スキル
「しかし、強くなったなぁ……」
ダンジョンの壁へ身体を預けて、崩れたように腰を下ろし、しみじみと言うアミカさん。
周囲の安全は確認できた様で、一応アメルに皆がいる位置から、ダンジョン奥の方を見てもらっている。
【射士】のスキルなんだろう。アメルの眼は、視力が良いでは説明がつかないレベルだった。
「このスライム、ライムって言うんですが、凄く助けられてます。ほとんど、ライムのお陰ですよ」
「ぼくは、すごいんだ!」
ライムが、アミカさんの前で跳び跳ねる。
「ハッハッハ! 丸いの! 面白ぇじゃねえか。これからも、カイルをよろしくな!」
「とーぜん!」
ライムは即答してくれた。こちらとしても頼もしい限りだ。
アミカさんはふぅ、と息をついて、真剣な表情で俺に話し掛けた。
「カイル、頼みがある」
「何ですか? 改まって」
「実を言うとな、俺はもう動けん。……頼んで悪いが、ギルド職員に、救援を要請してくれないか」
崩れ落ちる様に座ったことから、違和感はあった。そんなに悪いのか、俺は現状をアミカさんに伺った。
「ちなみにですけど、分かる範囲の具合は?」
「毒は、無さそうだ。囲まれていた時に、両足、後は右腕だな。やられた。」
「不動で無理矢理動いていたんですか! なんでそんな無茶を……!」
「ニスイが抜けても、ダンジョンへ強行したのは、俺だ。責任は俺にあるし、二人の安全も確保しなくちゃな」
アミカさんのスキル、不動は、ダメージを受けても、いつもの様に動けるというものだ。スキルを解除した時点で、やられた痛みの蓄積が、一気にくるので、言い方は悪いが瞬間的、その場しのぎのスキルだと思ってる。
「こうしてカイル達が来たのも渡りに船だ! ……っと、俺は待ってるから、皆と一度戻ってくれ」
「一人でって……ここに一人で残るんですか!? 危険すぎますって!」
「なぁに、敵が来たら不動を使って、なんとか耐えてやるさ」
アミカさんはそう言いながら、力無く手を上げた。
「ハディットさんもベラートさんも、何か言ってくださいよ! 救援なら呼んできますから!」
「私は……帰るわよ。こんな薄暗いところに、いつまでも居たくないわ」
フン、と鼻を鳴らすハディットさん。
「……」
ベラートさんは何も答えない、コイツら……。
俺が、ライムだけでも護衛に付けようと思った時、アメルから声が掛かった。
「カイルさん」
「どうしたアメル、敵か?」
「いえ、違います。その……」
俺が不思議そうに見ていると、アメルは意思を固めた様でこう言った。
「私が、治します」
治す、と申し出たアメルに、アミカさんは苦笑しながら、手を振って答えた。
「嬢ちゃんアメルって言ったか? 気持ちは嬉しいが、それは難しい。これだけの傷だ。自慢じゃないが、俺じゃなきゃ意識が飛んでてもおかしくない。この傷を治すには、それこそ高位の回復薬、回復職じゃないと--」
「あの」
「ん? なんだい?」
「ちょっと、黙ってて下さい」
「お、おう……すまない」
アメルの怒気がこもる声に、アミカさんも気圧された様だ。アメルが、壁へ寄り掛かっているアミカさんの側へ行き尋ねる。
「確認、させて下さい。お身体の異常、毒や病気等はないんですよね?」
「あ、あぁ。それは感覚的に間違いないはずだ」
「分かりました」
アメルが眼を閉じ、集中をする。そして、ゆっくりとアミカさんへ手をかざす。
「おい、お嬢ちゃん。何を--」
「癒しの羽衣」
アメルがそう言うと、宙に、透き通った水色の羽織が現れた。あまりの美しさに、俺達は息を飲んで見惚れてしまう。その羽織は、そのままゆっくりとアミカさんへ掛けられる。眩い光を発して、その羽織は消えて無くなった。
「アメル、今のは……」
「……このスキルが発現してから、叔父の眼の色が変わりました」
アメルは、少し悲しそうに言った。叔父というのは、あの男の事だろう。俺は言及しなかった。
「おい、おいおい……どうなってんだ。傷が全部治ってるじゃねぇか!」
立ち上がったアミカさんは、自身の状態を確認する。先程とは違い、動きに力がある。
「アミカさん、歩けそうですか?」
「あぁ! 歩けるどころじゃない、気力も十分に戻ってる! このまま奥まで行けそうだ!」
まぁ、冗談だけどな! と、笑いながらアミカさんは言った。
このレベルの回復は、アミカさんが言っていた通り、高級な回復薬か、高位の回復魔法、スキルが該当する。この能力なら、回復役のいないパーティーなら、喉から手が出る程欲しいレベルだ。
こうして、万全になったアミカさんを先頭に、俺達は初めてのダンジョン探索を終了した。




