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選択.2

「……っ!」


「痛みますよね……すぐに終わりますから少しだけ我慢してください」


 受付の方に通されて、私は別室へ連れられた。医療班、と呼ばれているギルドの職員さんが、私の治療をしてくれている。


 足裏へかけられた回復薬が痛い。裸足になった後も構わず走り続けていたから、段々感覚が無くなってきてたけど、一旦休んでしまうと凄い痛みに襲われた。


 家に連れ戻された時は、痛みで食欲もわかなかった。そんな様子を見て、叔父は苛つくように階段を上がっていったっけ。


 ーーもう、逃げることも出来ないと思っていた。


 初めて逃げようと試みたけど、私個人の力なんてたかがしれていた。すぐに、ギルドの冒険者に捕らえられてしまった。痛みで、都市内でうずくまっていた私が悪いとも言えるけど。


 職員さんが、しばらく安静にしていてくださいと言い、この場を後にする。早ければ、今日中には傷は治るようだ。殴られた頬も、綺麗になると教えてもらった。


 私は、ベッドへ横たわる。


「……カイル、さん、とライムちゃん」


 これまでの出来事を思い返す。私を捕まえ、そしてあの場所から助けてくれた冒険者、カイルさんは、職業が【従魔士】と言っていた。使役していたのは、スライムのライムちゃん。


 ライムちゃんは、とにかく凄かった。足の速さだけはちょっとだけ自信があったんだけど、すぐに捕まってしまった。


 カイルさんは、多分年齢が私と同じ位。それなのに、冒険者をしていて【農民】の私には、それがどれほど凄いことか想像も出来ない。


 そしてそれが依頼とはいえ、両親以外で初めて、私を私として接してくれた人。道具としてじゃなく、ありのままの、私を。


 ーーもっと、お話、してみたいな。


 そんな事を思っていると、部屋のドアがノックされた。返事をすると、入って来たのは受付の方だった。会釈をして、近くの椅子へ腰掛ける。私も会釈を返した。


「アメルちゃん、でいいわよね? 私はジェシカ、ここの受付を主に担当しているわ」


「はい、あ、あの、何かご用でしょうか……?」


 これから何を言われるか分からず戸惑っている私に、ジェシカさんは苦笑して、話をしてくれた。


「そんなに怯えないで? 取って食べよう、なんてことはないんだから」


「は、はい。すみません……」


「冗談よ、足の具合はどうかしら?」


 痛みはほとんど無くなっている。傷はちらほら見えるけど、動かしても何ともない。


「大丈夫、みたいです。……ありがとうございます」


「仕事だからいいのよ、気にしないで」


 ジェシカさんは笑顔で答えてくれた。


 その後、確認の為と言われて家での過ごし方や、どういった事をさせられたかを聞かれたまま話す。私のスキルに関しては、話したくないのもあって俯いていると、ジェシカさんは優しい口調で話してくれた。


「聞かれたくない過去なのは分かるわ。話すのも辛いでしょうに、ありがとう。これだけ証言があれば、後はなんとでもなるわ……それにしてもあの男、男として風上にも置けないわね!」


 私の為に、怒りの感情を見せてくれたジェシカさんに、嬉しくて泣きそうになった。それをみてジェシカさんが辛かったね、と優しく頭を撫でてくれる。乗せてくれた手が温かい。両親に撫でられた事を思い出して、結局泣いてしまった。



 私が泣き止むまで、ジェシカさんは待っていてくれた。


「す、すみません……お見苦しいところを」


「貴女はまだ子供よ? 感情を殺してしまっては、ダメ」


 ジェシカさんは優しく諭してくれた。そして、本題はここからなんだけど、話してもいいかしら? と言われ、鼻をすすった後に頷いた。


「アメルちゃん、貴女には三つ、選択肢があるわ」


「三つ、ですか?」


「そう。まず一つ目。治療が完治したら、元いた村に」


「戻りません」


「……でしょうね。真っ先に拒否が出ると思ったから、先に提示させてもらったわ」


 あの村に戻る? あり得ない、それを選択する位なら、今度こそ本当に死を選ぶかもしれない。


「二つ目と、三つ目の選択肢は同時に提示するわね。奴隷制度に則るか、カイル君に身元を渡すかよ」


「え?」


 そこで、お話をしたいなと思った人物の名前が出て、私は思考が止まってしまった。


「どちらもメリット、デメリットがあるわ。奴隷制度は、衣食住に関して不備が出ることはないわ。そういう制度だから。代わりに、アメルちゃんの意見も通りにくいのはあるわね。主従関係になるから、どうしても主人が上の立場になるの。だからといって、とんでもない要求をされたりというのは基本的にないわ、そこは主従を結ぶ際に要確認になるわね」


 奴隷制度。ジェシカさんの話を聞く限りは大丈夫そうに思うけど。


「あ、あの。もう一つの方は……?」


「……本当は、村へ戻るか奴隷制度を活用するかの選択だけだったの。それが、今朝方にカイル君が来て、アメルちゃんの身元引受人になる、っていうもんだから驚いちゃった。選択の候補に上がったのよ」


 私を……? どうして身元を? 聞きたいことが多すぎて、言葉を上手く発せなかった。


「こっちの方のメリットはね、アメルちゃん自身の自由意志の尊重かな。アメルちゃんが、こんな身元引受人嫌だー! ってなれば、アメルちゃん自身で関係を解消出来るのが大きな点ね」


 ーー縛られる事がない。それだけで、私は魅力的に感じた。叔父は私が何を言っても、聞く耳を持ってくれなかった。でも、あの人……カイルさんは、ちゃんとお話を聞いてくれそうだと思った。


「デメリットは、そうね……金銭面が安定しないことかな」


「そ、そうなんですか?」


「うん、カイル君はね、ライムちゃんをテイムするまで二年間、ほとんど収入がないの。ギルドが支援しているから、なんとかやってこれた形ね」


「そう、なんですね……」


「ライムちゃんをテイムできて、これからどのくらい稼げるのかは正直、未知数ね。ゼロって事は無くなるだろうけど、ちゃんと稼げるかは分からないわ」


 そう言って、ジェシカさんは一枚の用紙を差し出した。


「これが、身元引き受けの合意書ね。ここ、カイル君のサインが入っているでしょう? 二人の記入が必要なの」


 合意書には、カイルさんのサインが入っていた。


「今後を決める、大事な判断よ。焦らなくていいけど……明日の朝にカイル君が来てくれるから、身元引き受けの方は、受けるか断るかだけ決めておいてほしいな」


「わ、分かりました」


「それじゃあ、受付の方に戻るから。何かあれば何時でも言ってちょうだいね?」


 そう言って、ジェシカさんはドアに手をかける。そのまま立ち止まり、こう呟いた。


「……カイル君は、いい子よ。それは、二年見てきた私が保証します」


 ジェシカさんがこの場を後にして、残されたのは静寂と机に置かれた一枚の用紙。



 ーー私は、迷うことなくペンを取った。

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