オルトル
夜の城下町。俺達は、そこにある店の前で人を待っていた。貴族も歩いている場で、俺達の格好は少し浮いている様にも見えた。
「服装は、このままで良かったんでしょうか……」
「アミカさんが良いって言ってくれたし、問題無いと思うんだけど」
「おーい、待たせたな」
そこに、アミカさんが手を振りながら、こちらへやって来た。大盾は持ってきていないし、装備も軽装だった。服装はこのままで大丈夫そうだ。
「じゃ、入るか」
「良いんですか、アミカさん。ここ高いんじゃ」
「金の問題じゃねぇ。命の恩人に敬意を示してるだけさ。ほら、行くぞ」
ここは貴族も御用達のレストラン、オルトル。完全予約、個室制であり、密会や会談にも使われているらしい。
部屋に通された俺達は、その広さに驚いた。
「個室って聞いてたんで、もうちょっとこじんまりしてるかなと思ってましたけど、すごい広いですね」
「一応、一番広い部屋を頼んでおいた。たまたま空いてたもんで、店もOKしてくれたが、人数を聞いてから、何度か確認されたよ」
笑いながら言うアミカさん。ここは、個室というより会場に近い。数十人入っても大丈夫なんじゃないだろうか。
窓の側に、二セットのテーブルが置いてあり、どちらでも食事が出来るようになっている。
「本当は、メンバーも連れてきたかったんだけどな」
「まぁ、仕方ないところです、よね」
--ギルド本部にてあった出来事。
アミカさんから、お前が説明してくれと言われ、事の顛末をジェシカさんに伝えた。
ジェシカさんは驚いていたが、しっかりと話を聞いてくれた。
「それは……初めてのダンジョンで過酷だったわね。それでも、怪我なく帰ってこれたんだし重畳よ」
「はい」
「うん、事情は分かりました。オルサフォルムのアミカさん。そしてメンバーも、無事に戻れて何よりです」
「おう」
「貴方達オルサフォルムが、ダンジョン上層で、救援を求める窮地に陥ったことは、ギルドに記録されます。構いませんね?」
「事実だ、構わない。」
アミカさんは、毅然とした態度で答えた。
「分かりました。それで、一旦預からせて頂いた魔石の換金ですが、申し出通り、六対四で宜しいですか?」
「あぁ、六をカイル達にやってくれ」
「アミカさん!?」
「助けてくれたんだ、当然だろう?」
「ありがとうございます。正直……こういったケースは、分配で揉めることが一番多いので。……団長が決めた事ですから、構いませんよね?」
ジェシカさんは、後方で睨み付けていたハディットさんへ微笑む。
「……っ! 勝手にすれば?」
ハディットさんは音をたてながら椅子に座って、こちらに視線を向けることはなかった。
魔石の換金、そして分配後。ギルドを出た際に、ハディットさんから声を掛けられた。
「カイル。アンタも少しは出来るようになったじゃない」
助けてもらった相手にも、上から目線なのは流石だなぁと思う。無視してもよかったが、アミカさんの手前、返事をする。
「えぇ、まぁ」
「テイム出来たスライムのお陰ね。ライムと言ったかしら? 私に、あの子を頂戴」
「……は?」
何を言われたか分からず、俺は呆けた声を出してしまった。
ハディットさんは、俺の抜けた返事に苛ついたのか、声を荒げながら言葉を続けた。
「だから! ライムを私に頂戴、と言ってるの! アンタなんかより、私の方が、上手くライムを扱ってあげる」
「いや、無理ですけど」
「何でよ! ……じゃあ百歩譲ってあげる。私が依頼を受ける時、貸してくれれば良いわ! それなら良いでしょ? 今までアンタの面倒を見てきたんだからその位--」
「おい、その辺に」
アミカさんが制止しようとしていたけど、もう遅い。俺はスキルを発動させた。
「……さっきから大人しく聞いてりゃ、調子に乗りやがって。ライムは物じゃねぇんだよ! 友達の貸し借りとか聞いたことねぇぞ!?」
「何急に威張ってんのよ! 声を大きくすれば、私が引き下がると思った?」
口論はますますヒートアップしていく。そこに件のライムが声を発した。
「ねー」
「何? やっぱり私みたいな優秀な女の子が、カイルより良いわよね? アンタからも何か言ってやってよ」
「おまえ、キライ。どっかいけ」
珍しく冷静な口調で話すライム。どこかしら怒ってるようにも感じる。
「……っ! スライム風情が!」
「双方共ストップだ! ギルドの入り口で目立ち過ぎだ! 捕まりたいのか?」
「……フンッ!」
ハディットさんは俺達に背を向けて、そのままどこかに行ってしまった。
「ったく、これから旨いもんでも食べようと思ってる時に……ベラート、お前は来るだろ?」
「いや……儂も遠慮しておこう。思うところがある」
そう言うと、ベラートさんも何処かへ行ってしまった。
「やっぱり、このメンバーまとめてるって凄いですよね」
「今、散り散りになったんだが……」
閑話休題。
「スマンな、いい気分で飲み食いさせてやりたかったんだが」
「いえ。こうして誘ってもらえるだけで嬉しいです」
「よし! 今日は俺の奢りだ! カイル、嬢ちゃん、丸いの! なんでも好きなだけ食べて良いぞ!」
「あ、ありがとうございます!」
「オマエは、いいヤツだ!」
嬉しそうにお礼を言うアメルと、現金なライム。
「アミカって呼べ! 丸いの!」
アミカさんは、笑いながらアメル達にメニューを見せる。この行為を後悔することになるのは、なんとなく察しがついた。
向こうのテーブルでは早速,上から全部、という不穏な言葉が聞こえてきた。




