ランクス
「はー! ……疲れた!」
扉が閉められて二人が居なくなってから、ウチは椅子に身体を預け、思いっきり脱力した。
脱力した原因は、終始気を張っていたからだ。勿論、スキルを使用したからとかではない。そんなこと言ってたら仕事にならないし、そもそもスキルで疲れた事はない。
あの、スライムだ。
「なんなん……あの化物は」
ギルドから、希少種だと聞いていた。これはまた、面白い魔物をテイムしたなと思ったものだ。
だが、実際に目の前で視たスライムは、ウチの常識なんか通用しなかった。
【鑑定士】としての熟練度は、この仕事もあってか相当高いと思ってる。
しっかり視れば、相手のステータスや、スキルも確認することが出来る。興味本位で、スライムを視てしまったことに後悔していた。スキル、ステータス、どちらも出鱈目だった。
「ランクス様、どうぞ」
「……ん」
フルーラが用意してくれた飲み物を受け取り、一気に飲み干す。冷たい喉ごしが、脱力した身体に活を入れてくれる。
飲み干したコップを机に置いて、フルーラに聞いてみた。
「フルーラ」
「はい」
「カイルの肩に乗ってたスライム、見ただろ? あれに、勝てる?」
フルーラは一考して、ゆっくりと自身の考えを伝えてくれる。
「どう、ですかね。元からスライム系統には、打撃や斬擊の効果は薄いと言われています。完全に武装したとして、私一人では、厳しいかもしれません」
「だよね」
フルーラは、自身の実力を正しく見積もっている。驕りはなく、淡々と事実を述べている。
ウチから見ても、フルーラの実力はこの都市指折りだ。そのフルーラに、勝てないかもと言わせるスライムが、いかに常識外れか分かる。
「それにしたって、スライムだぞ? その辺にいてもおかしくない、ほぼ無害な魔物なのに……」
とんでもないのを従魔にしやがって。ウチは複雑な心境になりながらも、フルーラに伝言した。
「フルーラ」
「はい」
「ギルド通して【監視者】に連絡入れといて。名はカイル、従魔はスライム」
「ら、ランクス様、それは……」
珍しく狼狽えるフルーラを見て、まぁ落ち着けと手を振る。
「別にアイツのこと疑っちゃいないけど、仕事だからね」
そう、カイルに限ってそんなことはしない。思ってはいるが、仕事だから報告せざるをえない。
分かりましたと言って、ギルドへ向かってこの場を後にするフルーラ。入れ替わりで、扉の衛兵が中に入ってくる。過保護だねぇ。
静寂が漂う場で、ウチは大きく溜め息をつく。衛兵がビクッとしていたが気にしない。
【監視者】へ伝わり次第、カイルは対象の仲間入りだ。強者であり、そして--都市を危険に晒す可能性のある一人として。
「大丈夫、だよな? カイル……」
心配してもキリがないと、ウチは両手で頬を叩き、仕事モードへ戻る。衛兵がまたビクッとしていた。




