救出
夜。昼とは一転し、どんよりとした雲が月を隠し、今にも雨音が聞こえてきそうな位、暗く広がりを見せている。
雨が降ると、俺達は良いが彼女の身体に障るといけない。
「……急ぐか」
俺は、肩に乗っているライムへと触れる。昼に、街道で向かい合っていた時には、発動しなかった。カッコつけでスキル名まで言ったのに、何も起きなかった時は、テイムしたかったのに出来なかったあの頃と重なって、恥ずかしくなった。
対象の従魔へと触れることが、このスキルの発動条件みたいだ。
「従魔融合」
スキルを発動する。ライムの身体が、スッと溶け込んで、俺の中に混ざり合う感覚がある。違和感はない、昼に試しておいて良かった。
間接や、骨の部分が感じられない。どこかフワフワした感じで、それでいて、歩行や走るといった動作は意識すれば出来る。ちょっと楽しい。
恐らくだが、スライムの特徴を、スキルによって会得したという事だろう。
それ以外にも打撃、斬撃無効。魔法耐性弱化、再生能力といった、ステータス面での大幅な変化があった。
魔法が使えない対人、魔物に対しては、大幅な優位を築けそうだ。
ライムと、このスキルに心の中で感謝しつつ、件の家へ向かう。
この村の離れた場所に、ポツンと家は建っていた。
俺達は、そのまま裏手へと回る。家の土台部分に、格子状の縦穴がある。この中に、彼女を発見したとライムは言った。
(この中だよな?)
(うん、ここにいるよー!)
融合している従魔とは、喋らずとも会話が出来る。昼に発見したことだが、隠密には便利だなと、早速活用する。
(よし、いくぞ。ライム、頼んだ!)
(まかせてー!)
俺は力を抜く。身体の主導権は、あくまで俺にある。しかし、従魔に主導を渡せることも把握した。
昼に一度、主導権を渡したら、とんでもないことになったが、これは別の話。
身体が溶けていく。正確には、液体になっていく感じと言った方が正しいか。
元々融合した時点で、間接や骨といった、人間的な所はなくなっていた。融合解除をすれば、元に戻るのが不思議な所だ。
液体になった俺達は、ライム主導の元、格子状の穴へと向かって勢いよく進み、中へと侵入する。
ーーそこに、彼女はいた。
少女は、地面へ横たわり、身を守るように丸まって休んでいる。
足枷を両足にはめられており、先には逃げられないよう重りが付いている。
テーブルには、パン一枚と水という、質素な食事が置かれていたが、手をつけていないようだ。
頬には殴られたのか、変色した部分もあり、沸々とした怒りを感じた。
俺は、意識してその感情を隅に置き、形状変化をし、人型へと戻った。
「融合解除」
少し光が差し、辺りが明るくなる。閉鎖空間であるこの場所では、外へ僅かに光が漏れただけだった。
俺とライムが分かれた所で、彼女は眩しさに目覚めた様子で、身動ぎをする。
俺は彼女の側へ行き、静かな声でゆっくり話し掛けた。
「アメル、起きてくれ」
「……!? だ、誰です--」
「シーッ! 落ち着いて、俺だよ」
俺が指を立てると、慌ててアメルも口を覆う。物音はない。どうやら、気付かれてない様だ。
静かにね、と俺が促す。アメルも首を縦に振って頷いてくれた。
「助けに来た、ここから逃げよう。ギルド本部まで行けば、匿ってくれるはずだ」
アメルは、突然の状況を飲み込めない様子で、声は押さえてくれているが、慌てている様子だ。
「え、あ……で、でも、どうやって? 私が逃げることなんて……大体、どうやって、ここまで来れたんですか?」
「俺には優秀な、仲間がいるからね。ライム、アメルの足枷を取ってやってくれ」
オッケー、といつもより控えめな声で、アメルの足元へ。そのまま、足枷のある部分へ覆い被さると、足枷だけ溶かし落とした。繋がれていた鎖がゴトリと落ちる。
予め立てておいた作戦だ。やっぱり足の跡は、枷を付けられてたんだな。
アメルは、信じられないといった様子で、こちらを見ている。しかし、下を向いて申し訳なさそうに言葉を発する。
「でも、私が逃げた後、上の扉も鍵を掛けるようになってしまって……ごめんなさい」
そう言われて、アメルが指差す方向には、上へと繋がる階段と、固く閉ざされた扉があった。
「ライム、いけるよな?」
「とーぜん!」
段々と、声が大きくなるライム。そっちの方が心配だと思っている俺を横目に、ライムは階段を跳ねていき、扉に吸われるように上へと消えていった。やがて、ガチャリと解錠された音が鳴り、ライムが一度、すり抜けて降りてくる。
その様子を、アメルは呆然と眺めることしか出来なかった。
「ね? うちの仲間は、優秀なんだ」




