それぞれの思惑.2
「--報告は以上となります」
「うん、ありがとう。後はこっちでやるから、君は業務に戻ってね」
僕は、救援に行った職員の報告を黙って聞いていた。全部視てたけど。
礼をして、職員はこの場を後にした。
職員の報告にも熱が入っていたが、本来、有り得ないことが起きた。
--即席、しかもD級以下のパーティーで、オーガを討伐する。
それも、ほぼ無傷な上に、カイル君に至っては二体のオーガを相手取る、とかいう離れ業だ。
E級だった頃の僕に、それが出来るか? ……いや、一体ならまだしも、二体は無理だ。
「……ホントにとんでもないよね。君もそう思わないかい?」
「……」
「あれ? 話によると、君が一番喋っていたと聞いて、聴取に来たんだけど」
「……知らねぇよ」
ここは、ギルド本部にある地下収容所。騎士団とギルド本部で、それぞれ収容所があり、規則が異なる。
どちらかと言えば、ギルドに捕まった後の方が厳しい。基本的に、行き着く先は労働力。奴隷にして働かせた方が、世の役に立つといった考えだ。これだと、どっちが悪か分からなくなってくる。
僕は頭を振って、男へ尋ねた。
「さて、と。君にはいくつか聞きたいことがある。質問に答えてくれれば、手荒なことをするつもりはない」
僕はね。
「んなこと言って、シャバに戻ってきた奴見たことねぇよ。皆奴隷にしちまってんじゃねぇのか? あぁん?」
正解。収容所なので、僕と男の間には檻という境界がある。それなのに、よく吠えるな。
「大体よぉ、話を聞きてぇなら、こっちの条件も飲んでもらわねぇとなぁ!? それがフェアってもんだろ?」
お、段々ノッてきたな。僕も話に合わせてみた。
「条件ってなんだい?」
「美味い飯と酒! まずは腹ごしらえからだ! なぁ?」
この男、ギルドは労働力を欲しているから、殺すことはない。そう踏んでいる様だ。そしてそれは正解。スライムに折られた腕は、医療班の手でほぼ元通りになっている。多少、動かしにくそうにしているが。
「さっさと持って来な、兄ちゃん! でなきゃ、俺から話すことはなにもねぇよ!」
「スライム」
その言葉に、それまで笑みを浮かべていた男は、ビクッとして身体を強張らせた。大分トラウマになってるね。
「交流があるんだ……【従魔士】、連れて来ようか?」
僕の発言に、男の顔がみるみる内に青醒めていく。
「丁度会う用事があったんだ。そうだね、ご飯とお酒だったかな? それと一緒に皆で--」
椅子から立ち上がった僕に、男が慌てて声を掛けてくる。
「ま、待て! いや、待ってくれ! あのスライムだけは勘弁してくれ!」
「えー、どうしようかな」
「し、喋る! 洗いざらいだ! 飯とか飲み物も配給ので良い! この通りだ!」
男は、地面に頭を擦り付けた。ここの地面、硬いだろうに。
僕は椅子に座り、改めて、男へ話し掛けた。
「……分かった。じゃあ質問していくね。嘘は吐いちゃ駄目だよ?」
男は、僕の質問に、とても丁寧に答えてくれた。捗る捗る。カイル君達のお陰だ、ありがとう。
--男には、洗いざらい喋ってもらった。やはり、叔父による依頼だった様だ。
だが、三年も遊べる金なんて、本当に用意出来たのか? 頼みのアメルちゃんは、手元にいない。口が上手く、騙せた可能性もあるが、そうじゃなかった場合、話が変わってくる。
夜。僕は、アメルちゃんが住んでいた村にやって来た。目的は叔父。
話を聞き出せれば一番だけど、最低でも接触出来ればいい。後は、手がかりを見つけるまで、重点的に視るだけだ。
家は把握している。僕は玄関をノックした。
「こんばんわー、ギルド本部の者です。いらっしゃいますか?」
返答はない。居留守にしても、人の気配も感じない。
もう一度ノック。やはり返事はない。僕はゆっくりとドアに手を掛けた。
「……掛かってないね」
ドアは、抵抗なく開いた。僕は、警戒を強める。
中へ入ると、酒の臭いと、違う匂いがして、僕は思わず顔をしかめる。
これは--血の匂いだ。
ベッドには、中年の男性が寝そべっていた、叔父だ。
心臓を一突き。絶命している。
「ハロウ。仕事が早いと聞いていましたけれど、ここまでとは思いませんでした。やはり来ましたね……【監視者】」
気配なき場所から、声を掛けられた。振り返るが、そこには誰もいない。依然として、気配も感じ取れない。
僕は、刀に手を添えて、話し掛ける。
「僕としては、【お見通し侍】の方が、お茶目で好きなんだけど……とりあえず、姿を見せてもらってもいいかな? 恥ずかしがり屋さん」
「ノー。貴方に観測されると、こちらとしても都合が悪い」
「オルサフォルムの元メンバーを、【従魔士】へ当てたのは、君だね?」
「……貴方はやはり賢い。今回は、忠告をしに参りました」
「忠告?」
「我々のすることを、嗅ぎ回らないで頂きたい。貴方も、長生きしたいでしょう?」
「そう言われても、何をしてるかによるんだよね。そりゃ僕だって長生きして、格好いいおじいさんになりたいさ。でも、君は……僕に勝てると思っているのかい?」
「……その時が来れば、刺し違える覚悟は出来ていますよ」
--では、確かに伝えましたよ。男と思われる声は、何も言わなくなった。この場から立ち去った様だ。
僕は構えを解除して、絶命している叔父を見る。
口封じで殺された。恐らく、今の男に。
気配は僕でも感じ取れなかった。とすれば、【暗殺者】のスキル、隠密である可能性が高い。
「厄介なのに目をつけられたねぇ、カイル君」
僕は頭を掻き、医務室で眠っている、彼のこれからを案じた。




