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転職の館

 ジェシカさんが、急いで処理してくれた報酬金を全額受け取って、俺達はギルドを後にした。


 十万という大金を持ち歩く経験なんか、今まであるわけもなく、お金をが入った包みを受けとる時、とにかく手が震えた。


 今は多少、落ち着きを取り戻して、ギルドから徒歩で目的地まで進行中。


 ギルドから数分も掛からない所に、件の場所はあった。


「ここが……」


「あぁ。ここが説明した転職が出来る唯一の館、ボカティオパレスだよ」


 立派な建物で、扉の前には衛兵がいる。しっかりと装備をしており、ここがいかにセバンタートにとって、大事な場所か分かる。悪さをしようもんなら、すぐに捕まってしまうだろう。


 外で見張りをしている衛兵に説明し、中へ入る。


「いらっしゃ……なんだカイルか。今日はもう店仕舞いだ、帰れ帰れ」


「今、自分でいらっしゃいって言ってなかったか?」


「今、店仕舞いしたの」


 にこやかな顔で迎えてくれたのも一瞬、今はシッシッと手を振り、俺を帰そうとする彼女。ランクスは、黒髪で神官の格好をしている。


 仕事の際は眼鏡を掛けているが、早速その仕事道具もしまい始めた。マジで帰る気か。


 ランクスは、村で俺を鑑定してくれた職業【鑑定士】だ。そこから、そこそこ長い付き合いになる。


 向こうも、俺だけに何故か態度が悪い。俺が何したって言うんだ。ランクスの態度につられて、俺も砕けた口調になってしまう。


 アメルは、そんな俺をじーっと見つめていた。慌てて俺は、ランクスに説明する。


「訳あってこの子、アメルの身元を引き受けた。彼女が冒険者になりたいと希望したから、ここへ来たんだよ」


「……へぇ、この子が」


 アメルを、まじまじと見つめるランクス。見られていたアメルは、次第にもじもじとし始めた。


「わ、私、何か変でしょうか?」


「いや、可愛いからカイルに変なことされないといいなって」


「おい」


「冗談だよ。お前は、スタイル抜群なのが好きなんだよな?」


 何故か、顔を真っ赤にしているアメルと、おかしそうに笑うランクス。


 俺は深いため息をもらし、もういいかと前置きをして本題に入る。


「そんな訳だから、お前の力を借りたい。いくらになる?」


 ここへ来ることは何度かあった。だが、仕事をしている所には出くわした事はないし、相場も分からない。ジェシカさんも、あそこは高いわよ、と言うだけだった。


 唯一のスキル持ちであるランクスは、ギルドから、自身のスキルを悪用しない、されない様にと、安全と監視の両方の側面から、厳重な警備体制をとられている。


 その代わり、といってはなんだが、本人から不満が出ない様にするため、ここの金額はランクスの自由に出来るらしい。


「誰が払うんだ?」


「俺になるな」


「今いくら持ってる?」


「足元見てくるな……お前も知ってるだろうが、報酬金の十万だ。ある程度、生活費は残したいから、七万位だと嬉しいんだが」


 俺からの提示に、ランクスは呆れた表情になり頬杖をする。そのまま、俺を睨み付けてきた。


「ぬるい」


「は?」


「ぬるすぎるんだよ。人生変えるんだろ? 多少の保険は残したいだ? 人生変えるなら、借金してでも死ぬ気でやれってもんだろ」


 やる気あんの? と厳しく言われてしまう。七万でも、ここで暮らしている人達からすれば相当な額であるが、ランクスの中では金額の問題じゃないらしい。


「有り金だ」


「え?」


「十万全部、アメルちゃんに賭けてみろ。ちょっとは気前よくいこうぜ? Eランクになったんだろ?」


 有り金寄越せとか、言ってることが強盗と遜色ないレペルだが、それに見合う力がランクスにはある。


「……分かったよ。そこまで言うなら、ちゃんとやることやってくれよ?」


「ウチが、仕事で手ぇ抜いたことなんてねぇよ」


 見られてるしな、とランクスは親指で後ろを指す。ランクスの後方には、スーツ姿で執事のように控えている衛兵がいた。


 衛兵の名は、フルーラさん。


 初めてボカティオパレスを訪れた時から、ランクスの衛兵をやっていた人だ。人当たりも良く、にこやかに接してくれる好青年だ。


 年は俺より上っぽく見えるので、勝手に、兄がいたらこんな感じかなと思っている。


 フルーラさん、いつもありがとう。


 俺はその後、アメルの装備を整えなきゃいけないと、ランクスへ渾身の土下座をかました。


 その時の、ランクスがドン引きした表情と、装備整えてから来いよ……と呟かれた言葉を、俺は、忘れない。


 結果、九万にまけてもらえることになった。

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