転職の館.2
「さて、と」
ランクスは、眼でどっか行けと俺を睨み付けてくる。
俺が後ろに下がると、アメルを手招きして対面の椅子へ座らせる。
仕事道具の眼鏡をかけ直し、机を挟んでランクスがアメルへ話し掛ける。
「ごめんね? 話し込んじゃって。私はランクスっていうよ。よろしくね」
「あ、アメルです。よろしくお願いします」
にこやかに話し掛けてくるランクスに、アメルはどうしていいか分からない様子だ。
「アイツとは腐れ縁だから。ウチは、普段からおしとやかなんだよ?」
「おしとやかな人は、一人称がウチにはならんと思うぞ」
そこ、黙ってろい! とランクスは指差ししてくる。言いたいことは山程あるが、話が進まないので、大人しく見守ることにした。
「大体こんな所に缶詰にされて、お客さんは殆ど年上だし、女子がくるのなんか稀なんだよ? 年頃の女の子に酷いと思わない?」
「は、はぁ」
「たまに外に出れたと思ったら、護衛もバッチリつけられてさ。行くとこも貴族の所とかだったりして、観光も出来やしない!」
「おーい、ランクス?」
「だから、同じ年代の子が来てくれて嬉しい訳よ! 分かる?」
めっちゃ不満出てるけど。ギルドこれ、ランクスのガス抜きもしてやってくれ。
後方で、控えているフルーラさんと眼があった。フルーラさんは微笑みながら、手で謝ってくれた。
まぁ、フルーラさんが居るし大丈夫か。俺は謎の安心感を覚えていた。
机では、マシンガントークを続けているランクスと、困惑しながらも、ちゃんと相槌を打っているアメルの姿があった。
「そんな訳だからさ! ……とと、話が逸れちゃったね。それじゃあ本題に入ろうか」
そう言うと、ランクスは引き出しから書類を取り出した。
「じゃあ、アメルちゃん。ここにサインだけお願いね? 怪しい書類じゃないよ、ギルドからの正式なやつ」
机に置かれた書類を真剣に読むアメル。俺も後ろから、何が書いてあるか確認しようとするが、嫌そうに俺を見ていたランクスが、先んじて内容を話してくれた。
「これはね、ざっくり言うと、どんな職業になっても文句は言わないでねっていうのと、返金は出来ませんっていうやつ。後、一人につき一回しかスキルが使えないから、変わったら元に戻せないけど、それでも良い? って内容が書いてあるよ」
「一人一回なのか」
「そーだよ。前に、お前みたいなレアな職業変えたら、ウチが消されるって言っただろ。取り返しきかないの」
一人一回しか効果がないのは初耳だった。それでも、アメルの意思は変わらない様だ。真剣な表情で、スラスラとサインを書いていく。
その様子を見て、ランクスは口角を上げた。
「これで、良いですか?」
「……アメルちゃん、貴女良いね! そこのとは大違いだ、勢いが良い!」
「おい」
「そこまで意志が固まってるなら、何も言わなくていいね。すぐに始めるけどいい?」
「は、はい! お願いします!」
「良い返事だ。おい、カイル。前払いだ、先に寄越せ」
「お前、俺の扱い酷くない?」
手をクイクイと、俺へと向けるランクス。
「金の件とか、職業が変わった後とか、前は色々あったんだよ。今はこの形に落ち着いたの」
はよ寄越せと催促をするランクス。渋々、十万の入った包みを机に置く。ランクスは、それを手に取り、後ろのフルーラさんに放り投げる。
フルーラさんは、投げられた包みを見事にキャッチして、そこからお釣りの一万を取り出し、俺の元へ。丁寧に返してくれた。
「いつも、ランクス様と親しくしてくださり、ありがとうございます」
「いえ、フルーラさんも、お疲れ様です」
「いえいえ。ランクス様を見ているのは、楽しいのですよ?」
では、と俺に一礼して、フルーラさんはランクスの後ろへと戻り姿勢を正す。
よし、やるかっと、ランクスはストレッチをしながら、指を慣らしている。
アメルは、後ろ姿でしか分からないが緊張してるんだと思う。今後の--それこそ人生を決める大一番だ。緊張しない方がおかしい。
それに比べて、ランクスはいつも通りの調子で、事を進めていく。
「それじゃあ、いくよ?」
アメルの身体が、一瞬強張った。
「……よろしく、お願いします!」
ランクスは両手をアメルへかざし、スキル名を口にする。
「職転」
目映い光がアメルを包み込む。しばらくすると、光は収まり、静寂が訪れる。
「よし、と。それじゃあ、確認するよ」
ランクスが、アメルを見つめる。【鑑定士】のスキルだ。熟練度次第で、相手のステータスを丸裸に出来るらしいが、村の鑑定で、ランクスが職業を確認できることは知っている。
職業とスキル、噛み合ってるよなぁ、と俺は改めて感心した。
「……うん、うん。珍しいのに変わったね」
「何に……なったんですか?」
当事者のアメルも、自分の職業が何になったかは分からない様子だ。
「んーと、【射士】だね」
聞きなれない職業に、アメルはピンときてない様子だった。




