き木を転がす作戦は完璧に思えるテストゥドに小さくとも綻びを生み、槍兵と弓兵がその綻びを大きくさせている。


 この調子で行ければ、或いは――

 と思いつつ、ヴェルトたちは白兵戦に突入していく。


 ………………


 ――ヴィルの剣はジークと同じく我流、しかしジークとは違い技術も勢いも一級品である。

 そして手に持つ名剣"ハボリム"が彼の実力をさらに加速させる。


 彼の尋常でないのは、必ず敵と3合以上剣を交えないことである。

 強兵と名高いファブニル兵ですら、そこらの藁を薙ぐように斬り裂いていく。


 その様子を見て、ジークは驚嘆の声をもらす。

 ジークが何合も斬り結んでようやく敵兵の1人を倒せたというのに、ヴィルは瞬きする合間に1人、また1人と斬っていく。


 そしてなにより驚異的なのは、何人斬っても"ハボリム"の刃が刃こぼれや曲がったりしないことである。

 通常、少しでも間違った刃筋で斬ると剣は刃こぼれしたり刀身が曲がる。

 無論、刀身が曲がるのは時間が経てば自然と戻るのだが、それでも戦闘は難化する。


 それがないということは、彼は全く刃筋を違えずに敵を次々に斬っていることになる。

 それを知っているジークは、いやはや末恐ろしい男だ、と改めて思う。


 ………………


 ――サラの剣術は、刺突を主体としたものである。

 しかし、彼女のなんとも恐ろしいところは、必ず眉間、喉、鳩尾などの急所のみを正確に突くことである。


 そこに彼女の持ち前の体術などを加算するともはや手が付けられない。

 ヴィルと同じく、敵を手当たり次第に刺し殺して回っている。


 ………………


 と、この2名の活躍がとにかく目立つが、全体的に見るとレーベン勢はやや劣勢である。


 当初の密集隊形に突入した時は相手が白兵戦の用意ができておらずその点でまだ優勢だったものの、やはり個々の力はファブニルの方が高いので、長期戦になると厳しいものがある。


 1人、また1人と仲間が倒れる様子を目の当たりにしつつ、ジークは敵を斬る。


 ――と、その時。

 丘の麓で喊声が轟いた。


 敵も味方も何事かと麓を見る。

 と、そこには黄金色の鎧を纏った王国騎士団団長、バーナード公とその麾下の精鋭部隊がいた――


 ………………


「今だ!突撃!」


 と、バーナード麾下の騎兵隊が一斉に丘の中腹のファブニル軍めがけて突撃する。

 ファブニル軍は前と後ろで挟まれて大混乱に陥った。


 騎兵隊は突撃用の槍を携えて突撃し、敵を串刺しにしていく。

 ファブニル軍はいよいよ潰走しはじめたが、ここでバーナードは少しだけ隊列に隙間を作った。

 すると、ファブニル兵たちは死に物狂いで戦おうとするのをやめて我先にとそこへと向かっていく。


 しかし、その先に待っていたのはレイドス卿の率いる弓兵部隊である。

 雨あられのように矢が降り注ぎ、ファブニル兵たちはバタバタと倒れていく。


 ――結果、当初200余名いたはずのファブニル軍は、50名が討死、重軽傷者は100名を優に超えた。

 彼らは統率も何もなく一目散に本陣へと逃げて行ったが、バーナードは市街地での戦闘のほうが有利だと考えて追撃することはしなかった。


 ………………


 ――ファブニル軍本陣――


 その幕舎の中に詰めているのは、ファブニルの将軍たちである。


 と、そんな幕舎の中に伝令が飛び込んできた。


「急報!急報にございます!」


 すると、1人の将軍が立ち上がる。


「ようやく城丘を陥としたか!」


 が、伝令はその言葉に顔を青ざめさせながら言った。


「そ、その……我が方の軍勢は大敗!確認できるのみでも50名以上が討死と……!」


 ――瞬間、空気が凍てついた。


「ご、誤報ではないのか?!」

「ざ、残念ながら……」


 と、その将軍は伝令と同じく顔が青ざめはじめた。


 ――戦力の5分の1を喪失。

 信じがたいが、伝令が誤報を伝えるとは思いにくいし、なにより、その伝令の身体の至る所に矢が突き立っていたことが、事実であろうという思いを強調させていた。


 と、そこに早馬が飛び込んできた。


「ええい、今度は何事か?!」

「も、申し上げます!ガイウスが……ガイウスの軍勢約200が、中部トイルから北上中です!!」


 いよいよ幕舎の雰囲気は極寒である。

 戦力の5分の1を喪った状態では――レーベン勢だけならどうにかできるもののガイウスも加わるとなると――いよいよ全滅しかねない。


 将軍らは一斉に幕舎の一番奥に座っていた、深緋のサーコートを着た中老の男――邪竜騎士団団長でファブニル軍元帥、ホメロス・ピークを見る。


 ホメロスはしばしの沈黙のあとで、重々しく


「……撤退する」


 と言った。


 ファブニル軍は即座に撤退の準備を進め、30分後には退去した。


 ――こうして、オルギン会戦はレーベン勢の勝利となった。

 レーベン勢にとっては、今大戦始まって初の勝利であった――

これにて第1節終了です。

引き続き「極夜物語」をよろしくお願いいたします。

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