選択
「何かあるかなと思ったけど、これ程とはね……」
ギルド本部へ着いた俺達は、事の経緯をジェシカさんに説明する。
俺が書いた報告書に、目を通しながら話を聞いていたジェシカさんは、怪訝な表情をしていた。
一旦、アメルはギルド本部で保護の形を取ることになった。足の傷もそうだが、至るところに傷やアザがあった様で、ギルド職員も驚いていたそうだ。
今は治療を施してくれている。幸いなことに、回復薬や、回復が出来る職員もいるらしく、怪我は経過で跡形もなく治るそうだ。
「まぁ、またあの男は来ると思うけど、それはこっちに任せて。問題は、あの娘の今後ね」
「今後、ですか?」
えぇ、とジェシカさんは頷く。男の話では、アメルの両親は亡くなっている。身寄りが居ないことになる。
「流石に、あの村に戻りたいとは言わないでしょう。一度逃げていた程だし。そうすると、ギルドでも、ずっと保護する訳にもいかないからね……」
「……そうですよね」
「奴隷制度……私は、あまり好きじゃなくてね」
Bランク以上なら、本部での勤務も斡旋できたんだけどね、とジェシカさんは呟く。
行き場を無くした者達の、最後の拠り所。奴隷制度。
ギルドから厳しい条件提示はあるが、それを満たしてしまえば、奴隷として使役することが出来るようになる。
奴隷となった者が、主に使役されるのは肉体労働だ。
衣食住は確約されるが、自由意志はない。それは、条件には含まれていないらしい。
他にも、滅多に居ないが、奴隷商人に買われる場合もあるようだ。俺には細かいことは分からないが、ジェシカさんが、簡単に説明してくれた。
アメルも、身元を引き受けてくれる人がいない限り、村へ戻るか奴隷への斡旋かを、自分の意思で決めなければならない。
「ギルドで保護しちゃった上に、事情を知ってる職員が大勢いるからね。治療してはい終わり、とは出来ないのよ」
私一人ならなんとかなったけどね、と苦笑しながらジェシカさんは言った。
多数の職員が、アメルの保護へ関与してくれているので、見て見ぬふりをするのは難しいみたいだ。
「まぁ、傷が癒えるまでは、こちらで保護しているから。何かあればまた声を掛けてね」
「はい、ありがとうございます」
ジェシカさんにお礼をして、ギルドを後にした。
悩む。俺の一存で、彼女の今後を決めて良いのか。だけど、彼女への選択肢がどちらも良くないことは分かってる。
彼女は、助けを求めてた。俺は--
そう考えていると、悩んでいることなんかお構いなしに、ライムが元気良く話し掛けてきた。
「さんにんであそぶの、たのしかった! またやりたいね!」
「三人で……そっか、そうだよな。面白かったもんな!」
「うん!」
俺は、器用に跳ねてるライムを見て、腹をくくった。最終的には、アメルが決めることだ。なら、なるようになれだ。
翌日。腹ごしらえを済ませてから、ギルドへ向かった。
中では、男が怒りの形相でギルド内に響き渡る声を出し、周りの冒険者が険しい表情になっていることも構わず、受付にいるジェシカさんへ詰め寄っていた。
「だから! アメルを出せって言ってるだろ! 話聞いてんのか?」
「彼女は現在治療中です。治療に携わっている者しか、入れない様になっています。勿論、私もです」
ジェシカさんは、毅然として対応している。
「それなら、終わり次第引き渡せ! こっちは近々、大事な用件があるんだ!」
「なりません。此方では、酷く虐待をされていたこと、地下へ軟禁していたことも把握しています。村へ今後、正式な捜査が入ることを覚悟してください。貴方が、一番の当事者ですからね?」
処罰が重くなるかもしれませんが、まだ続けますか? とジェシカさんは男を睨み付ける。
男は苛つきを隠さず舌打ちをすると、仰々しくギルドの出入り口へと歩き出す。
出入り口の前で、立っている俺と目があった。
「……てめぇだろ。どうやったか知らねぇが、覚えとけよ」
それだけ言うと、どけ、と肩でぶつかってきた。
男が完全に立ち去ってから、俺はぶつけられた所を手で払い、受付へ向かった。
先程とはうってかわり、げんなりとしている様子の、ジェシカさんと対面した。
「カイル君、おはよう。案の定朝から来たわぁ……酒臭いし、嫌になるわね」
「おはようございます。ジェシカさんの読み通りでしたね、お疲れ様です……」
ジェシカさんは、こんな嫌な予想当たらなくて良いのよ、と力無く手を振っている。
「それで、今日はどういった用件? 彼女の傷は、まだ全快じゃないから、カイル君でも会えないわよ?」
ジェシカさんは、不思議そうに尋ねる。流石に、依頼を受けに来たとは思っていないようだ。俺は、決心したことを、ジェシカさんに伝える。
「彼女……アメルの身元を引き受けます」
「冗談、じゃなくて……ホントに言ってる?」
「はい。色々考えたんですけど、多分これが、俺がアメルに出来る、唯一の選択なんで」
そう言うと、ジェシカさんは少し呆れた様だが、俺の決意が固いことを感じたのか、諦めたように、今後の事を話してくれた。
「その選択は、先ずは彼女が決めることよ。それは、分かってるわね?」
「はい」
よろしい、とジェシカさんは、引き出しから紙を取り出して何かを書き出す。書いている途中で、ペンの動きを止め、こちらを見ずに告げる。
「恐らく……君の行動次第で、彼女が幸にも不幸にもなる。それは、忘れないで」
はい、と俺が真剣に答えると、ジェシカさんは納得した様子で改めてペンを走らせる。書き終わった紙を、俺に渡してきた。
紙は、二枚ある。
「一枚は、身元引受けの合意書。二人のサインが必要だから、先に書いておいて。もう一枚は、もっと早く渡す予定だったんだけど、昇格の書状よ」
書状にはこう書かれていた。
『カイルを、E級の冒険者と認める。セバンタートギルド本部』
「あ、ありがとうございます」
「希少種をテイムした時点で、昇格の条件は満たしていたんだけどね。ほら! 嬉しいのは分かってるけど、合意書のサイン先に書いちゃって!」
すみません、と俺は慌ててペンを借りサインを書き入れる。
サインした紙を受け取ると、ジェシカさんはひっそりとした声で教えてくれた。
「多分、今日中には完治するわ。今日の内に彼女に確認しておくから、明日また、今と同じ時間かな。ここへ来てもらってもいい?」
「分かりました」
「ありがと。今日は、何か依頼を受けていく?」
「いえ、集中出来なそうなんで、今日はゆっくりします」
「分かったわ。改めて、昇格おめでとう。カイル君」
笑顔で祝福してくれるジェシカさんに、ありがとうございますとお辞儀をして、ギルドを後にする。
明日は忙しくなるなと思い、早めに宿を探すことにした。




